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負けないこと、信じること


 小さな部屋のベッドの上で、センリは目を覚ました。

 ゆっくりと身体を起こす。


「う……いたた……」


 叩かれた拍子に切れたのか、口の端が鈍く痛んだ。その他にも肘や膝も擦りむいている。


 ベッドに腰掛けながら、部屋の中を見渡した。

 手狭な室内は、ベッドの他には小さなテーブルと椅子、壁には小さな窓が一つあるだけだった。窓の外はまだ真っ暗だから、あれからそれほど時間は経っていないようだ。

 試しに、立ち上がりって扉のノブを回してみる。が、鍵が閉められているようでびくともしない。


「……あの~。誰かいますか~?」


 恐る恐る扉の向こうに声を掛けてみたが、返ってくるのは静寂だけだった。


「むぅ……」


 諦めてベッドにもう一度腰掛け、改めて今の状況を思い返してみる。

 ウォルフガングの放った言葉が脳裏をよぎる。


(エルが……エルがあんなこと絶対言うわけない。嘘を言ってるんだ。あの『しきょう』って人、やっぱり悪いやつなんだよ)


 初めこそ、記憶を失う前の自分は本当にここにいたのかもしれないと考えていたが、今となってはもはや自分はこの場所とは何の関係もないと、確信出来るほど感じていた。

 ではなぜあいつらは嘘をついてまで自分を探していたのか。理由は恐らく一つ……。


(あいつも〈神器〉を探してるんだ……)


 エルやトレイスが教えてくれた。


 『〈神器〉はこの世界の平和を守ってた』って。〈神器〉が復活すれば、アボイドも戦争も全部無くなるんだって。

 そして、何故かは分からないけど、自分がその為の〈鍵〉のような存在かも知れないらしい。


(神器があんなやつの手に渡っちゃったら、きっと大変なことになっちゃう)


 あの〈音詠みの聖譜〉に触れた瞬間、沢山の神器の声が津波のように押し寄せてきた。その声、音は自分を通して〈聖譜〉に流れ込んでいって……。


(でも、途中で失敗したみたい)


 だからあんなに怒っていたのだ。ざまーみろ。

 けど、ここにいればいずれまた〈聖譜〉に触れさせられるだろう。

 そうなれば、多分、今度こそ終わりだ。

 よくは分からないが、きっと色んな良くないことが起きる。


 頭の何処か片隅で、激しく警鐘が鳴っていた。


「でも、どうしよう…………」


 天井を見上げ、呟く。

 エルが助けに来てくれる――かは、分からない。

 ウォルフガングが言っていたことが本当だとは思いたくないが、助けに来てくれるという保証はどこにも無いのだ。

 それこそ彼の言葉通り、もう二度と……。

 鼻の奥がツンとして涙が零れそうになるのをぐっと堪える。


(泣くな……! 自分でなんとかしなきゃ……! それで、もう一度エルに会いに行くんだ!)


 そう強く心で思うと、何だか少しずつ力が湧いてくる気がした。



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