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第13話

俺は自分がいた時代の事を、この時代から言えば千年も先の未来の事を伽凛と亜流磨に話した。


主には人間の文明の話になった、伽凛は人と猫の関係の話しを興味深そうに聞いていた。


「ふーん、山には殆ど猫がいなくなるのかい? みんな人間の家の中で一緒に暮らすのか?」


伽凛は珍しく丸くならずに座ったまま話をしている。


「全部って訳じゃないよ、飼われてる猫もいれば外で暮らす野良猫もいる。 この時代は猫と人間って一緒に住んでる訳じゃないのか?」


「色々さ、アタイは山の方が好きだねぇ」


「猫の起源は人間が穀物を育てるようになってそれで保存してる穀物の見張り番に猫が飼われるようになってあっちこっちに増えたって聞いたけどな」


「ふーん、そうなのかい」


「そうなのかいって、知らないのか?」


「太郎は自分の起源なんて知ってんのかい? 誰かに教えられるまでもなく」


ごもっともだ、自分のルーツなんて調べなきゃ知る由もない。


「そうだな、妖怪っても最初からなんでも知ってる訳じゃないよな」


「妖怪、人間に限らず最初は本能だけさ。 知識や知恵は後からついてくるもんだよ」


本能だけか、進化して人間が無くしたもんだな。


「太郎は前世ではなにをしてたんだい?」


「なにを、仕事か?」


「あぁ」


話が急に変わったな・・・


「美容師だ、こっちでは何て言うのかな・・・ 髪結床もまだないのかなぁ、髪の毛を切る仕事だよ」


伽凛はふーんと鼻を鳴らしている、全然興味無さそうだ。


「人間は毛が生え変わったりしないからな、いくらでも伸びるんだよ。 まぁ、伽凛は猫だからピンとこないよな。 亜流磨は知ってる?」


この場にいる俺以外の人間?である亜流磨に話を振ってみる。


「ん、んー・・・ 妾も知らんのぅ、人にやって貰っていたような気はするがのぅ」


話しを振られて考えこむ、覚えてないじゃなくて知らないか・・・ ちょっとは記憶が戻ってんのかな?


「亜流磨は結構身分が高かったんだろう、お側仕えの人とかいたんじゃないか?」


「そうなのかのぅ、太郎は人の髪を触るのが好きなのか?」


「いや、親父がやってたから他にやりたいことも無かったしやってただけだよ。 消去法だな」


「そうなのかい? さっきの話じゃ皆好きな仕事を自由にやってるって言ってたじゃないか」


そう言えば未来の話しをしているときに色んな仕事があってこの時代のように世襲制ではなく、自由選択っていう話しもしたな。


「そうだけど、やりたいことが無かったんだよ」


なんか言ってて情けないな。


「それで人の毛繕いをしてたのかい? なんだか情けないねぇ」


ざっくー


ひどいよ伽凛さん


人の毛繕いをするのは猫からするとかなりヒエラルキーが低いのか?


「伽凛、猫と人間は違うのじゃ。 そんな言い方をするのは太郎に失礼であろう」


肩を落とす俺を亜流磨が庇ってくれる。


「はは、ありがとう亜流磨。 でもまぁ、自分でも情けねぇなぁと思うから仕方ないよ。 情けないのは美容師がじゃなくて俺がだけどな」


言い訳がましくなっちまったな、なんで猫にへこまされなきゃならんのだ・・・


話題を変えよう。


「亜流磨はこの時代に何か見覚えのあるものはないのか?」


「うーむ、なにも思い出せんのぅ。 じゃが・・・」


「じゃが?」


「見覚えがあるかと言われればないんじゃが、なんと言うか・・・」


「懐かしい感じがするとか?」


「懐かしいというのも違うのぅ、うーん」


懐かしくもない、けど見覚えも無いか。


「物とか家とかを見て違和感は?」


「それは無いのう」


「なるほど」


もしかしたら亜流磨の生きていた時代とそんなに差がないのかもな・・・


俺は亜流磨をまじまじと見つめる、どっかに年代が分かりそうな物はないだろうか? 引眉にお歯黒、顔は白粉(おしろい)で白く塗られている。


巫女の衣装に足袋を履いて下駄を履いている。


幽霊なのに亜流磨は脚がある、基本は浮いてフワフワとついてきたりたまに歩いてたりもする。


下駄か、巫女って雪駄のイメージだったけどな。


「なにをまじまじ見ておるんじゃ?」


亜流磨が居心地が悪そうにしている、幽霊の癖に見られて照れるんじゃないよっ!


