番外、リーナの想い
私は、レイニー伯爵家の一人娘として生まれてきた。類まれな巫女の資質を持って・・・
巫女の異能を持った伯爵家の娘。私の肩書きはそんな物だ。
それ故、私は周囲の貴族から息子と結婚してくれと。そういう話が絶えなかったと思う。それ自体は至極普通の話だと思う。政略結婚は普通の話だ。少なくとも、私はそう考えている。
だから、最初私はきっと親の決めた相手と結婚すると思っていた。それが普通だと、信じていた。
けど、私の両親は私の好きに生きさせてくれた。私の好きに生きて良いと言った。
私の両親は、私に自由に生きて欲しいと願っていたようだ。貴族としてのしがらみに縛られて欲しくないと考えていたらしい。まあ、貴族としては普通じゃないと思うけど。
だから、私は周囲の縁談の話を徹底的に拒否した。私に恋とか愛とか、その手の話は解らないから。
・・・しかし、そんな私にも運命的な出会いはあった。私も、普通に恋をした。
彼と初めて会ったのは、深い深い森の中だった。ムメイと名乗った彼は、瞬く間に山賊達から私とじいやを助けてくれた。彼は、私にとって物語の中の英雄だった。そう、感じた。
始めはきっと、只のあこがれのような物だったと思う。けど、それはすぐに恋に取って変わった。
きっと、私の中の巫女としての資質が彼の中の優しさと孤独を理解したんだ。彼は独りだった、心の中に誰も住まわせず、孤独の中で生きていた。そう、彼は独りだった。
けど、根本的に彼は孤独を愛している訳では無く、人としての弱さ故の孤独だったんだと思う。
彼は優しかった、人として致命的な程に。それ故、彼は人の悪意や裏切りに耐えられなかったんだ。
本人は否定するだろうけど、彼は根本的に優しかった。だからこそ、人の醜さに耐えられなかった。
・・・きっと、その優しさが生きていくのに適さなかったんだ。そう、今なら思う。
彼はある時言っていた。人は独りでは生きていけない。けど、僕はソレを望んだんだと。
彼は、孤独である事を望んでいた。独りが良いと言っていた。
けど、きっと私は彼のその優しさと脆さ、儚さに恋したんだと思う。彼のその優しさこそ、美しいと恋焦がれたんだと思う。美しいと思った。純粋に眩しいと思った。
きっと、私は致命的なまでに恋していたんだ。恋心を抱いていたんだ。
それは、とても運命的な恋だった。私は、彼を愛している。もう、どうしようもないほどに。彼の優しさを美しいと思ったから。あの出会いは、きっと運命じゃない。けど、運命的ではあったから。
だから、彼と森の中で再会した時は、本当にその巡り合わせに感謝したんだ。
・・・思わず、私はその場で感謝したくなった。その時、魔物に追われていたんだけど。
嬉しかった。思わず、泣きたくなるほどに嬉しかった。その時の胸の鼓動を、きっと忘れない。
だからこそ、私はもう彼から離れない事にした。もう、二度と離れたくない。そう思った。私はもう二度と彼を放さないと、そう誓った。うん、きっと彼にとっては迷惑なんだろうけど。
それでも、私のこの恋は本物だから。誰にも否定はさせない。否定させたくはない。
・・・ムメイ、彼は無償の愛だと思っているようだけど、私のソレは決して無償では無い。
私は独占欲が強い。彼に自分を選んで欲しいと思っている。もっと、私に構って欲しいと思う。
私をもっと見て欲しいし、私にもっと触れて欲しい。私にもっと構って欲しい。だって、私だって普通の女の子だもん。何処にでも居る、普通の女の子だよ?好きな人には見て欲しいじゃない。
彼に見て欲しい。彼に触れて欲しい。もっと、彼に構って欲しい。それが、私の全て。
愛しくて、愛しくて、愛しくて。だからこそ、私は彼を放したくない。
だからこそ、私は彼に見て欲しくて。彼に私を選んで欲しくて、ベッドに潜り込んだ。
うん、きっと私は傍から見ればはしたない娘なんだろう。けど、私は彼を愛している。きっと、彼に見てもらう為ならそれをいとわない。もっと、私に構って欲しいから。愛して欲しいから。
むしろ、彼が私に対して興奮でもしてくれれば嬉しかったんだけど・・・そう上手くはいかない。
彼は、私を大切に思ってくれているようで、私に対して一歩引いた態度で来る。それはそれで、とても嬉しいのだけれども。私は、少し落ち込んだ。自分に魅力が無いのかと落ち込んだ。
きっと、彼からしたら私を大切に思っているからだと言うだろうけど。彼は、そういう人だ。
彼は、とても優しいのだ。
けど、諦めずに私は彼にアプローチをかけ続けた。引かれても良い、もっと私を見て欲しいから。
・・・もっと、私に構って欲しいから。だから、めげずにアプローチをかけ続ける。
すると、彼の様子が少しずつ、変化していった。私を見て、少し意識してくれているのか、頬を赤らめて目を逸らすようになった。これは、きっと私を一人の女の子として見てくれているのかな?
