7、突入、そして狂信者たち
気付けば、僕は波旬の死体の前に立っていた。ぼんやりと、僕は立ち尽くす。
今回は何が起こったのか記憶を保持している。僕が、波旬を倒したんだ。圧倒的な力で、常人の理解を超えた力を発露して。僕が打ち倒したんだ。
あの時の僕が一体何だったのか、それは解らない。波旬は僕を見て、人外の起源がどうとか言っていたが僕にはそれが何なのか、今一つ理解出来ていない。只、あの時の僕は本当に僕だったのだろうか?
何だか、僕であって僕でない何かに操られていた気がする。それが何なのか、やはり解らないけど。
しかし、だ・・・
とにかく、僕は波旬に勝ったのだろう。全く勝利した気がしないが。まあ今はそれは良い。
複数人の気配が接近するのが解る。人間の気配だ。恐らく、外法教団の構成員だろう。気配が僕を囲むように動いているのが解る。気配の動きが、はっきりと理解出来る。
何故、此処まではっきりと気配の動きが読めるのか?それは、一応予測がつく。
恐らくは、先程の状態に対する反動のような物か。眼も良く見えるようになった。人間の視界の限界を大きく超えて視えるようになった。どんどん、人間からかけ離れていく気がするな。
・・・まあ、やはりそれも今はどうでも良いんだけど。
そして、僕の周りにそいつ等は姿を現した。姿を見せていない奴等を含めて、およそ百人前後か。
僕は、僅かに目を見開いた。数は問題にならない。僕が驚いたのは、そいつ等の装備にあった。
その手に、拳銃を装備していた。それも、ほぼ全員が。この世界に存在しない筈の拳銃を。
科学技術の発達した魔族の文明にすら、拳銃は存在しない。あくまで、魔術の代替に過ぎない。
それに、僕はその拳銃を前世で見た事があった。実際は、本で読んだ程度だけど・・・
・・・その拳銃は、地球の物とあまりに酷似していた。というより、瓜二つだ。
ソーコム拳銃。恐らくは、それをモデルにして改造を施された拳銃だろう。所々、魔術的な改造が施されているのが理解出来る。この世界の技術で、地球の武器を再現したのか?それとも・・・
・・・或いは地球から武器を輸入してこの世界の技術で改造を施したか?
どちらにせよ、どのような改造を施されているのか解らない以上、下手に攻撃は出来ない。魔術的な改造を施されているとはいえ、一体どのような魔術が組み込まれているのかは解らない。
故に、僕は黙って木剣を構える。さて、どう出るのか?相手の出方をじっと見る。
動きは、すぐにあった。周囲を囲んでいた奴等が、一斉に拳銃を構える。
構えて、鍵となる言霊を放つ。
「「「Fire!!!」」」
一斉に放たれる銃弾の嵐。その一発一発が、炎を纏って僕に襲い掛かる。まさしく銃弾の嵐だ。恐らくは常人では反応する事すら出来ず、灼熱の弾丸によって身体を食い破られるだろう。しかし、だ。
次の瞬間、奴らの目が驚愕に見開かれた。それも、当然の話だろうが。
僕は、至って平然と木剣によってそれら銃弾の嵐を薙ぎ払った。木剣の腹で弾の軌道をずらし、その軌道を僅かにずらしたのだ。それがどれ程馬鹿げた技術なのか、もはや言うまでもない。
銃弾の一発や二発なら訓練を受けた人間でも出来たかもしれない。しかし、僕のそれはもはや、そう言うレベルを超えている訳だ。文字通り、次元が違う。桁が違う。
僕は、銃弾の嵐を一発一発丁寧にいなしたのだ。その数、秒間千発や一万発にも及ぶだろう。それを僕は丁寧にいなして撃ち落とした。実に馬鹿げている。ありえない。
しかし、それで僕は拳銃にどのような魔術が組み込まれているのか正しく正確に理解した。
解ってしまえば、実に簡単な事だった。簡単にして、単純明快だ。
「火炎の魔術と、それに魔力を物質化して弾丸に具現化する魔術が組み込まれているな?」
「っ!!?」
神父の一人が、びくっと肩を震わせる。図星か。僕は、目を鋭く細める。
つまり、だ。拳銃に組み込まれた魔石が生成する魔力が枯渇しない限り、無限に弾丸を生成して炎の魔弾に変える力を持つ武器という事か。実に解りやすい。
下手に面倒な魔術が組み込まれていなくて助かった。状態異常とか?