「いや、その亜流磨の履いてる下駄を見してもらってもいいか?」


「ほぅ、下駄をか」


俺は亜流磨の下駄を脱がせて手に持って見てみた、不思議だ。


持っている感覚はあるのに重さを感じない。


鼻緒を引っ張ったり、裏側を見たり。


すると見ている途中で下駄がフワッと煙のように消えた。


「えっ!?」


声を上げて亜流磨の方を見ると下駄は亜流磨の足に納まっていた。


「おぉ、凄いな」


「もういいじゃろう、何か分かったか?」


「いやさっぱり」


丸くなっていた伽凛が不意に立ち上がって亜流磨にトトトッと近づいたかと思ったら前足でちょいちょいとつつくように触った。


もとい、触れなかった。


前足は亜流磨の体をすり抜けている。


「アタイは触れないみたいだねぇ」


今度はスンスンと亜流磨の匂いを嗅ぎながら言う。


「嗅ぐでない伽凛、よさんか」


亜流磨がなんか恥ずかしそうに伽凛を手で追い払う、女子かっ!


・・・いや、女子か。


面白いからちょっとからかってみよう


「亜流磨、手を見せてくれ」


「手をか?」


亜流磨が首を傾げながらも俺に手を差し出す、俺は手を取って撫でたり手の甲の皮を摘まんだりする。


「な、なにをしておるのじゃ」


「んー、三十才くらいかなぁ」


亜流磨がばっと手を引いた


女子(おなご)年齢(とし)を詮索するでないわっ」


「ははっ、わるいわるい」


「しかし不思議だねぇ、幽霊に触れるなんて聞いたこともない。 亜留磨が変なのか、太郎が変なのか・・・ どっちも変なのかもねぇ」


「変て・・・ んー、まぁ、変なのかもなぁ」


改心(?)した悪霊と一緒に未来から過去に転生した男。


人間、皆死んだら転生したりすんのかな?


死んだ人間に話しなんか聞けないから分かんないな、転生したとしても記憶なんか持ってないか。


ってか、幽霊なんか触れてなんか得すんのかな?


「なぁ亜流磨、触られた感触ってあんのか?」


「ある、変な感じじゃ。 何に触れてもなにも感じない、それどころか自分で触っても感触はない。 なのに太郎が触った場所だけ感覚があるんじゃ」


俺が触っててもちょっと冷たいけど感触は人間の手と一緒だった。


まぁ、手を繋いで散歩は嫌だけど・・・


「随分と夜も更けたぞ、太郎。 明日も朝は早いのではないのか?」


「あぁ、そうだな。 亜留磨、もし俺が起きなかったら夜明けに起こしてくれないか?」


触れるんだし揺すって起こすくらいは出来るだろう。


「分かった」


「ありがとう、それじゃあおやすみ」


布団に入って眼を瞑る、色んな考えが頭に浮かんでは消えていく。


俺は一体なにをしたいのか?


前世では消去法で生きていた。


あの五月蠅い家族のいるワンルームから早く出たかった、高校に行きたくなかった。


父親のやっていた美容師になったのは中卒でもなれて家から出られたからだ。


何でも良かったが父親がやっていたからなんとなく入っていきやすかった。


憧れとかは全くなかった。


他にやりたい事も見つからず、ぼんやり仕事を続けて休みの為に生きていた。


思い返してもつまらない人生だったなぁ。


せっかく産まれ変わったんだし戦国武将や維新志士のように熱く生きたい。


そんな風に考え事をしていたら、戦国時代のある(・・)詩を思い出した。


(偲び草には何をしよぞ、一定 語り起こすよの)


戦国武将の織田信長が好きだったと言われる詩だ。


死後、自分を思い出してもらうために何をしておこうか

きっと、それを頼りに思い出してくれるだろう


そんな意味の詩、親父にこの詩を聞かされたときに自分もそんな風に生きたいと思った。


そんな、熱い気持ちもいつのまにやら忘れて消化試合みたいな毎日だった。


仕事は金を稼ぐだけ、俺は休日の為に生きてる。


そんな風に思って色んな遊びには凝ってたけど、今思えばソレも言い訳みたいに感じるなぁ。


でも


今がその時だ


前世のような死ぬまでだらだら生きるだけなんてもうごめんだ


やってやろうじゃないか


この世界では完全燃焼して「我が人生に一片の悔いなし」って言って死んでやろうじゃねーか!


俺は眼を閉じて、生まれ変わった人生の未来像を思い描きながら眠りに落ちた。

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