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会えて良かった


 アイネがとどめの攻撃に出る――と思いきや、彼はピタリと動きを止めた後一瞬で後ろに跳躍した。

 と同時に、今までアイネがいた空間を一本の矢が通過し、向こうの木に深々と突き立った。


「遅いぞ、トレイス!」


 体勢を立て直したエルランドが叫ぶ。

 と、森の中から大弓に矢をつがえながらトレイスが現れた。


「いやー、悪い悪い。ションベンしてたわ。はっは。お、元気そうじゃねぇか、ちびっ子」


 そんなことを言いながらのほほんとセンリに手を振る。

 当のセンリは、まるで夢でも見ているかのようで何も言葉が出てこなかった。


 エルランドは腰の後ろからナイフを取り出すと逆手に構えた。戦闘用の物ではないが、無いよりはマシだろう。

 ピタリとナイフを構えたエルランドと、きりきりと大弓を引き絞るトレイス。


「……さて、形勢逆転だが。どうする?」


 二人から間合いを取ったアイネに、エルランドが静かに尋ねる。


「ちっ……」


 アイネが吐き捨てるように舌打ちをして、ゆっくりとローブの袖に手をいれる。

 奥の手を警戒したエルランドとトレイスに緊張が走った。

 三者とも動けない。


「…………」


 さらに激しさを増した雨が全員の身体を叩く。

 やがて張り詰めた緊張が臨界点に達しようとした瞬間――。

 目を焼くような白い閃光と共に、落雷の大音響が響いた。


「きゃあっ!」


 不運にも、落雷はセンリの立つ吊り橋の中央に直撃した。

 貧相な吊り橋は、火の手を上げながら衝撃で弾けるように崩れていく。


「あっ……!」


 岸に戻ろうにも、すでにセンリの足元も崩壊を始めていた。


「センリ!」

「マジかよ……!」


 エルランドとトレイスが同時にセンリの方へ駆け出す。


「エル! トレイス……!」


 センリが必死に手を伸ばす。


「間に合えっ……!」


 僅かに早く到着したトレイスが崖から身を乗り出すように手を伸ばしたが、センリの手は虚しくその数センチ先の空を切った。


「くそっ! ――お、おい、エル!?」


 歯噛みするトレイスの真横からエルランドが何のためらいもなく空中に身を躍らせた。

 エルランドは飛び出した勢いでセンリに接近すると空中でその身体をしっかりと抱きかかえ、そのままきりもみつつ落下していく。


「えぇい、なるようになれ……!」


 トレイスもすぐに覚悟を決めると、二人を追うように風雨に荒れる眼下の濁流へと飛び降りた。




「しっかり捕まっていろ!」


 空中でしっかりとエルランドに抱えられたセンリは、エルランドがそう叫ぶと彼の背をぎゅっと握りしめた。

 眼下に迫る濁流。

 頭上からはトレイスも後を追ってきている。

 これからどうなるのだろう。自分のせいでこんなことになってしまった。もしかしたら、死んでしまうかもしれない。

 色々な思いがセンリの脳内によぎったが、最後に残ったのは一つの純粋な気持ちだけだった。


(会えて良かった……)


 二つの水しぶきを上げながら着水。

 雨で勢いを増した流れが、三人を押し流していった。



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