番外、その頃、妹は
エルピス伯爵領、とある村落で。その少女は母と共に村人達に薬を届けて回っていた。
ミィとマーヤーである。その笑顔は、とても明るくて眩しい。
「それにしても、ミィちゃんもずいぶんと綺麗になったねえ。うちの息子の嫁にどうだい?」
「いえいえ、私は何時も兄一筋ですから」
「はははっ、ミィちゃんも相変わらずだねえ」
そう言って、笑い合うミィと村人。楽しそうに笑っている事から、お互いに本気にしていない。けど村人達は全員理解していた。ミィは本気で兄を慕っているという事を、兄が本気で好きだという事を。
この少女は、兄を一人の男として好きなのだ。要は、ブラコンという奴である。
時は過ぎ、少女は大きくなった。少女は、可愛いから綺麗になった。
兄が村を去ってから、ミィは酷く落ち込んだ。枕を涙で濡らす日も多くなった。しかし、そんなある日彼女は決意を瞳に宿して言ったのだ。
「何時か、兄が帰ってきた日の為にもっと美人になるっ」
それは、彼女なりの決意の表れだった。何時か、兄が帰ってくると信じて待つと。そう言って、彼女は力強く笑うのだった。それは、何時かきっと兄が帰ってくると信じるという事だ。
その日の事を思い出して、母のマーヤーは静かに微笑んだ。ミィも、頑張っているのだ。必死に悲しみを押し殺して生きているのだ。だから、自分も頑張らなくては・・・
そう思い、マーヤーは気合を入れる。しかし・・・
一瞬、視界が・・・不自然に・・・歪んだ・・・・・・。
唐突に、頭がふらりと揺らいだ。思わず、マーヤーは地面に膝を着きそうになる。
「っ、お母さん!!?」
「マ、マーヤーさんっ!!?」
突然のめまいに、マーヤーは怪訝に思う。しかし、それを隠して彼女は二人に微笑み掛けた。
「大丈夫よ。少し、めまいがしただけだから・・・」
そう言って、マーヤーはその家から出る。ミィと村人は、怪訝な表情をした。
とても、大丈夫そうには見えなかった。心配になってきた。
しかし、次の瞬間外でざわめきが起きた。何事か、そう思いミィと村人は外に出る。
・・・其処には。
地面に倒れている母の姿があった。その額からは、異常なほどに汗が流れている。その頬は、熱によりとても赤く上気している。一目で重体なのが解るだろう。
「っ、お母さん!!?」
母に駆け寄るミィ。その身体に触れて、ミィは思わず顔をしかめた。とても熱かった。
周囲に、陽炎が漂う程の高熱を発しているのだ。これは、明らかに異常だ。
しかし、マーヤーはそれでも気丈に振舞おうと笑う。
「大丈夫・・・大丈夫・・・だから・・・・・・」
そう言って、マーヤーは気を失った。村が大混乱におちいる。
「お、お母さああああああああああああああああああああああああんっっ!!!」
村に、少女の悲鳴がこだました。




