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無銘の世界~personaluniverse~  作者: ネツアッハ=ソフ
神大陸編
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番外、無銘の想い

 ずっと孤独な人生(じんせい)を送ってきた・・・


 別に、周囲に人が居ない訳では無かった。率先して友人を作ってみた事もあった。馬鹿な話をして笑い合える人も居たと思う。けど、僕は何時も孤独(こどく)だった。


 コミュニケーションが取れない訳では無かったんだ。一応、話そうと思えば話せた。普通に会話をする程度の能力は一応、持ち合わせていたさ。でも、それでも何処か違和感(いわかん)があった。


 きっと、理屈ではない。僕は、誰も信じる事が出来なかった。其処に理由は無い、僕は僕の心に誰も住まわせる事が出来なかったんだ。基本的に、僕は誰も信じられない。


 それは、転生した後も変わらなかった。変われなかった。きっと、全部僕のせいだ。僕の責任だ。


 神王から転生を持ち掛けられた時、僕は少し期待していた。もしかしたら、自分も転生すれば変われるかもしれないと、そう思ったから。きっと、僕は変わりたかったんだと思う。


 自分のままでありたいと思ったのは(うそ)ではない。変わりたいと思ったのも、もちろん嘘ではない。


 只、僕は変わってしまう事を恐れながら、それでも今の自分が何よりも嫌いだったんだ。


 変わりたくない、でも変わりたい。そんな矛盾(むじゅん)した想いが、僕の中を渦巻いていた。きっと、それが僕の本質でもあるんだと思う。僕は、基本的に半端者(はんぱもの)なんだ。


 でも・・・僕は・・・・・・


 僕は変われなかった。何も変わらなかった。結局は、僕は転生しても僕のままだ。変わらない。


 優しい母と、よく懐いてくる妹、優しい世界(せかい)に居ても何も変わらなかった。変われなかった。


 優しくて、暖かな世界なのに。僕は何処か居心地の悪い感覚に襲われたんだ。


 だから、僕は逃げた。優しい世界から逃げたんだ。きっと、僕はヘタレなんだろう。僕は、誰よりも弱いんだと思うから。何時だって逃げてばかりの人生だ。けど・・・


 逃げた先で、彼女と出会ったのは何かの皮肉だろうか?僕は、リーナと出会った。


 リーナ=レイニー。レイニー伯爵家の巫女(みこ)


 彼女は山賊に襲われていた。僕は、何となく彼女を助けた。別に、深い理由は無い。只、不愉快だから山賊を倒しただけだ。それだけの事でしかない。あの時の僕にとって、それ以上の意味は無かった。


 それでも、きっと彼女には僕が英雄(えいゆう)か何かに見えたのだろう。彼女に懐かれたのは予想外だった。


 まさか、恋心を抱かれるとは思わなかったんだ。ああ、僕はうんざりした。気分は最悪だったさ。


 その後、山賊の追手が現れた。僕達に報復に来たんだ。僕が、(おとり)になった。


 ・・・リーナはとても泣いていたさ。


 それから、僕は何とか彼女から離れる事に成功した。其処は、追手の山賊に感謝しなくもない。


 けど、何故だろうか?どうしても運命(うんめい)は僕を独りにはしてくれないらしい。


 道祖神に言われて、僕は神山に向かった。正直、あまり乗り気では無かったけど。どの道あての無い旅に変わりは無いから、僕は正直に神山に向かった。面倒臭かった。


 その後、更に面倒事は続く・・・


 神山で、山の神に気に入られて僕は彼の弟子になる事になった。それだけでも、何故そうなったのか理解に苦しむのだが、大勢の英霊達に囲まれての修行は中々地獄だった。うん、僕はよく耐えた。


 ・・・まあ、修行を望んだのは最終的に僕の判断だがな。全く、やれやれだと思う。


 修行を通して、僕は強くはなれたと思う。しかし、何故だろうか?独りから離れている気がする。


 そして、修行を終えた後も問題だった。再び旅に出た僕を待っていたのは、リーナとの再会だった。


 彼女と、再び同じ森の中で出会ったのは何の因果(いんが)か?きっと、僕は悪くない。悪くない、筈だ。


 悪く無い・・・のかなぁ?うーん・・・


 まあ、それはともかくだ。


 彼女は魔物に追われていた。猟犬(りょうけん)のアンデッドだった。魔物の中では面倒な部類だと思う。


 ・・・まあ、即座に倒したのだが。その後、執事のセバさんも助ける事になった。苦い回復薬を飲ませてセバさんのアンデッド化を治した。うん、あの回復薬はすさまじく苦い。


 そして、そのまま僕は用事だけ済まして即座に去ろうとした。別に、僕は彼女に対して特別な思い入れがある訳でもないし。此処は即座に逃げるだけだろう?


