◆プロローグ◆
いつものように勢いで始める作品ですが、
中編を予定して頑張りますのでお暇な時にでも(´ω`*)
幼い頃の私は“ぽっちゃり”という表現では足りないほど貫禄があった。それはもう“もっちゃり”とした体格の私はどんなお茶会の席に呼ばれても、そこに集まる見目麗しいご令嬢達とはかけ離れた存在。
そして子供というのは、大人が思うよりもずっと残酷に他者を貶めようとするから質が悪い。
『ねえ、ご覧になって? またあのフリルでデコレーションされたブタちゃんが来ましたわよ?』
『はちきれそうになって、まるでハムみたいですわぁ』
『そんな風に仰ってはお気の毒ですわよ。わたしなら、あんなみっともない姿ではとてもじゃありませんけどお茶会になんて出られませんもの』
クスクス、クスクス。
悪意の棘が全身を刺す痛みに震えながら、それでも将来的にこの苦痛でしかないお茶会が、社交界の中で重要になることも分かっていたから必死に耐えた。
誰とも打ち解けない私を“引っ込み思案な一人娘”だと心配した両親は、お茶会に出席させれば友達が出来るだろうと考えて、毎回お茶会の手紙が届くたびに私に似合わないドレスを着せては連れて行ってくれたけれど――。
『大丈夫よ。きっと今日こそあなたと気の合う友達が出来るから、ね?』
『ああ、そうだとも。お前は賢くて優しい子だ。友達なんて一人作れば、あとはすぐに増えるものだよ』
両親は私を溺愛していて、その言葉に何の含みもないことが、また娘を追い詰めるということに気付く人達でもない。だからいつも私を安心させようとそう微笑む母は美しくて、どうしてこの人の血を引いたはずの私はこんなに醜いのかと卑屈さに拍車がかかった。
そうしてやっぱりその日のお茶会でもすっかり浮いてしまっていた私は、招待されたお屋敷の庭園の隅っこでじっと時間が過ぎ去ることだけを待っていたのに……。
『あら嫌だわ、我が屋敷内に着飾った子豚がいるだなんて。貴女、今日のお茶会は人間相手に興じておりますのよ?』
唐突に降ってきた、まるで小鳥が囀るような愛らしい声にそぐわないきつい発言内容。
けれどその発言を投げかけてくるのが、王室御用達の職人の手によって生み出されたのかと思えるような美少女から出ているのだから、言い返すことどころか返事も出来なかった。
それどころか、あまりのショックに言葉を失って呆然としてしまったくらい。
だけどその声の持ち主は今まで見た他のご令嬢達とは違い、たった一人で私の前に立って言ったのだ。
『貴女、近くで見ると遠目で見るよりも不細工ですわね。でも良いわ。わたくし貴女みたいに不細工な方をずっと探しておりましたのよ』
そう私を見てうっとりと微笑む美少女の顔は、これまでに何度か見たことがあった。ソフィア・リディアローズ・レッドマイネ。
レッドマイネ伯爵家の一人娘であり、次期ヘレフォード侯爵家の当主になると言われているジェームズ・クリストファー・ヘレフォード様の婚約者でもある有力貴族。
『ねぇ貴女、今日からわたくしに侍りなさい。そうすればわたくしは貴女のような不細工を傍に置いておく寛大さを見せつけられるし、貴女は会場内で卑怯な陰口を叩いた令嬢達に、わたくしの名を以て罰を与えられるわよ?』
天使のような微笑みで、悪魔のような言葉を吐き出すその姿は、まさに上流階級の権化。普通ならいけ好かないどころでは済まない尊大な発言に、けれど、私は驚喜にも似た感覚を覚えた。
そうして知らない間に私は頷いて、こう答えていたのだ。
『今のお言葉が本当ならば是非、この私を……クロエ・エヴァンズをあなた様のお傍に侍らせて下さいませ!!』
――と。
この誓いを交わした時から、私はそれまでのように卑屈に下を向くことはなくなった。何故なら私はあの日から燦然と輝く女王様を得たから。
ソフィア様の言葉に、姿に、庇護されて、私は初めて社交の縮図であるお茶会で【豚】ではなく【エヴァンズ子爵令嬢】と呼ばれる私になれた。