チッチ
久し振りの投稿です
ある大きな木にスズメが巣を作って住んでいました。巣ではひな達がお腹を空かしてピーピー
鳴き、親スズメがエサを運んで来るのを待ってます。
そうしてひな達は、どんどん育っていきました。そして、一羽一羽と巣立っていきました。
しかし、一羽の子スズメだけは、なかなか巣立とうとしませんでした。
その子スズメは、自分が飛べるかどうか自信がなかったのです。巣から出ても落ちてしまうかもしれないと、怖かったのです。
そんな子スズメに親すずめは、見捨てもせずに、せっせとエサを運びました。
そうした日々が過ぎたある日、その木に人間の少年が登って来ました。親スズメは何も出来ずに離れたところから、ピーピー警告するしかありませんでした。
少年はスズメの巣を見つけました。中では子スズメがうずくまっていました。
子スズメは、初めて見る人間という大きな生き物に怯えました。食べられてしまうんじゃないかと思いましたが、飛び立つ事が出来ません。
少年はそっと子スズメに触れました。子スズメは恐怖で震えています。少年は子スズメをしばらくなでた後、木を降りて行きました。
少年は毎日来るようになりました。子スズメはその時間が怖くてたまりませんでしたが、だんだんと危害を与えるつもりはないことが、分かってきました。少年は只なでるだけでした。
少年は言葉も発しました。子スズメには人間の言葉は分かりませんでしたが、少年がチッチと何度となくくり返すのが分かってきました。おそらくは自分のことを呼んでいるんだろうと思いました。
子スズメは少年が来ることに慣れてきました。どちらかというと、少年が来ることを待ち望んでいることに気づきました。なでられて、チッチと呼ばれることがうれしいのです。
そんな日が続いたある日、少年が来ませんでした。次の日も、また次の日も少年は姿を見せませんでした。
少年が何日も来なくなって、子スズメはさみしくなり、もう来ないかもしれないと思いました。
相変わらずひきこもりのある日。
チッチ!
木の下から少年の声が聞こえました。子スズメは、また来てくれたとうれしくなりました。しかし、少年は下からチッチと呼ぶだけで上に登って来てくれません。
子スズメは巣のふちからおそるおそる下をのぞきました。
そこには松葉づえをついた少年が立っていました。少年は、右足のひざから先がありませんでした。
子スズメは、少年がもう二度と木に登って来れないのを理解しました。
その瞬間、子スズメは巣を飛び出しました。不器用に羽ばたきながら少年の肩に止まりました。
チッチ!
少年が喜んで叫びました。少年は子スズメが飛べないものだとばかり思っていたのです。
子スズメがすり寄ると、少年は松葉づえを離してなでました。子スズメは喜びの声でさえずると、空に舞い上がりました。巣を超えて高く飛びました。
チッチ!少年が笑顔で手を振るのを眼下に、子スズメは空を旋回しました。
子スズメの巣立ちでした。 (完)