第5話
初ブクマ頂きました!
ありがとうございます!
それから3日
俺は限界を迎えた
げっそりとやつれて目は虚ろになった
悪霊に祟られてる時より早くお陀仏しそうだ
この食生活は続けられない、火をおこそうと頑張ってみたが全然ダメだった、あの木の枝をぐるぐるするやつは永遠に点く気がしない。
ナイフが無いから捌いたりも出来ない。
猫になってひたすら皮を食い千切ってそこから顔を突っ込んでイートインする感じだ。
なかなかクルものがある、てゆーかこのままじゃ狂ってしまう。
伽凛には何も言えない、彼女はわざわざ俺の分まで食事を調達してくれているんだ。 そもそも、文句とか言ったら肝を喰われそうで怖い。
伽凛が俺の腹をかっ捌いてイートイン、そんな光景が容易に想像出来てしまう。 怖すぎる。
だから俺は伽凛が持ってきてくれた獲物は必ず笑顔で受け取る、でももう限界だ。
何か打開策を見付けなければ死んでしまう。 そもそも、栄養バランスも悪いんだろう。
でも、山に生えてる草で食って良いのかどうかなんて見分けがつかない。
このままじゃ病気になっちまう、てゆーかアレを食い続けたら野生の獣ならともかく人間はアカン寄生虫とかに殺られそうだ。
肺吸虫とか肝吸虫、エキノコックスとか。
その辺は、よくはわからんがまずいハズだ。 米が食いたい、味噌汁飲みたい・・・
つらい、辛い、ツライ
・・・
くそっ
なんか腹が立ってきた!
俺がこんな目にあってるのはあいつらのせいだ! そんな気がするぞ! 俺を棄てやがったあいつらだ! 誰がなんと言おうがあいつらのせいだ!
復讐してやる!!
そして、俺の心に復讐の火が灯った。
「なぁ、俺を棄てたあの家の場所。 伽凛覚えてるか?」
俺は横で食事中の伽凛さんに聞いてみた、山鳥の腹を喰い千切って旨そうに咀嚼しておられる。
「ん、どうしてだい?」
「ちょっとな、思い付いたんだけど・・・」
復讐するとはなんか言いづらいな・・・
「復讐でもするのかい?」
ずばり言われた
え、なんで分かったんだ?
「まぁ、そんなところだ・・・ それにずっと山に住んでたら人間の中に馴染めなくなりそうだしな、村に行ってみたいってのもある」
伽凛がまたふーんと鼻をならす
「どうして復讐って思ったんだ?」
俺って執念深いように見えるんだろうか?
「ん? やられたらやり返すのは当然じゃないか?」
当たり前の顔で返された。 あー、そういえば聞いたことあるな。 妖怪は貸しも借りもつくらないんだっけか・・・
まぁ、あれだな。 話が早くて助かる。
「そうだな、それで? 家の場所、覚えてるか?」
「あぁ、覚えてるよ」
よし
「なぁ、亜留磨」
「なんじゃ?」
「亜留磨はずっと俺の後ろにいるんだよな?」
「そうじゃのぅ、太郎に何か引き付けられてるみたいで離れたくても離れられんみたいじゃ」
そうだったのか・・・
背後霊みたいなもんか?
「そうか、俺は今から人目に付くところに行くんだけど。 亜留磨が後ろに飛んでたら皆ビックリすると思うんだけど、どうにかならないか?」
「ソレだったら大丈夫と思うがのぅ、随分長いこと人には見られなかったから見える人間は滅多にいないと思うが」
そうか、よし。
「伽凛、上手く潜り込めたら何日かその家に滞在しようと思うんだけど。 伽凛も一緒に付いてきてくれるか? ほら、変化の術をかけて貰わないと」
「かまわないよ」
よし! やってやるぞ! 鶴を助けたら恩返し、猿に柿を投げられたら仕返しだ。
昔話には教訓がいっぱいだ、赤子を山に棄てたら赤子に復讐されるんだ!
後々、絵本になるかも知れないな。 俺は作戦を練って伽凛の道案内で山を降りて俺を棄てた家に向かうことにした。
山を降りながら空を見上げる、綺麗な青空だ。 歩いている道を見る、これが街道なんだろうか?
舗装はされていない、人が長い年月をかけて踏み固めて出来たという感じの道だ。
昔の人は山の中を木を切り出しながらそれを運びつつ人力で道を作ったんだな、凄いもんだ。
そんなことを思いながらキョロキョロしつつ道を下っていくと道を上ってくる人が見えた!
緊張する、俺は伽凛の服の裾を掴んだ。 見た目は5才くらいだから咄嗟に姉に連れられる弟を装う事にしたのだ。
チラッと伽凛が俺の方を見るが何も言わない。
どんどん人が近づいてくる、心臓がバクバクいっているのが分かる。 こんなことで俺は復讐なんて出来るんだろうか?
二人組、一人は日本昔話に出てくる町人みたいな恰好でもう一人はくたびれた感じの上下に別れた服を着ている。
くたびれた感じの方は腰に刀を差している、二人は牛二頭に手押し車のような物を引かせている。
そして頭には・・・
髷があった! ディス・イズ・チョンマゲ! 思わずガン見してしまった。
「おや、見ぃひん顔やな。 どっから来たんや?」
町人風の男ににこやかに喋りかけられた、関西弁だ。
「山を越えた所の村から来たんだ」
伽凛が答える。
「ほー、そいつは長旅やったな。 ぼうずも籠を背負って偉いなぁ、ねーちゃんを助けてんのか?」
コクコクと頷いた、変に喋ってボロが出てもまずいしな。 俺は自分が棄てられた時の籠を背負っている。 それを見て、山を越えたという話で想像を膨らませたのだろう、町人風のおっちゃんは少し涙ぐんでいる。
良いやつだ。
「よしよし、頑張るんやぞボウズ! ほれ、持ってけ!」
そう言っておっちゃんが懐から出したものを俺に差し出した。
受け取るとそれは6枚の丸い銅に穴を開けたもの、俺は全身に鳥肌が立った。
「見たこと無いやろ? この辺じゃあんまり使われへんからなぁ。 ソイツは銭っていってな、都の方へ行ったら物と交換してもらえんねんぞ。 大事に持っとけ」
「ありがとう」
俺は満面の笑顔だったはずだ。
「おぅ、いいってことよ」
おっちゃんは得意気な顔で去っていった。
もう一人は俺のことを怪訝な顔で見つめていたが男に連れられて歩いていった。 行商人だろうか?
