プロローグ
さて、此処で盛大なネタバラシをしよう。世界は云わば、一つの巨大な大樹である。
そんな神話的世界観を皆さまは知っているでしょうか?北欧神話のユグドラシルがその典型です。要するに途方もなく巨大な世界を、一本の大樹が内包しているというトンでも世界観。
北欧のユグドラシルは九つの世界を一本の大樹が支えているという世界でした。しかし、もしそれが真実本当だとすれば、その大樹は一体何処に生えているのでしょうか?その世界の外側はどうなって?
その世界樹が生えている世界は、一体どう呼称すれば良いのでしょう?或いは、その世界樹が生えている世界こそが本当の世界と呼べるのではないでしょうか?
挙げて行けば、本当にキリがありません。要するに、宇宙の外側はどうなっているのか?宇宙の外側から見た宇宙は一体、どうなっているのか?そういう類の話。
これは、そんなたった一つの世界の話です。
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・・・宇宙とは、即ち一本の大樹である。それを、人は宇宙樹と呼ぶ。
起源から終末まで、その可能性の全てを内包した極大の宇宙樹。宇宙の系統樹。樹形図。
存在しうる宇宙観、或いはこれから誕生しうる宇宙観の全ては、この宇宙樹が内包する可能性のほんの一つでしか無いのである。要するに、ありとあらゆる宇宙はこの宇宙樹の枝葉の一つに過ぎない。
そんな宇宙樹の、途方もなく巨大で広大な大樹を支える大地。要するに、真なる外の世界。
その大樹の生える一つの世界。正しく宇宙の外側と呼ぶべき其処に、一人の人間が居た。いや、果たしてそれを人間と呼称して良い物だろうか?或いは、それは人間よりも遥かに進化した存在か。
その人間を、かつて魔術師達は×××××と呼んでいた。
その人間は、静かに笑っていた。嘲笑うのではなく、静かに。只、嬉しそうに笑っていた。
その視線の先に、途方もなく巨大な宇宙樹。その内包する宇宙の一つ。更にその宇宙の星の一つ。
その更に更にたった一人の人間に向けられていた。広大な宇宙樹から、たった一人の小さな人間に。
彼が興味を引くのは、天上天下その者一人のみである。他は何一つ興味など無い。その者こそが唯一その彼が興味を引く存在なのだ。この広大な宇宙樹で、只独りだけ。
他など所詮、その人間にとっては塵芥でしかない。故に、彼は笑う。静かに笑う。
只、嬉しそうに。静かに宇宙の外側で笑うのみ。
「ああ、楽しみだ。早く此処まで来い、無銘の少年よ。でないと・・・」
此処までお膳立てした意味が無い。
その者は、只一言呟いた。その一言が、世界を一陣の風となって駆け抜けた。




