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 ようやく落ち着いてきた陽之助が、その男を見つめる。


 がっしりとした体格。


 ほどよく逞しい筋肉。


 白ワイシャツに黒のパンツ姿。


 黒髪は短く、精悍(せいかん)な顔立ち。


 陽之助と同年代に見えた。


「ああ…」


 陽之助が口を開く。


 パニックからは回復したが、この見知らぬ男への警戒心がじわじわと湧いてきた。


「だ、大丈夫…もう大丈夫」


 未だ男の両腕が自分の細身を抱いていると気付き、そっと振りほどいた。


 息子を叱っていた若い母親の声は、すでに止んでいる。


「本当か?」


 男が訊く。


「ほんまです。お、おおきにありがとう」


 陽之助がペコリと頭を下げる。


 この男に危ないところを助けられたのは間違いない。


「いきなり倒れるから焦ったよ」


 男が屈託(くったく)のない笑顔を浮かべる。


 陽之助はお世辞にも社交的とは言えず、初対面の人間との会話は苦手だったが、何故か男の笑みには不思議と心が穏やかになった。


 男は席を立たず、そのままじっと陽之助を見つめてくる。


「あ、あの…」


「ああ。俺は黒鉄拓也(くろがねたくや)


 聞かれてもいないのに、拓也が自己紹介した。


「1年前まで軍に居た。どうにも性に合わなくて辞めたよ。今は何でも屋みたいなもんだな」


 そう言って、さらに陽之助を見つめてくる。


 その無言の圧力に陽之助は負けた。


「私は陸奥陽之助、いいます」


「ふーん」


 訊いたわりに、拓也は軽く頷く。


 やはり席は立たない。


 いつもなら関係のない者に声をかけられてもバッサリと切り捨てる陽之助だが、苦境を助けられた相手には、そういうわけにもいかない。


 内心、ため息をつき「お礼に…」と口を開いた。


「ん?」


 拓也が首を傾げる。


「何か(おご)らせてください」


「おお!」


 拓也が瞳を輝かせる。


「そいつは嬉しいな」


 ニコッと笑い、すぐさま右手を挙げた。


「おーい」と女給を呼ぶ。


 その何ともおおらかな様子に陽之助は半ば呆れ、半ば感心しながら小さく肩をすくめるのだった。




 3日後の夜。


 何軒かの書店を散策した陽之助は街灯もまばらな裏道を通り、家路を急いでいた。


 ついつい夢中になって、遅くなってしまった。


 早く帰らなければ親戚夫婦が心配する。


 薄い青のパーカーとパンツルックで夜道を進む。


 街灯と街灯の間隔が空いた闇の中、横道から2人の男がいきなり現れた。


 陽之助の前方に立ち塞がる。


「陸奥陽之助くんかな?」


 向かって右側の男が訊いた。


「え?」


 相手が自分の名を知っていることに陽之助は驚き、同時に恐怖を感じた。


「だ、誰ですか?」


 暗闇を近寄ってくる男たちに、まったく見覚えはない。


 2人のやたらと逞しい体格も妙な威圧感があった。


 工場作業員のような風体だが、何とも鋭い空気を漂わせている。


「君に大事な用があってね。大人しく一緒に来て欲しい。そうすれば手荒なことはしなくて済む」


 ということは、乱暴してでも自分を連れていくつもりなのだと陽之助は思った。


 (きびす)を返し、走りだすが。


 いつの間にか、そちら側にも別の2人の男が立っていた。


 じりじりと近付いてくる。


 挟まれてしまった。


 逃げるには、どちらかを突破するしかない。


 しかし陽之助は恐怖で立ちすくんでしまう。


 華奢な自分に、こんな屈強な男たちに抗う(すべ)はない。


 と、その時。


 最初に陽之助に声をかけた男が「ギャッ」と悲鳴をあげた。


 驚いた陽之助が振り返ると、突如出現したこれもまた体格の良い男が、2人を左右のパンチ連打でダウンさせたところだった。


 その男が陽之助に走り寄り、右腕を掴む。


「やめて!」と叫ぶ寸前、男が「俺だ! 黒鉄拓也!」と名乗った。


「え!?」


 陽之助が相手の顔を見ると、まさしくそれは拓也だった。















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