2 貯蔵
ゴブリンに転生してから3日が経った。
洞窟から外に出るまでには他のモンスターには一度も会わずに済んだが・・・洞窟の外には結構な数のモンスターが視認できた。
昼間そこに飛び込むような勇気が俺にはないので、とりあえず基本的には夜に行動するようにしているが・・・
夜、森の木々によって月の光が遮られている中で、俺はじっと闇夜に紛れて時を待つ。
モンスターは日中だろうと夜中だろうと常に食料を求めてさ迷っているようだった。レベルは俺よりも最低で50以上上という絶望的な状況の中、俺に残された選択肢はそう多くなかった。
今回のターゲットは《マードッグ》という中型の犬のようなモンスターだ。闇夜に紛れてタイミングを見計らう。
がさっ・・・がさっ・・・今!
『ぎりゅり!』
モンスターが油断する一瞬のうちに闇夜に紛れて、とあるモンスターから奪った不恰好な剣で首を斬る。闇夜において奇襲とのスキルの補正があるとはいえ、その一撃で倒せるほど甘くないほどのレベル差があることはわかっているので、相手が痛みで怯んだうちに何度も剣を突き刺す。
ざしゅ、ざしゅと何度も何度も繰り返し攻撃を与えると、最初は抵抗しようと暴れていた《マードッグ》も次第に動きが止まっていき、しばらく待つと完全に停止した。HPを確認すると完全に0になったのを確認してから、俺は動かなくなった《マードッグ》にスキル【盗賊】の略奪を使用した。
略奪において奪うのは《マードッグ》のスキルだ。アイテムや武器を持っているモンスターならそれらも対象になるが、動物型などのモンスターはスキルくらいしか奪うものがないので仕方ない。
さてさてステータスは、
★★★★★★★★
ステータス
種族 ゴブリン
レベル 45→46 レベルアップ
HP 45000→46000 1000アップ
MP 4500→4600 100アップ
スキル
【盗賊】
気配遮断、奇襲特化、暗所無敵化、略奪
【翻訳】
言語理解、言語統一
【小鬼】
再生能力、繁栄
【感知】
気配察知、急所感知、魔力感知
【偽装】
変化、変色
【飛行】
音速、飛翔、空中停止
【放電】
電気耐性、電流操作
【水】
水耐性、水流操作
【耐性】
全属性耐性+
【炎】
炎耐性、炎操作
【毒】
毒耐性、毒操作
【硬化】
身体硬化、装甲硬化
【変換】
物質変換
【威嚇】 →NEWスキル
牽制、威圧
★★★★★★★★
どうやら先程の戦闘でレベルがまた一つ上がったようだ。
そう、転生時は10だったレベルも46まで上がった。どうやらモンスターを倒すとゲームみたいに経験値を得てレベルアップする仕組みのようだが・・・ゴブリンがこんなにレベル上げして大丈夫なのか不安ではあるけど、まあ、この世界のことが分かるまではひたすらレベル上げとスキル入手、それに情報収集に専念するべきだろう。
そしてスキルもかなり奪った。10個くらい転生時から増えているが、全てを確認は出来ていない。時間がある時にはなるべく入手したスキルを確認してはいるが・・・何分量が多いし使い方が今一つわからないものもあるからだ。
今回、《マードッグ》が持っていたスキルは【威嚇】。牽制、威圧と書いてある通りどうやら相手を威圧することができるスキルのようだ。
ちなみに同じモンスターからスキルを略奪した場合は特に変化はないみたいだった。武器や道具ならともかくスキルはほとんど同じモンスターなら同じスキルなので、新種を見つけて狩るのが賢明だろう。
そして面白いことにモンスターを倒すとゲームのようにレベルが上がるだけではなく、なんとお金も手に入るのだ。とはいえ、今のところ使い道がわからない・・・というか、そもそもゴブリンが人間の通貨を手に入れても使い道がまるでなさそうなので気にはしてないが、そういうゲームみたいなシステムがあることからもモンスターを狩るのは必要な行為だと思う。
ステータスを確認してから俺は《マードッグ》を小型のナイフで血抜きして解体してから食べられそうな部分を持って洞窟へと戻った。
