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「少なくとも1人は君を心配してる家族が居るってことだろ」
「でも…」
「ん?」
「私は…ほんまに…何も出来へん…兄さんみたいには…男らしくないし…すぐ泣くし…」
そう呟く陽之助の瞳に、涙が潤みだす。
「さっきも拓也さんが来てくれたから…私はただ助けられるだけ…皆に迷惑かけるだけ…」
「ふーん」
拓也が顎に手を当て、陽之助に眼差しを向ける。
じっと見つめられると陽之助は落ち込んでいた気持ちが薄らぎ、今度は何やら落ち着かなくなってきた。
「何ですか?」
「それもどうかな?」
「え?」
「皆それぞれ、得手不得手がある。自分を諦めるのは早すぎる」
「………」
「人に迷惑かけるのが嫌なのか? 人は必ず誰かに迷惑をかけて生きてる」
「………」
そこで拓也も黙った。
しばらく静寂が流れる。
「俺は」
拓也が再び口を開いた。
「10歳の時、天涯孤独になった」
拓也の瞳に、今まで見せなかった陰りのようなものが浮かんでいると陽之助は気付いた。
「それからはずっと周りに迷惑をかけ通しだ。君と何も変わらない」
「………」
「もちろん、逆に人助けもした。そうやって持ちつ持たれつするのが人間だろ? いつか君も人を助ける側になる時が来るはずだ」
「………」
陽之助は何も返せなかった。
まだ出逢ってそれほど間のない、この元軍人の便利屋にも、つらく苦しい過去があったのだと容易に想像できた。
いつもの陽之助なら「私と貴方は違う」と一蹴したかもしれない。
しかし何故か拓也の言葉はすんなりと陽之助の心に染みてくる。
「あと」と拓也が続ける。
「男らしくないのは別に悪いことじゃない。男が女らしくても構わない。俺は君がかわいいと思うよ」
「………え?」
陽之助が一瞬、戸惑った隙に拓也の右腕がスッと伸びる。
陽之助を抱き締め、引き寄せた。
2人の唇が重なる。
「んっ」
陽之助の唇から、思わず声が洩れる。
拓也が唇を離した。
頬を赤らめ、横を向く。
「………?」
陽之助の混乱が、ようやく収まってくる。
「ええ!?」
「しー」
拓也が人差し指を唇の前に立てる。
「静かに」
「ちょっ、そ、そんな!」
陽之助が眼を白黒させた。
「今…キスしたの!?」
「ああ…何だ、その…俺は君が素敵だと思う」
「だ、だ、だからって急に! キスした!?」
拓也の左手が陽之助の口を塞いだ。
陽之助が顔を真っ赤に染める。
「な、何するの!?」と叫ぼうとするが「モゴモゴ」としか言えない。
眼前には拓也の真剣な顔があった。
「んんん…」
陽之助は諦めて両眼を閉じた。
何だか分からないが、いろんな覚悟を決めた。
しかし。
数秒経っても、何も起こらない。
不安になり、眼をそっと開けると拓也が険しい顔で食い入るように暗闇の向こうへ視線を向けている。
「気を付けろよ」
「分かってる」
男たちの声が聞こえた。
足音と気配が近付いてくる。
「3人か…奴ら二手に分かれたな」
拓也が呟く。
「こっちから先に仕掛ければ何とかなる。いいか」
拓也が陽之助の両肩に両手を置いた。
真剣な口調。
「俺が奴らと戦い始めたら、君は外へ逃げろ」
「………」
「人が居る所まで走れ。交番が一番いい。そこで起こったことをありのまま話せ。それで全て丸く収まる。この場さえ切り抜ければ、奴らはもうお仕舞いだ。軍が対処する」
「………」
「いいな?」
陽之助は答えない。
その間にも、3人の軍人の気配はこちらに向かってくる。
「言った通りにしろよ」
もう一度、拓也が確認する。
陽之助は、ようやく頷いた。