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坂上はこれ以上は無理だと判断した。
ここまで感情がない人間なら、たとえ嘘を言われてもベテランの坂上でも気づくことはないだろうと思ったからだ。
「そうですか。どうもお邪魔しました。でも、何かありましたらまた訪ねてきますから」
「はい、いつでも来てくださいね」
二人は家を後にした。坂上が小山田に言った。
「おい、あれをどう思う」
「まるで人間とは思えなかったですね。心がないと言うか、なんというか」
「おれも同じだな。とにかくあれは尋常じゃない」
「そうですね」
「とにかくこの家を見張るぞ」
「はい」
二人で見張っていると、一人の老男性が家に向かっていた。
二人は老男性に声をかけた。
「あの家の住人ですね」
「はい、そうですが」
二人は警察手帳を見せ、坂上が言った。
「ずばり聞きますが、奥さんの様子はどうですか」
すると男性はぶるぶる震えながら言った。
「あれは妻じゃない。なんだかわからんが、間違いなく妻じゃないんだ。ひょっとしたら人間ではないのかも。とにかくものすごく変だ」
「そうですか」
その後少し話をしたが、話に進展も変化もなかった。
老男性は明らかにおびえながらも、自分の家に帰って行った。
「ものすごく怖がっていましたね」
そう言う小山田に坂上が答えた。
「あれだけ怖がっているのに、あの家から逃げ出そうとせずに帰って行くんだな」
「そうですね。でもどうしてでしょうか」
「おそらくだが、田舎の集落で生まれ育った人間はそんなもんなんだろう。この狭い世界がすべてで、外の世界はほとんど知らない。だからどこかに逃げると言う発想すら浮かばないんだろうな」
「そんなもんなんですかね。このままでは次に誰が消えるのか、ある程度は予測がつくと言うのに」
「だからそんなもんなんだろうな。子供の頃から何度も住む場所を変えた俺には、まるでわからんことだがな」
とにかく二人は、老夫婦の家を見張ることにした。
何かあればすぐにでも家に飛び込める準備をして。
そして夜も交代で休みながら見張ったが、外から見れば何の変化もなく朝を迎えた。
そして正午前、集落の長老が家を訪ねて初めてわかった。
老夫婦の妻の方が姿を消していたのだ。
二人が見張っている間、家から誰一人出てこなかったというのに。
本部に連絡を入れた後、二人は家を訪ねた。
中には老夫婦の夫の方だけがいた。
坂上が聞いた。
「失礼ですが、奥さんはどうしました」
「私は何も知りません。気がついたらいつの間にかいなくなっていました」
その顔その声に、人間らしいところはかけらもなかった。
その点においてはいなくなった妻の方と同じだった。
「私たちの知っている限りでは、この家からは誰も出ていないんですがね」
「そうなんですか。でも私は本当に何も知りません。気がついたら妻がいなくなっていた。それだけです。ほんと、わけがわかりませんが」
「ちょっと家を見せてもらえますかな」
「はい、いいですよ。どうぞ」
本来なら家宅捜索の令状が必要なのだが、坂上はそれを無視し、小山田もそれにならった。
たいして大きくない家。
押し入れなどはもちろんのこと、天井裏から床下まで徹底的に調べたが、そこには誰の姿もなかった。
「刑事さん、終わりましたか」
気持ち悪いほどの無表情、無感情で老男性が言った。
坂上は、感情がないと言うことがこれほどまでに不気味なものなんだと、あらためて感じた。
「終わりました」
「いろいろと失礼しました」
二人は家を出た。




