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翌朝。
家を出た陽之助の背後から「よお」と声をかけた者が居る。
振り返らずとも、それが誰なのか陽之助には分かった。
「おはよう、拓也さん」
「ああ、おはよう」
拓也が陽之助の横を歩く。
「昨日の奴らは皆捕まったよ」
「そう」
昨夜の恐怖が甦り、陽之助はブルッと震えた。
しばらく2人は無言で歩く。
「それで?」
ようやく落ち着いた陽之助が訊いた。
瞳がイタズラっぽく輝いている。
「それで?」
拓也がオウム返す。
「もうこれで、拓也さんは私を守らなくてもええんやない?」
「あー」
拓也が頭を掻く。
「それなんだけどな」
「何?」
「昨日みたいなことが、また起こらないとも限らない。君の兄さんの依頼も継続中だ」
「兄さんが…」
陽之助は複雑な心境になった。
いつかは兄と向き合わなければならないのだろうか?
「それとまあ、何だ」
拓也が屈託のない笑顔を見せる。
「俺は個人的に君に興味がある」
そう言うと拓也は顔を赤らめた。
「それって…」
陽之助も頬を赤く染める。
昨夜のキスを思い出していた。
そこで2人は大通りに出た。
またも若き軍人たちが整列し、威風堂々と行進する姿に出くわす。
陽之助と拓也が立ち止まり、それを見送る。
「これから…どうなるんやろ…」
陽之助が呟く。
「さあ、それは」と拓也。
「俺には分からない…否、誰にも分からないのかもな」
「それでも」
陽之助が拓也を見つめた。
「自分を諦めずに」
「ああ」
「生きていかなアカンのやね」
「そうだ」
拓也が頷く。
「君は強くなったな」
「そうやろか?」
陽之助が首を傾げる。
「ああ。俺はそう思う」
「そうやったら、ええけど。ともかく」
陽之助が拓也に右手を差し出した。
拓也が、その手を握る。
「これからもよろしくね、拓也さん」
「よろしく」
2人の温もりが、お互いに伝わる。
陽之助が手を離し、拓也の逞しい右腕に抱き付いた。
拓也が「お」と驚く。
「じゃあ、何か美味しいものでも食べよ!」
「そうだな」
「拓也さん、おすすめある?」
「とりあえず腹がいっぱいになれば、何でもいい」
「ええ!? そんなん嫌やわ! 美味しくないと」
「それなら陽之助に任せるよ」
「あ! 今、私のこと名前で呼んだ!」
拓也が赤くなる。
「そりゃ、呼ぶだろ」
「うふふ」
「何だよ?」
「嬉しい!」
陽之助が満面の笑みを浮かべる。
「そんなに嬉しいのか?」
「うん!」
2人は笑い合いながら、人々が行き交う街中を歩いていく。
そしてやがて、雑踏の中へと消えていった。
おわり
最後まで読んでいただき、ありがとうございます(*^^*)
大感謝でございます(☆∀☆)
コラボしていただきました陽萌奈さん、ありがとうございました(^o^ゞ