俺はもう一度、貰った銭を見る。 間違いない、渡来銭だ。 種類がかなりあるからいつの時代かは分からないが・・・
凄いな、どうやら俺はタイムトラベラーということがこの1枚の渡来銭で分かった。
良く見ると【元】の字と【大】の字は分かる。 しまった、都の名前を聞いとけば良かった。
「なんだいそれは?」
肩越しに伽凛が覗き込んできた。 亜留磨も見ている。
「お金だ、人間はこれを物と交換したりするんだ」
「なんでだい?」
意味わからんという顔をする伽凛。
「例えばな、魚を食べたい人が兎を持っていて、兎を食べたい人が魚を持っていたら二人は卯と魚を交換したら良いと思うだろ?」
伽凛がコクりと頷く。
「じゃあ、魚を食べたい人が兎を持っていて。 兎を食べたい人が鼠を持っていたらどうだ? 魚を食べたい人は兎と鼠を交換するかな?」
うーんと唸る伽凛さん。
「しないかねぇ」
「そこでこれの登場だ」
俺は銭を伽凛に見せる。
「これはその物々交換をお金と物の交換に代えたんだ。 そしたら兎を持って魚を交換してくれる人を探し回らなくて良いだろう?」
伽凛がふーんと鼻をならす。
「でも、なんでそんなことが出来るんだい? アタイならそれと食い物を交換なんてしたく無いねぇ」
まだ腑に落ちないらしい。
「兎は腐るけどこれは腐らないだろう? 置いといて腹が減ったときにこれを持って兎に交換しに行けると思ったら便利じゃないか? それに、皆がこれを便利だからって使ってるうちは皆これと何かを交換してくれるさ」
なんか、昔に親父とこんな話をしたっけな。
「人間は面白い事を考えるねぇ」
なかなか説明するとなると難しいもんだな、親父も頭をひねって説明してたもんな。
「亜流磨は見覚えあるか?」
そう言って亜流磨の前に銭をかざす。
「うーん、見覚えがあるような無いような・・・ わからんのぅ」
あるような無いようなか、まぁこれってかなりの種類が有るらしいからな。
仕方ないか、俺は銭を眺めて少し考えてから
「伽凛、あげるよ。 もし都へ行くことがあったら使い方を教えるから」
6銭あったからその内の3銭を伽凛に差し出した。
伽凛は受け取って銭を眺めている。
「ふーん、それじゃあ貰っとくよ」
これより鼠が良いけどね、という顔で受け取った。
それからしばらく歩いて山を降りて平坦な道になるとチラホラと人とすれ違うようになった。
さっきの銭をくれたおっちゃんとは服装が違う、もう一人の刀を差していた方の服装に似ている。
あの服装は何て言ったっけかな?
遠目に家が見える、人は昔から平坦な土地を見つけてはそこに住み着いて文明を築いていく。
逞しいものだ、俺はその家を眺めた。
・・・
・・・・・
屋根が見えるんだが。
何て言うか、上から下まで屋根? 藁だろうか? 日本昔話より昔な感じだ・・・
そんな家がチラホラ見える、これはあれか、竪穴式住居ってヤツか?
かなり分厚く藁が敷いてある様に見える、この辺りは冬はかなり冷え込むのだろうか?
そういえば今何月なんだろうか?
半袖で歩けるくらいだが
「伽凛、いまって」
何月と聞こうとして止まる、それじゃあ伝わらないだろう。
「冬までにあと何回満月がくる?」
これで通じるだろうか?
「そうだねぇ、雪がちらつく迄にはあと5~6回はあるんじゃないかねぇ」
通じた、じゃあ今は6月頃かな?
「雪は積もるのか?」
「積もるさ」
やっぱり積もるのか、竪穴式住居っていつの時代ぐらいのやつだっけ?
あっ思い出した、あの服装。
直垂だ。
上着と下が別になってるやつ、平安時代とかだったかな・・・?
そんな中を着物を着た伽凛に連れられて歩く、着物を着てる伽凛がかなり浮いてるな。
俺の方が溶け込んでる気がする。
田園風景に家がぽつぽつ点在している、歩いていると土壁に藁葺き屋根の家もあった。
「あそこだ」
伽凛に指差されたのはお屋敷と言っていい木造建築の立派な家だった。 屋根は瓦だ、一体なに時代なんだ?
渡来銭を見たときは戦国時代かなと心が踊ったんだが・・・
うーん
「それじゃあ、アタイは猫になって見守っとくよ。 ドジるんじゃないよ、上手くやんな」
「あぁ、ありがとう」
伽凛は俺に一瞥すると辺りを見回してからくるっと猫の姿に戻り、ててっと走って林の中に消えていった。
よし、行くか!
俺はお屋敷に向かって再度歩き出した。
屋敷は150センチくらいの塀に囲まれている、俺は玄関口まで行って大きく声をあげた。
「ごめんください!」
昔噺、赤子の復讐(仮)の始まりだ!