第4話
俺はソレをそっと地面に置いて眺める、まだ絶命しきれていないヤツもいる。 ソイツは手足を少し動かして口から血を流し、尻尾がふるふると痙攣している・・・
視線を上げると伽凛さんが猫の姿に戻って
ハフッハフッ
グチャッグチャッ
バリッバリッ
みたいな感じの音を立ててお食事中だ。
ワイルド&エキサイティン
野性味タップリだ。 俺の視線に気付いて顔をこちらに向ける、口許に血が付いていますよお姉さん。
「どうした? 食べないのか?」
どうする!?
こんなもん食えるかっ! とは言えない
とは言え
・・・
俺に食えるのか!? コレを!! ってか食って大丈夫なのか!?
しかし、伽凛さんがわざわざ取ってきて下さった物を無下にも出来ない・・・
機嫌を損ねて俺の肝をデザートに喰われたら大変だっ!
その上、俺が取ってきてくれって言った食事だ。
よくある御決まりのセリフ「今、あんまりお腹空いてないんだ」は、通じない。
食わないと言う選択肢は無い・・・
よし
生きたいって思えたんだ! 頑張って生きようじゃないか!
「なぁ、このままじゃ食べにくいから俺の体を猫に変える事って出来ないか?」
「あぁ」
そう言って伽凛がくるりと宙返りをするといきなり俺の視界が下がった。
「おぉ!」
掌に肉球がある!
川まで行って自分の姿を写して見ると黒猫がそこにいた! その上さっきまでより視界も明るい!
夜行性動物の目だな、でも視力はそんなに良くないんだな。 ボヤけて見える。
よし
「ありがとう伽凛」
「良いんだよ」
よし、食うぞ!
俺は猫。 俺は猫だ。 ネズミが大好きなんだ!
どうせ伽凛にお世話になっている間は多分こういう食事が続くはずだ、慣れといた方がいい。
生きるためだ!
俺はもう一度、伽凛が持ってきたソレに向き直った。
まだピクリピクリと動いている・・・
考えちゃダメだ、ここはむしろ取れたて新鮮ぐらいの気持ちでいくんだ!!
俺は動かなくなっているヤツに狙いを定めてがぶりといった
hづwljsyhfこsっtqんcdふぃwl
おっふぅ
生臭い
食感も何て言うか最悪だ。
控えめに言って最悪だ。
負けるなっ!
いくんだおれ!
ハクナマタタだっ!
ライオ〇キングのシ〇バだってイモムシを食べたじゃないか!
お友達がティモ〇とプ〇バァから化け猫と悪霊に変わったからってなんだ!
ジャングルが薄暗い樹海に変わったからってなんだ!
つまんねぇ人生は終わったんだ!
俺は生きる!
そして俺は無心になって食べた
食レポはすまい
ネズミ一匹でお腹いっぱい胸いっぱいになった、残ったネズミは伽凛さんが美味しく頂いた。 そして川べりの繁みで猫のまま横になって眠った。
この姿は寝るには凄くいい。
暖かいし、毛がビッシリ生えているので草の上に横になっても感触とか気にならない。
物思いに更けることもなく
俺は思いのほかぐっすり眠ることが出来た。
ーー
翌日、起きて伸びをして起き上がろうと思ったら体が起こせない。
なんだ? どーしてだ!?
あせって気がつくとなんと元のベイビーボディに戻っていた!
なんだ!? 夢だったのか!?
良かった!
夢だったんだ!
・・・
いや赤ン坊じゃねぇか!!
だとしたらどっから何処までが夢なんだ!?
そうか! 俺は化け猫に騙されてたんだ!
チキショー! ネズミなんて食わせてソレを見て笑ってやがったんだな!
あいつネズミ食ってんですけどww
ってヤツか! インスタに上げられたのか?
そんなもんバエねーだろ!?
炎上だ炎上!
クッソまんまとヤられたぜ!!
「やっと起きたのかい?」
そんなことを考えてたら人間モードの伽凛が仰向けの俺を覗き込んできた。 そしてパチンと指を弾いて俺を少年モードに変えてくれた。
「おはよう、なんで赤ン坊にしたんだ?」
何事も無かったように伽凛に話しかける。
悪態、声に出さなくて良かった・・・
「寝ると変化は解けるんだよ」
「そうだったのか」
そういう事か、まぁ、欠点もあるんだな。 川まで歩いて顔を洗い水を飲んだ。 そして自分の顔を見る、5才位に見える男の子。
特に特徴の無い顔が見つめ返してくる、髪の毛は前髪は眉上、耳が半分かかるくらい。
ひ弱そうな顔だな。
服装はネズミ色の袖の無い、袋に穴を3つ開けたような感じの服。 それに腰ヒモを結んである、生地は何だろうか? ゴワゴワしていて良いとは言えない、何て言うか昔話で子供がよく着てる感じのやつだな、和風だ。
やっぱり異世界転生じゃ無くて過去に転生したんだろうか? むかーし昔のことじゃった、って言う御伽噺は本当だったってことか?
