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センリ

 それから二人はぽつぽつと幾つかの会話をした。

 少女――センリは、名前と『ヨコハマシ』という地名以外を、本当に全て忘れているようだった。


「記憶喪失か……。これは大変だな」

「ごめんなさい……」


 センリが少しシュンとしてうつむく。


「いや、すまなかった。君が悪いわけじゃない。ところで……、君は何故そんな水兵のような格好をしてるんだ?」


 センリの格好は水兵の着る襟の大きな服によく似ていた。が、水兵たちと違って綺麗な刺繍が施されているし、何より腰から下に履いているのが膝丈ほどのスカートだ。


「へ、変かな……!?」


 センリが自分の格好をきょろきょろと見回しながら言う。


「いや。……素敵だと思うよ」

「ほんと? ……えへへ」


 エルランドの言葉に、センリは初めて満面の笑顔を浮かべた。


(可愛い子じゃないか)


 あどけなさの残る無邪気なその笑顔を見ていると、心が洗われていくような気がする。


「あの、エルランド……さん」

「エルでいい」

「じゃあ……エル。わたし……これからどうなっちゃうのかな」

「あぁ。とにかく、私と共に街まで行こう。ここから一番近い〈レッジェーロ〉は別名『産業都市』とも呼ばれている大きな街だ。きっと、何か手掛かりが見つかるよ」


 エルランドはそう言って、安心させるように微笑んだ。


「ただ、だいぶ歩くことにはなるだろう。一両日中には着くと思うが……。すまないが、我慢してくれ」


 センリはぶんぶんと何度も首を縦に振った。


「そのレッジェーロには、エルみたいな人が沢山いるの?」

「いや、我々フィエールはほぼいない。君のようなヒューマンと、他には少数の〈ヴューテン〉と言う種族が――」


 エルランドはそこで不意に言葉を切った。

 静かに傍らの剣を掴んで立ち上がると、後方の茂みを注意深く見つめる。


「どうしたの……?」

「私から離れないように……」


 不安そうなセンリに向かって、出来るだけ穏やかに言った。

 ピンと立った耳が、ぴくぴくと小刻みに動く。


 すると次の瞬間――


『ギィィ!』


 茂みの低木を掻き分けるように、巨大なサソリが飛び出してきた。

 サイズは雄牛程もあり、鋏が四本に毒針の尻尾が二本も付いている。


「ひっ……!」


 センリが短い悲鳴を上げた。

 と、同時にエルランドは焚き木をまとめて大サソリの方へと蹴り飛ばした。


『ギッ……!』


 降りかかった炎に、一瞬大サソリがたじろぐ。


「センリ! 走るぞ!」


 エルランドは荷物を素早く背負うと、センリの手を引いて森の中へと走り出した。



読んで頂きまして、本当にありがとうございます。

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