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旧友


 夕暮れが、仄かにそのとばりを下ろし始めている。

 センリの身元の手掛かりを探すのは明日に回して、二人は大通りを宿に向かって歩いていた。

 すると、後ろから突然声を掛けられた。


「あれ? おい、エルじゃねぇか!」


 二人が振り返ると、一人の男性が手を振りながら近づいてくるところだった。


「おぉ、トレイスか! 久しいな」

「『アンフィスバエナ討伐作戦』以来だぜ。三年ぶりっつーとこかな」


 そう言って男はエルランドの肩を軽く叩いた。


「お前がレッジェーロにいるとは。珍しいな」

「お互い様だろ、放浪の身は。お前こそ、なんでここに?」

「あぁ、ちょっと事情があってな」


 センリは言葉をかわす二人を黙って交互に見上げていた。

 かなり背の高い男性だ。エルよりも十五センチ以上高い。表情は豊かで、エルとは真逆の飄々とした印象を受ける。

 何より、燃えるような赤い瞳と金色の短髪が目を引いた。派手だが、どこか気品の漂う色合いだ。

 軽装の革鎧レザーアーマーを身につけ、背中にはセンリの背丈ほどもありそうな長弓と矢筒を背負っている。


(エルの友達、なのかな……?)


 センリがぼんやりと見上げていると、その〈トレイス〉と呼ばれた男がその視線に気がついた。


「お? 何だ、このちんちくりんは」

「ち……!? そんなんじゃないもん!」


 不意に吐かれた暴言に、センリが抗議の声を上げる。


「おい、トレイス。相変わらず、失礼なやつだな」

「あん? なんだ、エルの連れかよ。いつの間にちびっ子を連れて歩くようになったんだ?」

「こら。……すまんな、センリ。気にしないでくれ。こいつはこういう奴なのだ」


 さらなる『ちびっ子』呼ばわりに、センリは頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。


「ま、いいや。まだしばらくこの街にいるんだろ? また会おうぜ。ちびっ子も、じゃあな」


 トレイスは一方的にそう言うと、エルランドの肩を叩いて大通りの人混みに紛れていった。


「ちびっ子って言うな、バカァ!」


 その背中に、センリが精一杯叫ぶ。

 まぁまず間違いなく聞いていないだろうな、と思いながら、エルランドは苦笑して小さくため息をついた。


   ◆ ◆ ◆


「むぅ~! やなヤツっ!」


 宿の一室に腰を落ち着けてからも、センリは憤懣やるかたない様子だった。


「まぁ、そう怒るな。トレイスにも悪気はない……と思う」

「悪気の塊だよっ!」


 ベッドの端に腰掛け、似合わない腕組みをして怒る。


「はっは、塊か。なに、話せば悪い奴ではないよ」

「エルの友達なの?」


 少しだけ怒りを鎮めたセンリが尋ねた。


「うむ、古い知り合いでな。何度か、共にアボイドの大規模討伐に参加したことがある」

「ふぅん……」

「優秀なハンターだよ。放浪の旅を続けているのは相変わらずのようだがね」

「目。赤い目をしてたよ」

「あぁ、やつは獅子の人〈ヴューテン〉とヒューマン、人間との混血なのだ。赤い目と金色の体毛は、その遺伝だな」

「〈ヴューテン〉……」


 センリは赤い目と金色の髪を思い出すように天井を見上げて呟いた。


「さ、今日はもう遅い。寝ることにしよう」


 エルランドはそう言って明かりを消すと、部屋のもう一方の壁際に備えられたベッドに潜り込んでいった。

 センリはもやもやとまとまらない考えが頭に渦巻いていたが、久々の柔らかい布団に包まれると、すぐに眠りへと落ちた。



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