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◆悪役令嬢最後の取り巻きは、彼女の為に忠義を貫く!◆  作者: ナユタ


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◆エピローグ◆

これにて完結です!

ここまでお付き合い頂きまして本当に

ありがとう、ありがとう、ありがとう!\(*´ω`*)ノ



 目まぐるしく周囲の物事が変化した卒業舞踏会から、六日目の朝。


 バルクホルン様の母国から迎えとして寄越された、質実剛健を地で行くような馬車が、ずらりと二十台ほども横付けされたレッドマイネ家の玄関ホールでは、行き先をヘレフォード領からシュタインブルク王国に変えた嫁入り道具が、バルクホルン様の指導の下どんどんと積み込まれていく。


 私は三日前からずっと泣き続けたせいで腫れぼったくなった目蓋を冷やしながら、呆れたように微笑むソフィア様の前で新たに湧き上がってくる涙を必死で飲み下す。


 けれどそんな恥も外聞もなくみっともない姿を晒す私の背後には、レッドマイネ家の方々がずらりと同じような姿で並んでいるのだから構わないのだ。皆で泣けば目蓋がパンパンに腫れたところで恥ずかしくないわ。


「ソフィア様……初めて出逢った時から、いつも誰かの陰口に怯えるだけだった私にとって、貴女様はとても眩しい方でした」


「それはもう三日前からずっと聞いているわ。だけど……ありがとうクロエ。わたくしも同じ気持ちよ。あなたがいてくれたから今日まで少しも寂しくなかった。わたくし達兄妹が孤独を感じて心が壊れなかったのは、全部あなたのお陰よ」


「も……勿体ないお言葉です! 今日からソフィア様が国内のどこにもおられないだなんて、私、耐えられるかどうか……!」 


 あまりにお優しい言葉に感極まってやっぱり泣いてしまった私に、それまで慈愛に満ちた表情をしていたソフィア様が「あらそう? だったらここで、わたくしからあなたに提案が二つほどあるのだけれど、聞いて下さるかしら?」と素晴らしい微笑みを向けて下さる。


 しかし私はこの三日間、その微笑みの後に続く言葉を頑なに断り続けていた。その言葉というのが――。


「一つはわたくしの侍女として一緒にシュタインブルク王国に向かい、生涯をかけてわたくしに仕える道で……あとの一つは、もうお兄様の口から聞いたでしょうけど、わたくしと姉妹になる道ですわ。わたくしとしては断然後者がオススメね」


 身構えていた通りの言葉に「そんな、ソフィア様と姉妹だなんて恐れ多いですわ。それでしたら侍女として……」と、これもまたこの三日間で言い尽くした言葉を口にしようとしていたら、突然背後から伸びてきた熱い掌に口を塞がれてしまう。


 ソフィア様はもごもごと抗議の声をあげようとする私の背後に向かって、輝くような微笑みを浮かべながら「お兄様! 寝ておられなくてもよろしいのですか?」と声を上げられた。


 それに対し「ああ。俺が熱を出したせいで、もう六日もお前の出発を遅らせてしまっているんだ。今日こそは見送ることにするよ」と優しげな声を出しているこの人が、連日お見舞いに来たバルクホルン様に対して『浮気をしたら殺す』と呪いの言葉を吐いていたのが嘘のようだ。


 バシバシとその腕を叩いて逃れようとしていたら、身を屈めたオースティン様に旋毛の辺りに口付けられ、その瞬間一切の動きを止めてしまう。


 今までの十年間で優しくされたことは多々あったけれど、こんな風に甘やかされることには全く耐性がない私は、背後に控えるレッドマイネ家の人達から向けられる生温かい気配に赤面するしかない。


 私としてはどうしてこんなことになったのか、六日経った今も頭がついていかない状況なのだ。


 それというのも卒業舞踏会の後、大混乱に陥りながら自宅に戻って両親に手紙の内容について説明追求をしたのだけれど……。



『お前を妻にしたいとレッドマイネの若様に言われた時は驚いたが、まあ、何となくそうなりそうな気はしていたからね』


『でもまさかご本人が単独でいらして、直談判されるとは思っていなかったのよ? それに勿論クロエは家格を気にするでしょうし、わたし達も昔からのお付き合いがあるとはいえ、恐れ多いと五回目まではお断りしたのだけれど……』


『流石に他の婚約者候補にと思っていた方達の不正情報を、あれだけ束にして持ってこられてしまうと、そんなところに大切な娘を嫁がせることは出来なかった。その点オースティン様は何度も家名を振りかざすこともなく、頭を下げに来られた。レッドマイネ様達にも諦めるよう説得して欲しいと相談したのだが、逆に是非にと言われてしまってね。親としてはどうすべきか、もう悩むまでもなかったんだよ』



 唖然とすると同時にまたも目眩を感じて、今度も夢のお話にしてしまおうかと一瞬本気で悩んだけれど……出来なかった。浅ましくもこの夢を現実のものとして認識したい気持ちが勝ってしまったからだ。