 しかし、だ。やっぱり彼女から逃げる事が出来なかった。うん、解っていたよ?解っていたさ。


 しかも・・・しかも、だ・・・。その後、僕の父親を名乗るエルピス伯爵と出会うし。もう、全く訳が解らないのだが。一体、僕にどうしろと言うのだろうか?


 ・・・結局、僕はエルピス伯爵の許で暮らす事になった。本当に、思い通りにならない人生だ。ままならない人生とはきっと、このような事を言うのだろう。何故か、リーナも僕と一緒に付いてくるし。


 何故か、リーナの両親は僕達が結婚(けっこん)する事を前提で話を進めるし。モウヤダ・・・


 しかも、リーナが予想以上に猛烈(もうれつ)なアプローチをかけてきた事も予想外だ。


 まさか、ベッドに潜り込んでくるとは思いもよらなかった。恥ずかしくはないんだろうか?


 その後も、僕の受難(じゅなん)は続く。何らかの陰謀に巻き込まれていたり、王都に行ったり、王都で様々な人物との出会いがあったり。世界会談に行く事になったりだ。世界会談では、神王と再会もした。


 しかし、不思議とその中で、僕は居心地の良さも感じるようになっていった。リーナとの関係も僕は不思議と心地良く感じるようになっていった。胸の内を、温かい何かが満たした。


 そんな事、僕は望んでいない。僕は独りが良いんだ。そう思う気持ちもあった。確かにあった。


 変わってしまう僕に、正直戸惑いもあったと思う。


 急激な心境の変化に、戸惑う心も確かにあった。けど、それが心地良くもあったんだ。


 そんな中、僕はきっと彼女の事を・・・リーナの事を好きになったんだと思う。


 初めてだった。こんな気持ちになったのは。初めて、人を本気で好きになったんだ。


 彼女が好きだ、愛してる。前世でも抱いた事が無い。きっと、これからも無い。そう思っていた。


 ・・・そんな(おも)い。


 当然戸惑いもあった。けど、自覚してしまえばもうどうしようもなかった。もう、自分自身でも気持ちが抑え切れないと。そう理解してしまった。これは、どうしようも無い。


 きっと、彼女も本当は無償で僕を愛している訳では無いのだろう。本当は只、もっと僕に振り向いて欲しくてその為にアプローチをしているのだろう。彼女は只、僕を独占(どくせん)したいだけだ。


 無償の愛なんて、そんな物は幻想(げんそう)でしかないのかもしれない。けど・・・


 リーナからそんな思いを向けられているのが、心地良い自分が居るのも事実だ。


 ああ、きっと僕はそんな彼女の事が大好きなのだろう。もう、どうしようも無い想いだ。


 心を閉ざしていても、それでも僕の中に入り込んでくるリーナの事が、大好きだ。そう思うから。


 ・・・だから、僕は告白(こくはく)した。彼女に、真っ直ぐ自分の想いを告げた。


 リーナはとても喜んでいた。嬉しそうに、涙目で喜んだ。


 そんな彼女を守りたいと思った。大切にしたいと、心底から思った。守ろうと(ちか)った。


 けど、そんな僕を嘲笑(あざわら)うかのように、僕は陰謀に巻き込まれていく。僕の日常は崩壊していく。


 終末王ハクア、そして悪魔Ω。外法教団のその首魁。世界の終末を望む、狂信者達。


 ・・・新世界の創造を望む、狂人達。そんな彼等との戦いに、僕は否応なしに巻き込まれていく。


 ああ、面倒臭い。けど、きっと僕はもう戻れない。もうこの暖かな世界を失いたくないから、僕はこの世界を守る為に戦うんだ。うん、きっと僕らしくもないと思うけど。


          ・・・・・・・・・


 飛竜ククルーの上、僕は海上を飛んでいた。現在、僕は未開(みかい)の大陸に向かっている。


 潮風が髪を()でる。僕は海の向こうを眺めながら、想いを()せる。


 僕は、人の死に対して責任を感じるような人間では無かった。少なくとも、かつての僕なら平然と知らないふりを決め込んだだろう。なら、きっと僕は変わったんだ。


 人の死に対して、責任を感じる程度には。僕は変わった、もう戻れないだろう。


 ああ、そうさ。僕はきっと戻れない。けど、それでも良い。僕は僕の為に戦うんだ。それだけは何も変わらないと思うから。僕は、その為に戦うんだ。


 そうして、僕は死地(しち)へと向かう。

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