モンスターの死体は一定時間経過すると自然とゲームみたいに消えるようだが、その前に解体しておけば動物の肉なら食料アイテムとして所持できるようだった。そのシステムもなんか不思議ではあったが、それが仕様なら従うしかないだろう。
洞窟に戻ってから俺は乾いた枝を何本か重ねてスキル【炎】で火をつける。ちなみにこれは《フレイムバック》という炎のモンスターから奪ったスキルだが一番使用率が高いスキルだ。
とりあえず食べれそうな肉なら焼いて食べることにしているが・・・ゴブリンの体になってから食欲がどれだけ満たしても満たされないようになっていた。代わりに睡眠はそこまで必要ないようだが、三大欲求のバランスがかなり崩れているのは確かだ。
ちなみに性欲は我慢している。いや、結構性欲もあるんだけど・・・流石にこれは発散するわけにはいかないからね。今のところ人間には会っていないけど・・・人間の女に遭遇したら襲うかもしれないのが怖いところだ。
『はぁ・・・この満たされない食欲だけでもなんとかならんかな・・・』
食べても食べても満たされない食欲に若干鬱になりそうになる。無限の食欲ってきこえはいいけど、実際には飢餓状態と変わらないだろう。確かにこれなら人間を襲ってでも餓えを満たそうとするモンスターの気持ちがわからなくはないが・・・それでも、自分の欲望のために誰かを傷つけることは偽善だろうとできなかった。
ここ何日かで手に入った情報はあまり多いとは言えない。分かったことと言えばモンスターを倒せばゲームのようにレベルアップとお金が貰えるということ。俺のスキルである【盗賊】の略奪を使えばスキルや武器を奪えるということ。あとはゴブリンになってから感じる食欲と性欲の増加といったところだろうか?
ちなみにモンスターに話しかけられるかについては・・・一度トライしてみたが、失敗している。いや、なんとなく言葉は理解できたけど・・・伝わってくるのは圧倒的な飢えで対話は成り立たなかった。この付近だけなのかはわからないが、モンスターは常に飢えており、同族だろうと危険なことはなんとなく観察した結果わかった。
俺もいつゴブリンの本能に負けるか心配だけど・・・そこはなんとか頑張って人間らしい心だけは保ちたいものだ。まあ、別に本能に身を任せて楽になってもいいけど・・・それで自分よりも格上の相手に殺されるのはなんとか避けたいところだ。
何よりもこのゴブリンとしての生を終えてしまったあとにどうなるのかわからない恐怖が俺としては強かったりする。
あるいは人間に戻れるかもしれないけど、今度は更に過酷な環境に転生するかもしれないし、はたまた今度こそ俺という自我が完全に消えるかもしれないから下手に死ぬことはできない。
『はぁ・・・せめてもう少し美味しいご飯食べたい』
焼き上げた《マードック》の肉を食べてからため息をつく。
調味料どころかそもそも食材が限られる環境においてただ焼いただけの肉というのはあまりにも悲しい。
素材の味は悪くないけど、甘いものとか食べたい。チョコレートとかそういう甘いやつ・・・うん、我ながら無茶なことだとはわかっているが、毎日肉と果物、野草ばかりだとそう思ってしまうのは仕方ないだろう。
これでせめて主食の米とかパンがあればまだ違うのだろうけど・・・流石にそんなものがモンスターから手に入るわけもなく、お金とスキルばかり増えていく・・・お金あっても買い物できないから意味ないけどさ。ゲームみたいな仕様ならモンスターからその手のアイテムドロップとかあっても良くない?とか思ってからむなしい思いをしつつ焼きたての肉を食べる。
まあ、今はひたすら耐えるしかないだろうと割りきって残りの肉をたいらげた。かなりの量の《マードック》の肉を食べたがまだまだ食欲が落ち着く様子はなかった。
そうして頃合いを見計らって出掛けて昼間は寝て過ごすという生活を続けていた俺だったが・・・そんな生活にも限界というものはくるのだった。