触れた相手を石化するとか、即死の呪いとかが組み込まれてなくて、むしろ助かった。うん。
ならば問題ない。僕は、獰猛に笑った。その笑みに、奴等は揃って肩をびくっと震わせた。
さて、蹂躙の始まりだ。
・・・・・・・・・
圧倒的だった。それは、余りにも圧倒的過ぎた。もはや、誰も僕の進撃を止める事が出来ない。
斬って、突き刺して、抉って、薙ぎ払った。そして、そのまま進軍を続ける。誰も、誰一人として僕を止める事が出来る者は居ない。故に、僕は止まらない。進み続ける。
やがて、僕は途方もなく巨大な大樹の許に辿り着いた。その根元に、神殿が建てられていた。明らかな人工物の存在に僕は溜息を吐いた。やはり、奴等の拠点は世界樹にあったかと。
そのまま、僕は神殿の中に躊躇う事なく侵入した。直後・・・
ガガアアアンッッ!!!突如、大音響と共に僕に二発の銃弾が襲い掛かる。
それは、先程と違い、電磁加速された魔弾だ。僕はそれを神木の木剣でいなした。
目の前には、黒いカソックを着た神父が居た。只、先程の神父やシスター達とは一際違う。何処か異彩な空気をその身体に纏っていた。恐らく、外法教団の中でもかなり上の立場に居る者だろう。
そう判断し、僕は木剣の切っ先を相手に向ける。殺気を籠めて睨み付けた。
しかし、その殺気を受けても神父は涼しげな顔をしている。殺気に耐性があるのか?
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・外法教団の幹部だな?」
「はい。私はエルギル、外法教団の第二師団長をしています」
エルギルと名乗った神父は、慇懃に答える。外法教団の師団長。やはり、幹部クラスだったか。
ならば是非もない。僕は一息に距離を詰め、木剣を振るう。一切の手加減を省いた一撃。恐らくは鋼鉄であろうが何であろうが、その一太刀で無関係に断ち切ってしまうだろう。
しかし・・・
エルギルはその一太刀を二丁の拳銃で防いでいた。防いで、獰猛に笑っていた。
「っ!!?」
「ふはっ、流石ですね‼ならば私も本気を出す必要があるでしょうか!!!」
直後、唐突に僕の背筋を猛烈な悪寒が奔った。全力で後方にバックステップをする。瞬間、電磁加速された弾丸の嵐が全方位に乱舞した。それは、まさしく嵐の如き雷の弾幕だった。
その先には、自我の消失を代償に、狂戦士として強力無比な力を手にしたエルギルが居た。
筋肉は不自然に膨張し、その身体全体を赤い血管が浮かび上がる。
「ギイイアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!!!!!!」
「くっ!!!」
僕は、殺到する弾丸の嵐を木剣でいなし、払いながら思考に没入する。どうやら、エルギルは狂戦士の異能を持つ異能者らしい。狂戦士はかなりの怪力無双と獣の如き俊敏性を誇る異能だ。
エルギルが真っ直ぐ、斧を振り下ろすように拳銃を振り下ろした。直後、神殿の床が縦に裂けた。
その裂け目は、真っ直ぐ進んでいきやがて壁を砕いて更に先へと進んで、更にクレーターを造る。
恐るべき怪力だ。しかし、だから何だ?僕は、真っ直ぐエルギルを睨む。
大地を砕く程の怪力無双。なるほど?それは確かに脅威だ。しかし、だ。
一足飛びの要領で、僕は一気に距離を詰めた。エルギルの手に握られた拳銃が、振り下ろされる。
しかし、遅いっ!!!僕は、その腕の骨を木剣で正確に砕いた。
「ガアッッ!!!???」
「まだだ、まだまだあっ!!!」
更に、連続で僕は木剣を振るう。木剣が振るわれる度、エルギルの身体の各所が砕かれてゆく。しかしまだまだ僕は止まらない。木剣を振るう腕を止めない。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアア・・・・・・アア・・・ア・・・・・・ッッ」
まだまだ、もっともっとと僕は木剣を振るう。やがて、神父は声もなく崩れ落ちた。
何の感慨も無い。その場に静寂が広がった。
それを、僕は只冷めた瞳で見下ろしていた。そして、そのまま僕は神殿の奥へと進んでいった。




