if、もし、ヤミが復活しなければ
時を遡って、神王の神殿に向かっている最中の事・・・
道中、僕はさりげなく。本当にさりげなくある建物を見た。只、目に映ったそれだけの話だ。
僕は、ほんの些細な違和感を感じた。気のせいかもしれないけど、それが何だか気になったんだ。
僕は傍に居るラドゥに問う。
「なあ、ラドゥ。あの建物は何の建物だ?」
「はい?」
「ほら、あの黒い建物だよ」
僕は、黒い建物を指差す。黒い、石壁の建物。
それは、他の建物と比べて異彩を放っていた。黒い建物が他に無かったのもそうだが、何処か近寄りがたい雰囲気というか、近寄ってはならない空気が漂っていた。一目で解る、此処はヤバいと。
一目で、近付いてはいけない空気を察した。何処か、死の気配のような何かを感じる。
僕の指差した建物を見て、ラドゥは少し憂鬱な顔になりながら言った。
「ああ、あの建物は地下大監獄に通じる建物ですよ」
「地下大監獄?」
僕が首を傾げると、ラドゥは首肯した。かなり憂鬱そうだ。なんだか、少し嫌な予感がする。僕の気のせいだろうか?あの地下深くから嫌な気配を感じるんだが?
例えるなら、人の死を詰め込んで濃縮したような。そんな気配だ。
「はい、地下大監獄タルタロス。その最深部に邪神を封じた大牢獄です」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
なるほど?あの嫌な気配は邪神の気配か?僕は、すっと目を細めて黒い建物を睨んだ。
ああ、解る。理解出来る。あの建物は、かなりヤバい。けど・・・僕はこっそりと溜息を吐いた。
どうやら、無視する選択肢は無いらしい。この建物に気付いた瞬間から・・・
「ラドゥ、あの建物に寄っても良いか?」
「・・・えっと、はい?」
「少しだけ、あの建物に寄りたいんだ」
少し、強めに頼む僕。ラドゥは考え込む。それはもう、深く考え込む。恐らく、あの大監獄に近付く事は一部固く禁じられているのだろう。それを、僕が強く頼み込んだんだ。
普通に考えて、無理だろう。そう、僕は考えていた。
「ムメイ、何か気になる事でもあるの?」
「ああ・・・。少し、な・・・・・・」
リーナの問いに、僕は軽く答えた。その間も、僕はじっと黒い建物を睨んでいる。
・・・やがて、ラドゥは溜息を吐いて問い掛けた。
「そんなに、あの建物に用事があるのですか?」
「ああ、恐らくかなり拙い事が起こりそうな予感がするんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ラドゥは深く考え込む。僕は、そんなラドゥをじっと見る。見詰め合う、僕とラドゥ。
一瞬、リーナが不機嫌そうな顔をしたが。僕は無視する。
・・・やがて、ラドゥは深く深く溜息を吐いた。それはもう、とても深い溜息を吐いた。
「・・・・・・・・・・・・解りました。少しだけですよ?」
そう言って、僕達は黒い建物に。大監獄タルタロスに向かう。僕達はこの時、気付いていなかったが物陰から僕達をこっそりと見ている者が居た。その数、約二名だった。
黒いフード付きの外套、それを着込んだ者が二名。その一人が、静かに悪魔的に嗤った。
・・・余談だが、これが運命の分岐点でもあった。
・・・・・・・・・
「むっ、お前達は何者だ?」
黒い建物の中に僕達は入った。此処が、地下大監獄タルタロスの入口だ。
地下へ通じる階段のある部屋。其処で、二人の軽鎧を着た男が僕とリーナを見て問い掛けた。二人とも顔立ちが似ている。どうやら、双子の兄弟らしい。年若い、青年と少年の兄弟だ。
その問いに、ラドゥは溜息混じりにこう答えた。
「この二方は神王の客人です。どうやら、このタルタロスに用事があるようですので」
「そうか、陛下の客人か。では、その用事とは一体何か?」
青年が、僕達の方を睨む。ふむ、どうやら疑われているらしい。さもありなん、だな。
僕はそっと溜息を吐くと、青年を真っ直ぐ見据えて答えた。
「はっきりと言いましょう。この地下最深部に封じられている者。その封印が解けそうです」
「っ、な!!!???」
愕然とした表情で、青年が僕に槍を向けてくる。見ると、少年もリーナに槍を向けていた。
・・・僕はともかく、リーナに槍を向けられるのは不愉快だ。しかし、反応としては当然か?
