しのぶ
ねちゃうの? 光莉の哀切な問いかけに、うん、とすでに光莉のベッドにひとり横たわって、片腕をまぶたにのせ目をつぶったまま答える和真のその声に、それならわたしはそのあいだどうしたらいいの?
つぶやきながら彼の枕元へ静かに寄ってぺたりと正座し、指を絡めた両手にあごをのせて顔をちかづけのぞきこもうとしても、それを知ってか知らずか彼はなおも先ほどの姿勢を寸時もくずさないので、光莉はわざとのように頬をふくらませてぷくぷく言わせてみても、手応えはない。いっそ体をゆらしてぐっすりできないようにしてやろうかと意地の悪い思いがわいてきて、しばし勇気がでるのを待ち、さていざ実行しようと絡めた指を解いて手のひらを彼の肩にのせようとしたところでにわかに思いとどまり、ふっと上体をひいてじいっと穴があくほどに依然片腕になかば隠れたままの和真の顔を見つめるうちぷいっと横を向いてそのまま身を反転させ体育すわりにベッドへ背をもたせると、つうっと腕を伸ばしもふもふのラグにちょこんと捨て置かれたスマホを拾おうとしたものの、とても届かないのでもたせたばかりの背をしぶしぶ離すまま腕を伸ばしてつかむとふたたび身をあずけ、すぐさまSNSをひらいて指先でスクロールしながら面白いとも面白くないともつかない種々の投稿をよみながしつつ可愛く盛れてる写真にひととき目を留めてそのひとのアカウントに飛んでみるとまだ自分のフォローしていないひとだったりするので、さっそくフォローするままだらだら眺めているうちふいと飽きて、SNSを閉じ画面を消すとラグへ放り出した。
振り向くと、和真は相も変わらない。耳をちかづけるとすーっと息が漏れきこえ、そのリズムにここちよくまどろみかけたところで、光莉はふと気がついて立ち上がり、ベッドの足元にたたんで置かれたタオルケットへ寄って音を立てないよう両手にへりをつまみそっとひらくと、ていねいに彼の上にかけた。刹那身を震わせたきりなおしんとしたままのそのとなりへ忍びたくなったものの、シングルベッドの真ん中をでんと占めた彼の姿にすぐにあきらめ、かわりに顔近くへ両腕を重ねて置いて、それを枕に突っ伏すと、たちまち眠気に襲われた。
手をコートのポケットに突っ込んだ和真のその二の腕に絡みついて肩へ頭をもたせながら、自分よりちょっぴり速い彼の歩調を、ねえちょっとはやいよ、と甘い怒りをこめつつやさしくたしなめると、彼は背景のぼんやりした高原を歩む足をぴたりと止めて向きなおり、そのきれいで真面目な瞳で光莉の瞳をつかまえたと思うと、もう一方の手が立ち現れ、長い指先で光莉のほっぺたをそうっとさする。そこでびくっと目覚めてあおむくと、目の前はすっかり無人で、和真? と嘆き悲しむまもなくすうっとうしろからあたたかなものが忍び寄りのびてきて、やわらかくつつんでぎゅっとしてくれたとたん、ふたたびまぶたがひらく。光莉は、ぽかぽかしたほっぺの冷めぬままそっと部屋を立った。
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