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無銘の世界~personaluniverse~  作者: ネツアッハ=ソフ
少年編
9/168

6、東方の神山

 ようやく森を抜けた僕。その目前にはたくさんの鳥居(とりい)が並んでいた。


 幾千、幾万、いや、もっとたくさんある・・・。鳥居が綺麗(きれい)に並んでいる。


 この光景に、僕は見覚えがあった。


「これは、千本鳥居?」


 そう、この光景は京都伏見稲荷(ふしみいなり)の千本鳥居に良く似ていた。


 深く呼吸をする。清浄で神聖な空気。僕は自身が神域(しんいき)に入った事を自覚した。


「・・・・・・・・・・・・」


 気を引き締め、そっと歩を進める。


 僕は、その鳥居の行列に静かに足を踏み入れた。空気が更に澄み渡る。


 千本鳥居に良く似た鳥居の行列、それを潜ってゆく僕。鳥居を潜る度、場の空気が清浄に澄んでゆくのが理解出来る。


 神山に近付く度、空気が純化されてゆく。


 永遠にも似た、しかし実際はそれほど永くはない時間が過ぎた。


 しばらく歩いた後、僕の目の前に巨大な門が現れた。天を衝く巨大な門。その門の前にはオーガと思しき魔物の姿が見られる。


 何故此処にオーガが居る?僕は思わず怪訝な顔をした。


 しかし、そのオーガの瞳は他の魔物とは違う、理性のような物を僕に感じさせた。


 それだけでは無い。そのオーガは黒い皮の鎧に腰に差した一振りの長剣、朱色の籠手(こて)に同色の具足を装備していた。明らかに戦士の姿をしている。


 それも、その立ち姿の隙の無さから歴戦の猛者(もさ)だと解る。


 このオーガ、強いな。恐らく今の僕では勝つのは難しいだろう。そう思わせる気迫があった。


 僕は、試しにそのオーガに話し掛けて見る。


「お前は、此処で何をしている?」


「・・・俺は、この神山の門を守る門番(もんばん)だ。貴様は何用で此処に来た?」


 ふむ、どうやら話は通じるらしい。それと、このオーガは門番らしい。


 それにしても。・・・何用で此処に来たか、か。


「僕はこの神山の山神に会いに来た。その門を開けては貰えないか」


「この門を通りたくば、俺を倒して力と勇気を(しめ)せ」


 なるほど。どうやら門を通るにはオーガの戦士と戦い、認められる必要があるらしい。


 オーガを相手に力と勇気を示せば、山の神は会ってくれると。そういう事か。


 ・・・中々、面白い。僕は獰猛(どうもう)に笑って見せた。


「ならば是非(ぜひ)も無い。其処を押し通る」


「その意気やよし。来るが良い!!!」


 僕は短剣を構え、オーガは長剣を構える。オーガは正眼に構え、僕は自然体。隙は無い。


 僕もオーガも、互いに笑っている。獣の笑みだ。互いにこれからの戦いに闘志を燃やす。


 そうして、僕とオーガは戦闘に入った。


          ・・・・・・・・・


 動いたのは全くの同時だった。しかし、それでも僕は先手(せんて)を許してしまう。


 僕とオーガでは圧倒的に地力の差がある。この状況下では、その差が致命的だった。


 オーガの剣が振るわれる。袈裟(けさ)に振り下ろした一閃。


 それは、全てを断つ威力を宿した必断の一閃だった。


「ぐぅっ!!!」


 初手の斬撃を何とか(かわ)すも、それでも左腕を深く斬られた。お返しに頸動脈を狙うも、流石に易々と当たってはくれない。


 何とか腕は繋がっているが、これで左腕は駄目だ。一気に不利になった。


 僕の額を冷や汗が流れる。血が止まらない。左腕をだくだくと血液が流れる。


 まずい。本気でこの状況は良くない。此方に分が悪すぎる。


 考えろ・・・。何か手は無いか?何か、この状況を打破する為の秘策は・・・。


 僕の脳裏を、最悪の策が過る。狂気のさたとも思える、最悪の奇策が。


 しかし、時間など無い。こうしている間にも、オーガは攻め手を(ゆる)めない。


 ・・・一つ、試して見るか。


 失敗すれば、僕が死ぬ事になるだろうが。まあ良い、この状況を打破出来るなら試すまでだ。


 ・・・使えないなら、有効活用して捨ててしまえ。


 僕は覚悟を決め、顔に笑みを作る。不敵な笑みだ。その一瞬、僕の左側に隙が出来る。


 さあ、乗るか?


