閑話、飛竜ククル
神大陸へ行く日まで、あと二日に迫った。僕とリーナは、王城にある飛竜の小屋に来ていた。
飛竜の飼育小屋だ。
小屋と言っても、やはり王城にあるだけはある。かなり立派な造りをしている。その小屋には、十数匹ほどの飛竜が飼育されていた。飛竜、或いは翼竜とも呼ぶ。
飛竜とは即ち、竜種の亜種だ。知能も低く、竜王を含む本物のドラゴンとは比べるべくもない。
基本的に同一視するほうがおかしいのだ。
しかし、飼い慣らせばかなりの戦力となるのは間違いないだろう。実際、飛竜に乗って戦う竜騎士は騎士職の中でも最上位に位置する。それ故、竜騎士は数が少ない割にかなりの人気を誇る。
・・・まあ、単純に竜に乗って戦う騎士がかっこいいと憧れる者が多いのも事実だが。
閑話休題。
そして現在、僕は・・・・・・
飛竜の一匹と見詰め合っていた。いや、これは睨み合うと言ったほうが正しいか?
黒い、飛竜の中でも比較的大きな個体だ。のんびりと呑気に寝そべっていたその飛竜だが、僕の顔をちらりと見た瞬間、獰猛に唸り声を上げた。その飛竜の威嚇に、僕は目を鋭く細める。
恐らく、此処に居る飛竜の中では一番強い個体だろう。或いは、飛竜達のリーダー格か。
その尋常ではない様子に、飼育員とリーナは息を呑んだ。若干心配そうにみている。
「・・・えっと、ムメイ?」
「あの、シリウス殿?」
しかし、次の瞬間・・・
僕は、その飛竜に向けて手を差し出す。瞬間、僕の腕を飛竜はバクリと食らい付いた。
飼育員とリーナが驚愕の悲鳴を上げる。
「「っっ!!?」」
しかし、僕は全く気にしない。むしろ、不敵な笑みを浮かべて飛竜を睨んだ。その笑みに、黒い飛竜は僅かに動揺して半歩引いた。しかし、もう遅い!!!
僕は黒い飛竜の頭部をもう片方の手で抱え、そのまま飛竜を持ち上げた。飛竜の目が、愕然と大きく見開かれたのが解った。飼育員とリーナの目も、見開かれる。
それはそうだ、僕は飛竜の巨体を持ち上げたのだから。驚くにきまっている。
僕は、そのまま黒い飛竜を背負い投げのようにひっくり返して投げた。ドスンっと地響きが起きた。
「グギャアアアッッ!!!???」
飛竜の悲鳴が響き渡る。しかし、僕の遊びはまだ終わってはいない。僕は静かに嗤った。
そのまま飛竜を持ち上げて、大きく振り回す。さながらハンマー投げのように。飛竜の絶叫が、周囲に響き渡るが僕は気にしない。ぶおんぶおんっと風を切る音が響く。
「おらっ!!!」
そのまま、僕は黒い飛竜を投げ飛ばした。地面をバウンドするように、水平に飛んでゆく飛竜。
さながらそれは、川で水切りをして遊ぶようだった。僕のたわむれだ。倒れ伏す黒い飛竜。
黒い飛竜はよろよろと起き上がる。そして、僕の傍にゆっくりと近付いていくと・・・・・・
静かに頭を垂れた。飛竜の服従の証だ。黒い飛竜は僕を格上と認めたのだ。
僕は笑みを浮かべ、その飛竜の頭を静かに撫でた。それを、飼育員とリーナは呆然と見ていた。
「飼育員、この飛竜は名前は何という?」
「え?あっ・・・。く、ククルです!!!」
飼育員はそう答えた。そう、ククルか・・・。僕は静かに笑った。
神大陸へ向かう二日前の、ある日の一幕だった。




