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無銘の世界~personaluniverse~  作者: ネツアッハ=ソフ
未開の大陸編
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5、欲界の魔王

 直後・・・


 ドグォッッ!!!巨大な爆音と共に、大きな()れが僕達を襲った。思わず、僕は地面に膝と手を着く。


「っっ!!?」


「っち‼もう感付いたか!!!」


 洞窟の向こうを睨み、フェンリルは獰猛(どうもう)な唸り声を上げる。この揺れで今にも洞窟は崩れそう。揺れはかなり激しく大きい。立っている事もままならない。


 揺れは断続的に続いている。かなり激しい。普通なら、立っている事もままならないだろう。


 しかし、それでも僕は何とか立ち上がる。そして、フェンリルに()う。


「フェンリル、今のは一体?」


「今の揺れは敵の攻撃だ‼わしが時間を稼いでいる間に奥に置いてある武器(ぶき)を取ってこいっ!!!」


「っ、ああっ!!!」


 刹那の思考すら()らない。弾かれるように僕は動く。


 僕は洞窟の奥へ、急いで走った。洞窟の向こうへ走ってゆくと、其処に木剣と短剣はあった。丁寧に二つ並べて置いてあった。僕は、急いでそれらを回収する。急がなければ、そう思った———


 その直後・・・


『ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーー!!!!!!!!!』


「っっ!!?」


 びりびりと、鼓膜を震わせる咆哮(ほうこう)。狼の遠吠えに似ている。恐らく、フェンリルだろう。


 魔狼フェンリルの咆哮が、天地を揺るがしているのだ。それだけで、洞窟が崩れそうだ。


 急いで洞窟の外へと走る。揺れは次第に大きく激しくなってゆく。


 走って、走って、走って。やがて、僕は洞窟の外へと出る。其処には、途方もなく巨大な狼と空に浮かぶ人型の何かが戦っていた。狼はフェンリルだろう。しかし、もう片方は一体何だ?


 人の姿をしている。しかし、それはあまりに異形(いぎょう)だった。人の姿でありながら、それは人でない。


 それは、まさしく異形だった。異形の、影の怪物(かいぶつ)だった。


 次の瞬間、僕の方へソレは視線を向けた。にいっと、口の端を大きく三日月状に歪める。それはあまりに不気味すぎる笑顔だった。思わず、僕は背筋がゾクリと震えた。


「くは、ははは、ははははは、ははははははははははははははははははっっ!!!!!!!!!」


「っ、ぐ・・・・・・!!!」


 その哄笑だけで、天地が激しく揺れ動く。音の波が、物的な衝撃を(ともな)って僕達を襲う。


 しばらく哄笑を続けたソレは、笑うのを止めると獰猛に僕を睨む。その視線は、鋭く僕を射抜く。


 その視線だけで、恐怖が()いてくる。恐怖?この僕が?


「やはり、此処にかくまわれていたかっ。小僧!!!」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 恐怖心を、沸き上がったそれを、僕は何とか(おさ)え込む。


 僕は、黙って木剣を構える。それを見て、異形の怪物は呵々大笑した。


「くははっ、戦意は充分か。なら良し‼我が名は波旬(はじゅん)。第六天魔王波旬なり!!!」


 刹那、周囲一帯を極大の重圧が襲った。波旬。奴の威圧(いあつ)が、物理的な重圧となって僕達を襲う。その重圧に僕は思わずうめき声を上げる。その僕の傍に、フェンリルが降り立つ。


 フェンリルは獰猛に唸っている。その視線の先には、波旬の姿が。


『わしの()に乗るが良い。気をつけよ、あやつはかなり強いぞ!!!』


「・・・どうやら、そうみたいだな」


 一目で理解出来る。奴はルシファーよりも強い。恐らく、只の人間では絶対に勝てないだろう。


 こうして、相対しているだけでもその強さが理解出来る。重圧が、重苦しい。息が、苦しい。


 恐らく、僕とフェンリルが共に戦っても一筋縄ではいかないだろう。だが・・・


 しかし、それでも僕達は戦わねばならない。僕は、覚悟を決める。木剣の柄を握り締め、フェンリルの背に勢いよく乗る。フェンリルは、勢いを付けて空を()けた。魔狼と僕の共闘だ。


