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夢現の殺人鬼  作者: 水景ミモザ
1/2

1. 猛暑日

カチッカチッ


カチッカチッ


カチッカチッ


カチッ…


……


… ———



「水とお茶、どっち飲む?」


端的な質問。


「…お茶。」


無愛想な返事。


いつも通りのやり取り。必要最低限の会話しかしない。私は黙って台所に行き、冷蔵庫から冷えた麦茶を取り出してコップに注ぐ。


グイッ


「わっ!」


不意にTシャツの裾を引っ張られてお茶を溢しそうになる。慌てて後ろを振り返ると、してやったり顔をした6歳下のいとこがいた。


ニコッ


「ちょっと実結!お茶注いでる時に引っ張らないでよ!溢しちゃうでしょ!」


ただでさえ暑くてイライラしてるのに。

そのイライラをぶつけるように少し声を荒げて言うと、


「だって、あやめお姉ちゃんもお兄ちゃんもみんな、みゆと遊んでくれないんだもん!」


そう言われて居間の様子を見ると、大人たちは最近の政治の事や、老後の事、近所の人の話、それぞれの近況報告で盛り上がっていて私達のことなんて気にしてない。


(まあ、そうだよな、1年振りにみんな集まったんだし。)


そこから少し視線を横にやると、ゲームに熱中してる実結の3歳上の兄、一樹と、何やら熱心にスマホを見てる無愛想なもう1人の兄、陸がいた。陸は実結の6歳上で、いつもは実結が遊ぼ!と言ったらすぐに構うのに、今日は全く構おうとしない。


「実結、陸にお茶持っていってくれる?」


私が陸と一樹の分のお茶をのせたお盆を実結に渡そうとすると、


「やだ!あやめお姉ちゃんが持ってって!」


「どうして?いつもは喜んで持って行くのに。」


「みゆ、今のお兄ちゃん嫌い!!」


そう大声で言うとムスッとしてそっぽを向く。


「実結!そんなこと言わないの!」


母親に怒られてあからさまに不機嫌な態度を取る実結。すぐに話に戻る母親。私はとりあえずほっといて陸と一樹にお茶を渡しに行く。


「一樹」


名前を呼んでお茶を差し出すと、ゲームを中断してお茶を受け取る。


「ありがとう」


ゴクッ


一口飲んでゲーム再開。


(少しは実結を構えばいいのに)


「陸」


一樹と同じように、名前を呼んでお茶を差し出す


「…」


が、返事はない。


「陸!お茶!」


「ん?あぁ、ありがとう」


よほど集中していて聞こえなかったのか、少し驚いたように顔をあげ、お茶を受け取る。


(何見てるんだろう)


気になって画面を見てみても、窓から差し込む太陽の光が反射して見えない。それでもどうしても気になって覗き込もうとした時、


「彩芽、実結を散歩に連れてってあげたら?」


一連の様子を見ていたのか、私の母が提案してきた。雲ひとつない晴天。確かに散歩日和だが、今日は猛暑日。まだ午前中で最高気温に達してないとはいえ、こんな暑い中外になんか出たくない。冷房の効いた部屋でダラダラしていたい———なんていう私の我儘は通るはずもなく、


「行く!!」


(あぁ、もう行く気なんだ…元気だな…)


「分かった。」


「ごめんね、彩芽ちゃん。実結をよろしくね。」


少し申し訳なさそうに頼んでくる実結の母親。私が断れないの分かっててこれだからタチが悪い。愛想笑いで軽く流し、玄関から早く行こうと急かす実結の元へ向かう。


「お昼までには帰って来てね!」


祖母の言葉に返事の代わりにあくびをしながら手を振り、私達は家を出た。



ジィージィー

ミーンミンミンミンミー…


高校生になって初めての夏休み。毎年お盆は親戚で集まっている。だけど、去年はみんな予定が合わなくて会えなかったから、1年振りに集まった。


(1年会わないとなんか緊張しちゃって上手く話せないな…)


「あやめお姉ちゃん、今日のお昼なんだと思う?」


「んー、そうめんじゃない?暑いし。」


「えー!お寿司じゃないの??」


「お寿司は夕飯だよ」


「そっか!あ!見て!このお花かわいい!」


「それはナズナだね」


私はその場にしゃがんでナズナを1つ摘み取った。そして、果実と軸を繋いでる細い茎の部分の根本をつまみ下の方へ少し引っ張り、軸から少し剥がすという作業を繰り返し、全部の果実を剥がし終え、実結に渡す。


「なーに?これ」


「人差し指と親指で持って、クルクル回してみ?」


シャラシャラ


果実同士で当たったり、果実が軸に当たったりして音が鳴る。


「なにこれ!すごい!みゆもやる!」



ガラガラッ


「ただいまー」


「おかえりー」


実結は家に帰るや否や、すぐに台所に立つ祖母の元へ駆け寄り、


「おばあちゃん!お昼ご飯なに??」


「そうめんだよ~」


「あやめお姉ちゃん!ほんとにそうめんだった!おばあちゃん!お腹すいた!早く食べたい!」


(こっちに話しかけたりあっちに話しかけたり忙しい子だなぁ)


そう思いながら私はニコッと微笑み、お昼ご飯の準備をする。



『——次のニュースです。国民的人気アイドルグループの——』


お昼ご飯を食べ終わり、食器の片付けも終わり、みんなで居間で話をしたり、テレビを見たりしていると玄関のチャイムが鳴った。

祖父母の家は居間から玄関まで少し距離がある。


「はーい」


祖母が玄関へと向かう。


「あら、どちら様でしょうか」


来客へ問う祖母の声が聞こえる。祖父母の家の玄関にはチャイムはあるが、昔ながらの引き戸のためドアスコープはない。もちろんテレビモニターもない。


だから必然的に来客が誰かを確認するためには玄関を開ける必要がある。普通なら、少し警戒して、相手が誰なのか確認してから戸を開けるはずだが、祖父母の家は田舎。訪ねてくるのは大体、宅配業者か近所の人。


そのため、警戒心も自然と薄れ、相手が誰なのか確認する前に、祖母は戸を開けてしまった——


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