妖怪も実在したし、狐と狸の化かし合いも本当だったと、後ろを振り向くと猫又は確かに実際にそこにいる。
2又の尻尾をくゆらせながら絶賛、毛繕いの真っ最中だ。
「じゃあ、寝て起きるたんびに伽凛に変化の術をかけて貰わないとダメなのか・・・ 面倒くさいな、俺も変化の術を使えないのか?」
兎に角、一つずつ覚えていこう。
「無理だろうね、どんなに強い氣を持った人間も産まれてから2~3年は術を使えない筈だ。 氣門が開かないんだろうね、だから半妖は産まれてから普通の赤子のふりをして術が使えるようになってから両親を喰い殺すと聞いたことがある」
コワッ! だから俺が喋ったときあんな蜂の巣つついたみたいな騒ぎになったのか・・・
なるほどね。
「それで伽凛は2~3年は面倒見てくれるって言ったのか」
「そうだよ」
じゃあ当分、俺の妖術修行はお預けか・・・
そういえば、アイツどこ行った? 俺の後ろを漂っていたアイツの事だ。
俺は周りを見る、見つけた瞬間飛び上がりそうになった。
いた、木の影に隠れるように。 ジッと半身で此方を見ている。
「な、なんでそんな所にいるんだ?」
声をかける。
「暗い場所の方が落ち着くんじゃ」
悪霊じゃねーか!
「そ、そうか」
「じゃあ、アタイは朝飯を探しに行くよ」
俺達の会話を尻目に伽凛はまた一瞬で木々の間に消えていった。
速いな
伽凛の消えていった小陰から視線を上に向けて空を見上げる、なんか前世の空よりも綺麗な青空だな。
排気ガスとかに一切汚染されてないからだろうか?
そういえば青空を見たのは久しぶりな気がする、向こうじゃ死ぬ一週間前から悪霊に追い回されて、こっちに転生したのも深夜だったし。
昨日の夜は長かったな、視線を下ろして悪霊の方を見る。
「・・・」
「・・・」
またこの沈黙か・・・
メッチャこっち見てるし・・・
喋り難いので悪霊がいる木の近くまで歩いた。
「なぁ、そういえば名前は何て言うんだ?」
顔の眉のあった辺りがピクリと動いた。
透けてる上にあの化粧のせいで感情が読みにくいな。
眉根を寄せても眉が無い、顎に手をやってるから考えてるんだろう。
「うーむ、覚えてないのぅ」
殆んど何を聞いても覚えてないだな。
「逆に何なら覚えてるんだ? ちょっとでもいいから話してくれよ」
なんか昨日、伽凛に似たような事を言われた気がするな。
「そうじゃのぅ、ずーっと朽ちた家にいたのは・・・ うーん、何となくじゃが」
朽ちた家?
あの女子高生が肝試しにいったって言う荒れ寺の事か? コイツの格好を見た感じ寺じゃなくて神社だったっぽいけどな。 まぁ、そんな所で胆試しついでに暴れるような罰当りな連中からしたら寺も神社も同じような物なんだろう。
「他には?」
「そこにいる間にたまに人が来たのは覚えておるのぅ、それで女子がわらわの大事な物を持っていったんじゃ、それに憑いていった所にお主がやって来て・・・ 後はお主も知っておろぅ」
なるほど、ほんとに殆どなんにも覚えてないんだな。
ってか女子高生、拾った大事な物ってあの不気味な簪の事だよな。
ん? それって、俺が死ぬ時に持ってたような・・・
「その大事な物って黒曜石が付いた簪の事だよな?」
「おぉ、それじゃ」
「それ俺が死んだときに持ってたな、大事な物って、なんか思い入れがあったのか?」
「ん~、大事な物としか・・・ 駄目じゃのぅ、何も思い出せん」
名前も思い出せないんだもんな、せめて物があれば違ったかも知れないけど。 にしても、伽凛に続いてこいつも名無しか。
「そうか、それより名無しじゃ不便だな」
「そうじゃのぅ、不便じゃのぅ」
ちらちらこっちを見てくる、これは分かりやすい。
「俺が名前を付けてもいいか?」
「ほぅ、付けてくれるのか?」
やっぱり付けて欲しかったのか、でも、嬉しそうな顔なのか? そうでもないのか?
相変わらず表情は読めない。
「そうだな・・・」
悪霊か、ハーゴンとかどうだろう? チャッキーの花嫁からとってティファニーとか? アナベル?
いや、俺が嫌だな。 悪霊系から離れよう、嫌だが長い付き合いになりそうだ。 由来がバレて祟られたくはない。
巫女から連想するか・・・
魂とかから連想しようか・・・
なんか主人公に付いてる幽霊の漫画とかあったかな?
あっ
「亜流磨なんてどうだ? 確か魂って意味とかだったハズだ」
奇怪噺花咲一休っていうジャンプでわりとすぐに打ちきりになった漫画の主人公に付いてた悪魔みたいなヤツの名前がカルマだった。 あの漫画面白かったのにな。
そこから思い付いた。
「ほぅ、よいな、気に入った。 アルマか、字はどう書くんじゃ?」
俺は枝を拾って地面に書いてやった、字は当て字なんだけどな。 亜流磨は俺の後ろを飛び回っている、ご機嫌なんだろうか?
「何してるんだい?」
伽凛が帰ってきた。
「亜流磨の名前を決めてたんだ」
俺は亜流磨を指差して言う。
「ふーん、亜流磨か。 良い名じゃないか、それは?」
伽凛が地面の字を見る。
「亜流磨の字を書いてたんだ」
「へー、アタイの名前の字も書いとくれよ」
俺は伽凛の名前を地面に書いた、これも当て字なんだが。
「ほぅ、お主なかなか良い名をつけるのぅ」
気に入ったらしい。
「字も良いじゃないか」
化け猫と悪霊に誉められた、俺の名前は太郎だけどな・・・
「気に入って貰えて良かったよ」
「では、これは礼だよ」
そう言って伽凛が後ろ足を掴まれて逆さまにダラリと吊るされたウサギさんを差し出した。
逆さまになったウサギさんは目から血が流れている・・・
「ありがとう、また俺の姿を猫に変えてもらっていいか?」
俺は心で泣きながら良い笑顔でウサギさんを受け取った。