周囲の者達も、僕達を見て皆ぎょっとしていた。それほど、邪神の復活は衝撃が強いようだ。
青年は僕を強い瞳で睨み付ける。
「嘘をぬかすなっ‼邪神が復活するなど、在ってはならないっ!!!断じて在ってはならないっ!!!」
「事実です。もう、建物の外にまで邪神の気配が漏れていますよ?そろそろ復活するでしょう」
「もし、仮に邪神が復活するとして。お前はどうするつもりだっ⁉」
「さて、どうするか・・・・・・」
その返答をどう解釈したのか、青年が僕を睨みながら槍を突き付ける。しかし、僕はそれを無視。
僕は考え込む。邪神を再封印する事は確定だが、どうやって再封印するのか?思考に没頭する。
・・・瞬間、僕の脳裏に何か聞こえた気がした。
———を遣え。
「・・・リーナ、何か言ったか?」
「え?何も言って無いよ?」
リーナはきょとんっとした顔で、僕を見る。ふむ、気のせいか?しかし、直後に再び僕の脳裏に何か声のような何かが聞こえた気がした。それは、音では無い。脳裏に直接言葉が浮かぶ感覚だった。
———私を遣え。
「・・・・・・え?」
———私を、星の聖剣”虚空”を遣え。私が、どうにかしてみせよう。
「星の・・・聖剣・・・・・・?」
僕の懐で、何かが一瞬輝いた気がした。それは、決して気のせいでは無い。
僕は、無意識下で懐から短剣を取り出した。ぎょっとする周囲。しかし、皆がぎょっとしたのは僕が短剣を取り出したからではない。僕が取り出した短剣が、黄金に光り輝いていたからだ。
その輝きは、何処までも神々しく眩い極光だった。
そして、僕は無意識にリーナに声を掛ける。
「リーナ、僕に合わせて祈りを」
「・・・え、え⁉あ、うんっ‼」
リーナの返事に合わせて、僕はその短剣に力を籠める。
瞬間、僕は地面に向かって短剣を突き立てる。その刹那、輝く極光が周囲一帯を包み込む。
その極光に、ほぼ全員が目を開けていられなくなった。
「リーナ、今だっ!!!」
「う、うんっ!!!」
リーナが両手を組み、必死に祈りを捧げる。瞬間、極光は更に輝きを増した。
その極光は神王の神殿にも届き、神国全域に届く。
瞼を貫通する程の光量に、皆が呻く。直後・・・
『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!!!!!!!』
タルタロスの地下、最深部から名状しがたい絶叫が響いた。それはまるで断末魔のよう。
そう、それは断末魔だ。邪神の断末魔。
その断末魔を聞き、僕は確信した。邪神は封じられたと。
ふうっと、僕が息を吐いたその直後・・・僕の背中から胸にかけて、何かが貫いた。
胸を、灼熱の感覚が駆け抜ける。血が周囲に散る。
「・・・・・・ぐっ、ごぽっ」
「っ、ムメイっ!!?」
その何かは、黄金の剣だった。黄金の刃が、僕の胸から突き出している。
リーナの悲鳴が聞こえる。けど、どうしようもなく僕の命が消えてゆく。それが、解る。
背後を振り返る。其処には、不気味に嗤う終末王が居た。狂的な笑みだ。狂った笑み。
「くっ、くくくくくくく。作戦は失敗、最初からやり直しか。全部、お前のせいだ」
狂ったように嗤いながら、終末王は僕の胸に刺さった剣をぐりぐりと抉るように動かす。
「ぐ・・・あっ・・・・・・っ」
「もう、お前死ねよ・・・・・・」
そう言って、終末王は僕に刺さった剣を思い切り引き抜き、一思いに切り裂いた。鮮血が舞う。
僕の目に映った、最後の光景はリーナの泣き顔だった。視界が真っ赤に染まる。
「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!!!!!!!」
僕の意識は、其処で途絶えた。暗転。
このifストーリーにも、実は本編と関係があったりします。どう関係してくるのか、それは今後に期待していて下さい。