 波旬が、哄笑を上げる。その手に、長大な槍が創造される。


「さあ、挨拶(あいさつ)代わりだっ。この程度で死ぬなよ?」


 波旬はそれを、渾身の力で投擲(とうてき)する。それは、光速の約半分に匹敵する馬鹿げた速度で飛来する。


 その槍には、星の中枢に匹敵するエネルギーが籠められている。即ち、核融合(かくゆうごう)


 星の中枢で生成されるエネルギーに等しいその力の渦。それが、僕達に飛来してくる。


 それを、何故か即座に理解した僕は一瞬で蒼褪(あおざ)めた。あれは、拙い。


「拙い、あれを喰らったら骨も残らないぞ!!!」


『焦るでないわっ‼あの程度、奴にとっては遊びに等しい!!!』


「馬鹿なっ」


 あれが遊びに等しいだと?馬鹿を言うな。あんなの直撃したら大陸そのものが砕けかねないぞ‼


『わしに任せろ。あの程度なら、何とか撃墜(げきつい)出来るだろうよ‼』


 そう言い、フェンリルはその巨大な顎を開く。その口内を、紅蓮の炎が舞う。


 刹那、フェンリルの咆哮と共に劫火のブレスが吐き出される。その威力たるや、星の表面を何度も焼き払う程の威力が。否、それでも尚余りある威力がある。


 星の核に匹敵する槍と劫火のブレスが衝突する。しかし、それでも足りない。たかが星の表面を焼き払う程度の威力では、星の深淵に比する一撃には敵わない。だが、それは最初から承知している。


 ・・・故に、その目的は別の所にある。


 フェンリルは、その槍とブレスの着弾点を僅かにずらした。そして、そのままブレスで槍の軌道を少しずつずらしていくだけで良い。それだけで、槍はあらぬ方へと飛んでいった。


 しかし、波旬の猛攻(もうこう)はそれで終わらない。それで終わる筈が無い。


「くはっ、良い良い。もっとだ、もっとわしを(たの)しませろっ!!!」


 波旬は哄笑を上げる。その哄笑は星の、(ソラ)の、あらゆる法則を捻じ曲げてゆく。支配してゆく。


 波旬は先程の星の槍を豪雨のように降り注がせる。大陸の、地形が大きく変わってゆく。


 大陸を、砕いてゆく。それは、極大の災厄(さいやく)だ。


『ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーー!!!!!!!!!』


 その槍の豪雨を、フェンリルは咆哮で()ぎ払う。しかし、それでもまだ足りない。払い損なった槍の雨が僕達に降り注ぐ。それを、フェンリルは僕を庇うようにして全て自身で受ける。


 鮮血が()った。フェンリルの血だ。


「なっ!!?」


『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!!!!!!』


 フェンリルの断末魔、それが響き渡る。しかし、それでも波旬は一切容赦しない。


「おまけだ、受け取るが良い」


 更に、波旬は槍を一本取り出し、投擲する。それは、狙い違わずフェンリルの身体を射抜いた。


 それは、確実にフェンリルの命を刈り取る一撃だった。鮮血が舞った。


          ・・・・・・・・・


「何故だ!!?何故、僕を(かば)った!!!」


 戦場に、悲鳴のような声が響く。僕の声が、余りにも他人事のように聞こえる。


 実際、それは悲鳴のような物だったのだろう。僕は今、恐らく泣きそうになっている。


 フェンリルは、口元を軽く歪めて笑った。その身体には、幾本もの槍が刺さっている。血塗れのその姿が余りにも痛々しくて、僕の顔がくしゃりと歪む。見ていられない。目を()らす。


『お前の方が、勝てる可能性があるからだ』


「っ、お前は。お前は戦いに勝利する為だけに、その為に死んでも構わないと言うのかっ!!?」


『そうだ』


「っ!!?」


 僕の目が、愕然と見開かれる。馬鹿な、そんな事の為にこいつは命を()けると言うのか?


 僕には、到底理解出来なかった。理解したくなかった。断じて、理解したくなかった。


『お前には理解出来ないかもしれんがな。お前は、小僧は他者を引き込み希望(きぼう)を与える存在なのだ』


「解らない。理解(りかい)出来ないよ、フェンリル」


 それは、半ば泣き言のような物だったのかもしれない。


 理解出来ない。そう言って、首を振る僕をフェンリルはふっと笑った。


『だろうな。しかし、それでも・・・お前は希望なのだ・・・・・・。皆の、希望・・・・・・』


 そう言って、フェンリルは静かに息を引き取った。神喰らいの魔狼は、容易(たやす)く死亡した。

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