だとしたら、とても嬉しいんだけども。彼の腕に抱き付いたら、更に慌てていた。少しだけ、彼の事をかわいいと思った私は悪くないと思う。実際、その時の彼はかわいい。そう思った。
・・・ごほんっ、それはともかく。
彼が世界会談に行くと知った時、ふと嫌な予感にかられた。何だか、不吉な事が起きる気がした。
今思えば、何故そんな予感にかられたのか解らない。けど、それでも彼を行かせたくなかった。行かせてはいけない気がしたから。だから、彼を必死で止めた。
けど、彼は行ってしまった。それが悲しくて、私は酷く落ち込んだ。何度も泣いた。
後から聞いたけど、どうやら世界会談の最中に襲撃があったらしい。それを聞いて、私の不安が的中した気がしたんだ。その日の夜、私は彼に目一杯甘えた。
彼が帰ってきた時は、泣いて喜んだ。とても嬉しかったと思う。想いに歯止めが利かなかった。
そして、その日の夜。私は決意した。彼に告白しようと。玉砕しても良い、私の想いを伝えよう。
・・・私は告白した。真っ直ぐ、素直な想いを伝えた。想いを伝えて、彼の想いを聞いた。
彼は私の想いを、真剣に聞いてくれた。真剣に悩んでくれた。それも、きっと彼が優しいからだ。
返答は、少しだけ待って欲しいという物だったけど。それでも彼が真剣に悩んで考えてくれている事には変わりはないから。私は、素直に待った。少しだけ、胸が痛かったけど。私は待った。
素直に待って、彼は私の想いを受け入れてくれた。私を愛してくれた。
彼の告白はとても嬉しかった。とても舞い上がった。きっと、あの時の喜びを忘れない。
私は彼を愛している。彼の事が大好きだ。それが私の全てで、私の唯一だ。否定はさせない。
もう、彼の傍から離れないと決めた。もう、彼の傍から離れたくないと思った。そう、誓った。
・・・しかし、彼は再び私の傍から離れていく。私の傍から去ってしまう。何故?
神大陸へ行った時、其処で事件は起きた。外法教団と名乗る集団が攻めてきて、神国が炎上した。
彼はその事件に責任を感じ、外法教団と戦う為に一人、未開の大陸へ向かった。
それは違う。彼の責任なんかじゃない。断じて、あれは彼の責任なんかじゃないのに。彼はそれに納得できない様子で首を横に振った。あれは、自分の責任なんだと。そう言った。
私も行きたかった。私も連れていって欲しかった。けど、それは出来なかった。それ以上の我が儘は許されないと理解していたから。だから、せめて彼に言った。
帰ってきて欲しいと。自分の許に帰ってきて欲しいと。そう、懇願した。縋り付いた。
それも、きっと我が儘なんだろうけど。それでも、私の許に帰ってきて欲しかったから。
・・・だから。私はその我が儘を言った。
少女は恋焦がれる。孤独な少年は、彼女にとって英雄だった。
だから・・・




