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04.雪女の正体

 放送室に呼び出された俺は、室内で俺のことを待っていた鵜ノ木と対峙していた。


 「…………鵜ノ木つつじ、一体なにが目的だ?」


 鵜ノ木と俺の間に、互いをけん制し合うような沈黙が流れる。

 雪のように白い鵜ノ木の肌が、窓から差し込む朝日を吸い込んでいるようだった。

 結局、鵜ノ木が初めて口を開いたのは、俺の問いかけから数十秒は経った頃だった。


 「……へえ、意外だわ」


 鵜ノ木は少し驚いたような呆れたような様子で、その鈴の鳴るような声を俺に返した。


 「意外ってのは、どういうことだ?」

 「……ごめんなさい、気にしないで。もっと違うパターンを想像してただけ」

 「あんな不気味なラブレターを貰って、手放しで喜んでやってくるとでも思ったか?」

 「結構ひどいわね、あなた。年頃の女性から恋文を貰って『不気味だ』なんて」


 鵜ノ木は口元に手をそっと添えて、その冷たい微笑みを隠す。

 いつも鵜ノ木を遠目で見ていた時の違和感。実際にこうして直接会話してみると、あの違和感は間違いなどではなかったのだと実感する。

 鵜ノ木と会話をしているのに、俺の目の前には誰もいないような不思議な感覚。まるで美しい雪女に幻覚を魅せられているようだ。


 「それで、一体その恋文のどこがご不満だったのかしら?」


 口元に添えた手はそのままに、鵜ノ木は「はて?」と首を傾げてみせた。

 その可愛らしい動きも計算か? そんな皮肉を言ってみせる余力もない俺は、鵜ノ木が俺のためにしたためたというラブレターをその場で開いて突き出した。


 「……なぜ俺が今日登校してくると分かったいた?」

 「……なんのことかしら?」


 確かに鵜ノ木のような才色兼備の美少女が、なんの接点もない俺にラブレターを送ってくること自体が異常だが……それ以上に引っかかるのは何日も前に書いたはずの手紙に、きっちり今日の日時が指定されていたということだ。


 「裏番……じゃない、担任の酒井先生は、お前から預かったこの手紙を『何日も渡しそびれた』と言ってたぞ。先生は手紙の内容もなにもかも知らなかった。ってことは、お前は今日学校に登校することを予言していたことになる。酒井先生とお前がグルじゃない限りな」

 「……そうかも知れないし、そうじゃないかも知れないわ」

 「誤魔化すのが下手だな、お前」


 冷たい態度で突き放した俺を、チラリと一瞥する鵜ノ木。

 鵜ノ木は少し間をおいてから溜め息を吐くと、窓際までふらりと歩いていき、ブレザーのポケットからおもむろにスマートフォンを取り出した。


 「……正解よ、酒井先生があなたを呼び出すように細工したの。少しは頭が働くようね」

 「どうやってそんなことを……?」


 裏番長はこういう回りくどいことに積極的に協力するようなタイプではない。

 俺の想像が及ばないところで、何かしらの力が働いている可能性がある。


 「どうやってやったかなんて、知ったところで同じことよ」


 鵜ノ木は悪びれた様子もなく、その艶やかな銀髪をかき上げて、続けざまに言い放った。


 「確かにあなたに渡したものは、ラブレターとは程遠いものよ。それでも書いていた内容はあながち間違いじゃないわ」


 問い詰めていたはずなのに、逆に問い詰められているような息苦しさ。

 一瞬たじろいだ俺に鵜ノ木が差し出したのは、彼女が先ほど取り出したスマートフォンだった。


 「…………あ、コイツ」


 見覚えがある画面が、俺の目に飛び込んできた。

 俺が答えを出すよりも早く、鵜ノ木がその画面について説明をはじめる。


 「『青柳あおやぎサツキ』……今年の夏休みに入った頃から動画配信サイトで配信をはじめた娘よ。いわゆるVtuberってやつなんだけれど……あなたに細かい説明は必要ないわよね?」


 青柳サツキ──青髪ロングの二次元美少女がトップに映ったチャンネルを、鵜ノ木はゆっくりと指でスクロールしている。


 「……ね?」


 鵜ノ木は念を押すように、俺に自分のスマートフォンを押し付けた。

 鵜ノ木の透き通った声を改めて聞くと、俺のこめかみから冷や汗が流れた。


 「……はじめまして、アカウント名『荒らし』さん?」


 間違いない。俺は最近頻繁にこの声を聞いていた。

 ネトゲの垢BANを食らい苛立っていたあの時出会った期待の新人Vtuberの声。


 「私は鵜ノ木つつじ……いえ、青柳サツキと言えばいいかしら?」

 「…………ということは」

 「先日は素敵なコメントの数々をありがとう『荒らし』さん……」

少し長いので途中で切りました。

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