「むっ・・・。何を考えているかは知らんがこれで終わらせよう」


「・・・・・・っ」


 オーガの戦士は僕の左側から強襲を仕掛ける。僕の左腕が使えない今、それが妥当な判断だ。


 よし、上手くいった。


 ・・・予想通りだ。僕は薄く(わら)った。


 腰のひねりだけで、僕は左腕を振るう。オーガの両の目に、僕の血液を浴びせてやる。


「ぬっ、ぐおうっ!?」


 予想通りだ。


 オーガは見えなくなった目で、我武者羅(がむしゃら)に剣を振るう。僕はそれを足音を殺しながら避け、ある物を奴の背後に投げる。


 それは、僕の左腕だ。さっき自ら斬った。もう、痛みも感じない。意識も既に朦朧(もうろう)としている。


 唇を嚙んで、意識を保つ。


 使えないなら、有効活用して捨てるだけだ。


 予想通り、背後を過った左腕に反応したオーガはそれを剣で断ち切る。


 その一瞬で充分だ。僕は音を殺してオーガとの距離を詰める。ようやく、オーガが僕に気付く。


「ぬっ、しま!!!」


「僕の勝ちだ」


 僕はそのまま短剣を突き入れる。オーガの胸を、短剣の刃が深く刺さる。


 僕の勝利だ。そう確信した瞬間、僕は意識を失った。


          ・・・・・・・・・


「・・・・・・・・・・・・此処は」


 目を覚ますと、僕は地面の上で寝ていた。何故、地面の上で?一瞬、意識が混乱する。


 ・・・ああ、そうか。


 思い出した。僕はオーガの戦士と戦ったんだ。何とか勝利したが、確か、その後気絶したんだっけ?


 ・・・けど、しかし。


 何故、僕は無傷なんだ?確か、あの時僕の左腕は切断した筈。


 それも、普通に繋がっているし。何故?


「おお、目を覚ましたか‼」


 声を掛けられて振り向くと、其処にはあのオーガが居た。いや、何でだよ。何故普通に生きている?


「お前、死んだんじゃなかったのかよ?」


「あ?いや、俺は確かに敗北したが死んではいないぞ」


「・・・・・・は?」


 僕は思わず目を丸くした。確かに、あの時僕はオーガの胸元を短剣で突き刺した筈。


 ・・・どういう事だ?思わず首を傾げる。


「はははっ‼俺は永遠に神山の門を守る為、山の神から不死(ふし)の異能を与えられているんだよ」


「・・・は、はぁっ」


 どうやら、このオーガはかなり出鱈目な不死性を有しているらしい。僕は呆れた。


 いや、本当に呆れた。あの戦いは茶番かよ。ふざけるな。


「で、何故僕の傷が丸ごと回復しているんだ?流石にこれはありえんだろう」


「おお、それはこいつのお陰だ」


 そう言うと、オーガは一本の小瓶(こびん)を取り出した。中には緑色の液体が入っている。


 緑色というか、かなり毒々しい色だ。どろっとしているし。


 瓶の口に鼻を近付けると、独特の青臭さが漂ってきた。思わず顔をしかめる。うげえっ。


「これは何だ?」


「此れは回復薬(ポーション)だ」


 回復薬、ねえ・・・。僕は怪訝な顔をする。かなり毒々しい色をしているが?


「まあ、あれな色をしてはいるが効果はご覧の通りだ」


「ふーん・・・?」


 僕の身体を指差すオーガ。 確かに、僕の身体は見事に回復しているが。


 回復というか、再生しているが・・・。


 少し、()めてみる。途端、独特の苦みとえぐみ、胸が焼けるような感覚が僕を襲った。


 うげえ~っ。に、苦い・・・。僕は顔をしかめた。


 苦い、とにかく苦い。この苦みはかなりのネックだ。正直、吐きそうになる。


「はははっ、良ければやるよ」


「いや、要らねえよ‼」


 ぶっちゃけ要らねえ。僕は小瓶をオーガに押し返した。こんなの絶対に要らねえ。


「ふむ、かなり効くのに・・・」


「この苦みが駄目なんだよ」


 これは流石に無理だ。少量で胸がむかむかする。


「まあ、お前が言うならそれで良い。しかし、この神山の神に会うならこの回復薬は必要だぞ?」


「・・・・・・・・・・・・は、はぁ」


 そう言って、尚も僕に回復薬を押し付けようとするオーガ。僕はそれを結局受け取るはめになった。


 それも、十本も。はぁっ。


 こうして、僕は入山が認められた。

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