 とはいえ、まだそれを受け入れるには覚悟が追いつかないので、無自覚にさっきのような返答をしようとしてしまっては、オースティン様に止められることを繰り返している。


 それにこの情報戦を知らなかったのは私とソフィア様だけで、時々顔を出していたバルクホルン様は、オースティン様と一緒に不正を暴く為に暗躍して下さっていたのだそうだ。


 だからこそ、一ヶ月間も“夏期合宿”と称して私を家から引き離し、レッドマイネのお屋敷に留め置かれたのだとオースティン様が説明して下さった時には、本気で呆れたわ。これでもしもソフィア様が私と同じく“夏期合宿”をしていると思いこんでいて下さらなければ、一人だけとんだ道化になってしまうところだった。


「すまないな、リディー。いくらお前の願いでも、クロエを連れて行かせることだけは出来ない。ただお前が会いたくなったら、いつでも帰ってきてくれ。そうすればクロエと一緒にここで出迎えると約束しよう。そうだな、クロエ?」


 背後から屈んで顔を覗き込んでくる、サファイアに紫色の散ったその不思議な瞳に、心臓がバクバクと音を立てる。返事をしようと思うのに声が出せずに、こくこくと馬鹿みたいに頷くことしか出来ないのが辛い。


 人参色の太い三つ編みが首を上下させるごとに肩口で跳ねるけれど、それを見て笑うのはオースティン様だけではなくて。


 そんな私達のやり取りを見ていたソフィア様が「こうなってみると……あなたを初めて見た日に、お兄様が仰ったことは全部本当になったわね」と、当時を懐かしむように目を細めて笑った。


「あなたは憶えていないでしょうけれど、あの日は珍しくお兄様も調子が良かったから、お茶会に出席していたのよ。そこで陰口を叩かれて傷ついたあなたが会場から立ち去るのを見ていたお兄様が、こう言ったの」


 背中でまだ微熱のあるオースティン様の体温を感じながら、ソフィア様が口になさった言葉が気になって、視線で会話の先を促す。


「“今この会場から離れたあの子は、リディーに似ている。きっとお前の良い友人になってくれるよ”と。あの時はあなたの見た目に似ていると言われたのかと思って、少しだけショックだったのだけど。今になってみればお兄様が似ていると言ったのは、きっとわたくしとあなたの性格ね?」


 そう仰ってから浮かべられたカラリとした笑顔は、私とオースティン様の良く知るものではなくて。私達三人だけだった世界に新しく割り込んできた人物が与えたものなのだろう。


 そんなソフィア様の後ろから大股で近付いてきたバルクホルン様が「支度が出来たぞお姫様。本当に攫って行っても構わないんだな?」と、私とオースティン様を交互に見つめてからソフィア様に訊ねた。


 私の世界を構成していた大切なピースの一つが持ち去られることが、辛くない訳ではないけれど。それよりもその頬がふわりと色づくことの方が嬉しいから、バルクホルン様を許して差し上げますわ。


 だけど涙が零れるのだけはどうしようもなくて、俯いてしまった私の肩をオースティン様がそっと叩いてから「リディー、その男に未来がないと感じたらいつでも戻っておいで」とソフィア様に優しく声をかけ。


 ソフィア様がその言葉に返事をする前にバルクホルン様が「義兄上も、この国に居辛くなるようなことがあれば、オレ達を頼って亡命しに来ると良い」と笑った。そんな男性陣の軽口の応酬に、いつの間にか涙も引いて。気が付けばソフィア様と一緒に笑っていた。


 そうして今度こそ笑顔のまま、二人を載せた馬車が見えなくなるまでレッドマイネ家の方達と一緒に手を振り続けていた……のだけれど。


 ソフィア様達の見送りの為に、やせ我慢をしてベッドから起きあがって来ていたオースティン様が、ついに限界を迎えて口を押さえたまましゃがみ込んだ。けれど私が慌ててレッドマイネの使用人を呼ぼうと後ろを振り向けば、そこにはもう誰の姿もなかった。


 仕方なくいつものように、視線を合わせようとしゃがみ込んで「オースティン様、お疲れさまでした。そろそろお部屋に戻りましょうか?」と声をかけたところで、グッと手首を引っ張られたと思ったら……私の鼻先にオースティン様の熱でかさついた唇が微かに触れて。


 突然の騙し討ちにあって驚きに目を見開く私に「コンラッドと呼んでくれ」と照れたように微笑むのは、届かないと思った初恋(ヒト)。彼の微熱が伝播したようにふわふわとした気分で「分かりましたわ……コンラッド」と答えれば、もう一度、さっきのかさついた唇が今度は私の唇に触れた。


「愛しているクロエ。たぶん、一目惚れだった」


「あら、それを言うなら、私は貴男が初恋ですわ」


「負けず嫌いめ」


「そちらこそ」


 サファイアに紫の散る不思議な瞳に映るのは、まだまだ丸いままの私だけれど。夢を見ましょう、これから二人、目眩のするような醒めない夢を。

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