四日目 少女と会話
※※※※※※※※ 四日目※※※※※※※※※※※※
啓之助が嫌な表情で居る。
「裏の山に等、桜はなかったよ。其の様な御神木なら気が付いたに決まっている。」
「でも、見事な桜ノ木でしたよ。」
神社にあった布を繕いながら云った紅時は、ほつれを直しながら、上手に縫っている。
「神社もある開けた場所だった。差ほど、広くは無いが、子供が遊ぶにはちょうど良い広さだったな……。下の枝が折れていたし、満開で素晴らしかった。」
終を、抱っこしながら、秋が付け加えた。
「見事な枝振りでしたね。」
紅時は微笑む。
「では、其の場所に案内してくれないか……。俺だって見てみたいな。満開の桜だろ。」
秋と紅時は見詰め合った。
「すまない。子供達の約束なのだよ。場所は教えられない。もう、十分、見たし、連れて行く訳には行かない。約束を守りたいのだ。」
「子供の言葉を真に受けて、つまらない。どうせ解りはしないさ。」
秋が溜息付いて、嫌な視線を投げた。
「子供だからこそ、約束を守るべきなのだよ。大人が嘘を付いたら、当たり前に嘘を付く子になる。」
「私も賛成です。先生として慕ってくれているなら、守るべきです。」
「終の影響にも繋がるか……。」
啓之助は、秋に抱っこされている子供を見た。
無邪気な瞳をしている。
「分かったよ。行かないよ。でも、誰が枝を折って、玄関迄持ってきたのだ……。其も、何回も……。一回ならまだ遊びだろうが、紅時の握り飯が気に入ったのか……。」
秋が外を見た。
「確かに、三回目は確かに気味が悪かったな。黒猫にも、神社に会わなかったしな。少女も関係しているのか……。時間が合すぎだろう。黒猫が居なくなって、少女が倒れていた……。」
「起こして聞いて見たら良くないか。」
啓之助がまともな事を云うと、紅時は思い付かなかったと顔に書いてある。
「具合の悪い子を起こすのは可愛そうよ。食べている時間以外は寝ているのよ。廁にすら余り行かないわ。行っても、私が支えながら行くのよ。危ないと思うの……。」
「其所まで衰弱した女等、家に置いといて良いのか……。俺なら御免だ。」
「啓之助が連れて来たのだろう。ならば、御前も責任を取れよ。少女の為に、村人に聞きに行くとか……。」
啓之助が憮然とした。
「もう、其の様な事は聞いてある。誰も村人は居なくなってないし、近くに知らない人物は見ていない。だから、誰も少女の事はしらないのだよ。」
「身元も分からない者を家に入れる等、昔は考えられなかったな。紅時が子供を産んでから考えが変わった。もしかしたら、心配をして探している親がいるだろうな……とね。」
「まず、少女に話を聞きに行こう。」
啓之助が立ち上がった。
紅時は縫い事を終わらせ、胸元に布を仕舞い込んだ。彼女は余り乗り気では無いようだ。
「具合が悪そうなら辞めて上げて下さいね。」
四人は少女の部屋に移動した。
部屋に入ると少女は瞳を開いて、座っていた。
婆が怖がって、着物も着せ変えず、初めから着ていた物だった。
「起きてて、大丈夫なの……。」
「有り難う御座います。大分、良くなりました。」
紅時が終を抱っこすると、離れた所に座り、でんでん太鼓であやしている。
秋と啓之助が蒲団の近くに座る。
「体調が悪くて申し訳ないが……。君は名前は何と云うのだ……。何故、我が家の前に倒れていたのだい……。」
「名は、さくらと申します。此所までやっとたどり着いたからです。」
「我が家に探し人でも居たのかい。」
さくらは頭をこくりと頷かせた。
「紅時さんです。世話になったのに、恩返しが出来ていないからです。」
紅時は首を傾げた。
「記憶がないわ。さくらさんに、私が何かしたかしら……。」
「食べ物を恵んで下さいました。濡れた体を布で拭いて下さいました。」
やはり紅時は思い出せない様で、考え込んでいる。
「昔通っていた寺小屋の子供ではないか……。大人になって、御礼に来たのではないか。」
啓之助が燻かしそうに、さくらを見る。
さくらは、悲しそうに微笑んだ。
「申し訳ありません。此所まで来るだけで体力を使ってしまい、寝込んでしまいました。我儘ついでに願いを聞いて貰っても良いですか……。握り飯を一つ頂けないでしょうか……。其の後に連れて行って欲しい場所があります。」
紅時は頷くと、土間に向かった。秋が終の側に寄る。でんでん太鼓を回しながら、遊んでいる。
啓之助が嫌な顔をしている。
「具合が悪いなら、動かない方が良くないか。何がしたいか言葉で伝えれば良いだろう。」
「いいえ。見て頂かないといけないのです。体が弱るとは考えて居ませんでした。紅時さんの話を聞いていても、恐ろしい物です。」
「何を伝えたいのか分からない。はっきり答えろ。」
啓之助が怒りを露にした。
「紅時や終に危害を加えるつもりもないのだろ。なら、良いだろ。飯を食ってから話してくれるか……。」
秋が諭す様に啓之助に云うのだった。
さくらは頷くと横になる。
直ぐに紅時が余りの雑穀米を握って持ってきた。
「一つで良いのよね。」
「有り難う御座います。」
さくらは体を支えながら、咀嚼している。
ゆっくりゆっくり食べている姿に、紅時は心配をしていた。
「無理に食べなくて良いのよ。」
「美味しいです。有り難う。」
さくらは弱々しく紅時に微笑んだ。
男二人は黙って、待ってる。終だけ無邪気に遊んでいる。
「休んだ方が良くない……。」
紅時は心配して聞いたが、さくらは微笑みながら、秋を見た。
「お手数ですが、運んで欲しい場所があります。私はもう歩く事は出来ません。」
「余計、動かない方が良くないか……。」
「お願いです。」
秋が溜息を付いた。
「分かった。さくらさんは、おんぶが出来るだけの力は残って無い様だから……。紅時には悪いが、抱き上げるぞ。」
紅時は頷いた。終を抱っこして、蒲団からさくらを抱き上げる。
異常に体重が無い。まるで、猫を抱き上げている様だった。
「行きたい場所とは……。」
「桜が咲いている場所です。」
啓之助が叫んだ。
「俺はどうするのよ。結果も解らず終わりかよ。」
紅時は、啓之助を宥める様に優しい声を出した。
「きちんと、帰ったら話しますから……。」
抱き上げた秋の前を紅時が、先を進んだ。障子を開くと、秋達を通してから、啓之助に会釈した。
「あ~、損な役回りだわ。俺。」
と最後に喋っていた。
読んで頂き有り難う御座います。