01.日常、つまりニチジョウ。
「……だって、あなた言ったじゃない? 私を殺してくれるって」
放課後の教室。鵜ノ木つつじは、背に立つ俺に言った。
なに言ってるんだコイツ。俺は一瞬、鵜ノ木を茶化してやろうと思ったが、興が削がれたのでやめた。
暮れない夕日に情緒を揺さぶられた訳でもないが、見えないはずの鵜ノ木の頬に涙がつたっていくのを見た気がしたのだ。
「あなたなら、きっと殺せる」
念入りに自分の殺人を推奨する鵜ノ木。
鵜ノ木さん、怖いですよ? くるりと俺の方へ向き直った彼女は、いつも通りの冷たい笑顔になっていた。
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冷房の効いた部屋でネトゲをぶちかますのは楽しい。
『YOU LOSE』
のり塩ポテチを箸でつまみながら、モニターに映し出された主張強めの青文字を眺める。
ポテチの咀嚼を終わらせた俺は、まもなく対戦後のチャットを開いた。
「○す○す○す○す○す○す○す○す○す」
思いのすべてをキーボードに叩きつける。どうやら勝者(笑)は困惑気味にチャット欄から逃げていったようだ(笑)
めちゃくちゃ楽しい。
その後も全然勝てないので全体チャットで暴れていたら、いきなりネトゲにログインできなくなった。
バグかな? 低評価低レビュー書きかき。
8個目のサブ垢でネトゲのレビューを書いてあげていると、某動画投稿サイトがディスプレイの隅にぴょこっと通知を飛ばしてきた。
どれどれ。デビューわずか1ヶ月でチャンネル登録者70万人越えの美少女VTUBER。例を見ない快進撃だそうで、彼女の動画は急上昇ランキング上位を総ナメにしているらしい。
なんの気なしに、その美少女VTUBER様の動画を拝見してみる。
……あー、なるほど。こういうパターンね。俺は乱暴に動画のシークバーをいじりながら、動画のコメント欄に目を向けてみる。
「めちゃくちゃ可愛いくて悶える! 一生推します!」
「元気っ娘な見た目だけど、たまに見えるしおらしさも最高!」
……ぞわぞわっ!
しかしデビューして1ヶ月、やっと来たか自称美少女VTUBERくん! 俺に認知されるほどの領域になッ!
──3時間後。
見渡す限りの信者コメントを煽り終えた俺は達成感をひしひしと感じながら、ふとデジタル時計に目を向けた。
『08/31 20:30』
あーあ、意外と短かったな。ガラス越しにむさ苦しい夜を感じながら、リュックからこぼれ落ちた教科書を踏みつける。
……明日はサボろう。そうしよう。気分じゃないし。
そんな面倒なことを考えているより、信者コメントを煽っていた方が100倍面白いしなあ。