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無銘の世界~personaluniverse~  作者: ネツアッハ=ソフ
未開の大陸編
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6、覚醒者

 ドクンッ・・・心臓が高鳴る。鼓動(こどう)が加速する。


 僕の中で、何かが静かに笑った。冷たく、美しく、虚無的に笑った。


 意識が、切り替わる。スイッチが、入る。僕の/俺の中で何かが目覚(めざ)める。


 僕は・・・俺・・・は・・・・・・


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「さて、裏切り者は始末(しまつ)した。後は小僧、お前を始末すれば終わりだ」


 波旬が俺に、槍を突き付ける。その顔は、勝利を確信し勝ち誇っている。しかし、しかしだ。


 俺は、こんな時だというのに静かに笑った。その笑みに何を感じたのか、波旬の表情が変わる。或いは何かが変化した事を、波旬は知ったのかもしれない。まあ、それは今はどうでも良い。


 ———さあ、第六天魔王波旬。存分に()り合おうか。


 俺は、静かに笑みを浮かべて木剣を構えた。


          ・・・・・・・・・


 刹那(せつな)、無銘の姿がその場から消える。波旬は目を見開いた。一体何処に?しかし、次の瞬間背筋を言い知れぬ悪寒が奔り、全力で横に避けた。その直後・・・


 大地に深いクレパスが奔る程の斬撃が、波旬の背後をぎりぎり(かす)めた。


 空気との摩擦により、炎を纏った木剣が波旬の頬を掠める。それだけで、頬に深い切り傷が走る。


「ぐっ!!!」


 何時の間に?そう思う間もなく、再び無銘の姿が消える。空間転移(テレポート)・・・ではない。これは単純に無銘が速すぎるのである。単純に、無銘が光すらも置き去りにして移動しているだけだ。


 光速を超えたら、もはや通常の視界(しかい)は役に立たない。光の反射を利用する視界など役に立たない。


 光速を超える以上、光を利用した視界では何も見えなくなってしまうのは当然だからだ。


 故に、今の無銘の()は光の反射で物を見ていない。霊的に、より高次元に物を視ているのだ。その副産物として無銘の少年は、一切のタイムラグなしに反射可能な視界を獲得(かくとく)している。


 通常の視界では、光を利用する性質上どうしても僅かなタイムラグが出来てしまう。より厳密に言うと光の速度が有限である以上、人間が見る景色はどうしても過去(かこ)の映像となってしまう。


 それは即ち、人は過去の映像を見て生きている事に他ならない。


 故に、ほんの僅かなタイムラグが出来てしまうのだ。しかし、無銘の霊視(れいし)能力にはそれが無い。


 それはつまり、完全に現在の映像を確実に視ているという事だ。現在の映像を、より高精度に視界にとらえる事を可能とする。それ故、より高度な反応を可能としているという事だ。


 それ故、光速を超えた世界での超速戦闘を可能とする。光速の倍以上で活動出来る。


「ふっ!!!」


 刹那の間に、無銘の繰り出した斬撃で波旬は幾千、幾万の傷を受けた。しかし、それにより波旬は無銘のその正体の片鱗に気付く。波旬は冷や汗と共に、呟いた。


「なるほどな。小僧、お前その魂に人外の起源(きげん)を宿しているな?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 第六天魔王波旬は、無銘の少年の魂に人外の気配を感じ取った。


 無銘は答えず、只静かに笑うのみだった。その笑みに、波旬は言い知れぬ悪寒に襲われる。


 それは、例えれば底の知れない深い(やみ)を覗き見たかのような。得体の知れない怪物を、その目にしたかのような正体不明の恐怖心に似ていた。思わず、欲界の魔王が震える程に。


 その事実に、魔王はプライドを深く傷付けられた。第六天魔王は()える。


「震える?このわしが、恐怖に震えるだと?馬鹿なっ‼そんな事、断じて認めん‼」


 欲界の魔王が、第六天の魔王が、こんな小僧なんかに恐怖するなど断じてありえない。断じて否。


 認めてなるものかっ!!!そう猛った波旬は、その存在を一気に膨張させた。魂の全面開放だ。その力の奔流はあの悪魔や終末王にすら匹敵すると、波旬自身が豪語(ごうご)している。


 例え、それが全くの勘違いだとしても。それに匹敵する程度の力はあると認識しているのだ。


 それ故、このような小僧に引けを取るなど断じて認めん。そう魂からの叫びを上げた。


 無銘はその力の奔流を受けて尚、静かに笑う。それは、決して余裕の現れなんかではない。それ以前の問題として彼は、波旬を何の脅威にすら思っていない。その笑みは、正しく人外の笑みだ。


 今の無銘は先程までの彼では無い。魂の奥底に眠る人外の起源、その記憶が表層に(あらわ)れたのだ。


 故に、その笑みはある意味悪魔より悪魔らしい。凍るように美しい魔性の笑みだ。


 その笑みはより冷たく美しく、それ故に何処までも恐ろしい笑みだった。凍るような魔性の笑み。


 その笑みに、人外の気配に、恐怖を感じながら波旬はそれを振り解く。


 波旬はその手に一振りの剣を取り出し、構える。無銘も、その手に神木の木剣を構える。


 刹那、無銘と波旬が同時に地を蹴る。残像すら残さずに、その姿が消える。


 直後、空間のあちこちで火花が散る。無銘の木剣と波旬の剣がぶつかり合う。炎を纏う木剣と波旬の剣がぶつかり合うごとに、大地が裂け天が震える。まさしく驚天動地の戦いだ。


 その力の奔流は、未開の大陸を超えて七つの大陸全土に(つた)わる。


 しかし、それでも互角にならない。必死の形相をする波旬に対して、無銘は静かに笑っている。まだまだ無銘の方が圧倒的に余力を残しているのは明白だ。そう、力の差は歴然である。


 しかし認めん。断じてそれは認められん。波旬は、限界を超えて力を発露(はつろ)する。


 その劣勢を、自身の劣勢を否定する。


「わしが、断じてわしが負けるものかあああああああああああああああ!!!!!!!!!」


 その波旬の咆哮(ほうこう)に、やはり無銘は笑みを向けて剣を交える。それはあまりにも冷たく美しい、心胆寒からしめる魔性の笑みだ。その笑みに、波旬は血の凍る思いで恐怖した。心の壊れる笑みだった。


 何処までも冷たく美しく、そして虚無的な笑みだった。その笑みに、波旬は呑まれる。


 そんな波旬に、無銘は静かに()げる。


「俺は、お前を殺す・・・・・・」


「ああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!!!!!!!」


 波旬は絶叫を上げながら天を指差す。その絶叫に応えるかのように空が割れる。直後、その裂け目から無数の怪物が出現した。それは、波旬の従える魔物の群れだ。


 第六天魔王波旬の従える、仏道を妨げる魔物の群れ。その魔性の怪物の群れに、只人ならば即座に気を失うだろう恐るべき魔物達だ。だが・・・だからどうした?


 しかし、今更それが出て来たところでもう遅い。無銘は、何処までも虚無的に笑う。冷笑する。


 刹那、無銘の振るった斬撃で魔物の大群は消し飛び、それに巻き込まれるように波旬も消えた。


 第六天魔王の死により、無銘の勝利(しょうり)は確定した。


          ・・・・・・・・・


 世界樹の神殿。世界樹エルトネリコに建てた神殿の最奥に、終末王と悪魔は居た。


 神殿の最奥にある座。其処に終末王ハクアは静かに座る。その隣に、悪魔Ωは立つ。


 悪魔は(わら)いながら、終末王に告げる。


「どうやら、波旬がやられたようだな」


「別に良いさ、所詮は有象無象の一角に過ぎない。俺にとっての切り札はディー、お前だけだ」


 そう言い、終末王ハクアも嗤う。


 そう、終末王や悪魔にとってテューポーンやルシファー、波旬は所詮有象無象に過ぎない。彼、終末王ハクアからすれば真に切り札と呼べるのは、悪魔Ωしか居ないのである。


 故に、天地を揺るがす巨人や堕天使、欲界の魔王が倒されたとしてもなんら痛手は無いのだ。


 終末王は嗤う。静かに嗤い、宣言するように(うた)う。


「終末の日は近い。さあ、存分に(たの)しもう」


「ああ、愉しむさ。この身が滅びるその最後の最後までな」


 悪魔Ωは邪悪に嗤う。その顔に、とびっきりの愉悦と快楽を籠めて。邪悪に嗤った。


 ———さあ、終末(おわり)を始めよう。

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