10、告白?
世界会談から帰ってきてその日の夜。僕は一人、部屋で物思いに耽っていた。
考えているのはリーナの事だ。僕の、リーナへの想いの事だ。
「・・・・・・・・・・・・」
果たして、僕はリーナの事をどう思っているのか?僕はリーナの事が好きなのか?
ふと、頭に浮かぶのは僕の帰りに涙ながらに喜ぶリーナの表情。その顔が、僕の脳裏に過る。
その表情が、僕の心を酷くざわつかせる。
リーナは僕の事を愛してくれている。それこそ、僕が望めばその身すら差し出すだろう。彼女が僕に好意を寄せる理由は、解る。リーナは僕の内面を見て、それを理解した上で僕を好きでいてくれる。
そう、リーナは僕の心を理解した上で、それでも僕を心から愛してくれているのだ。僕に心底から好意を寄せてくれているのだ。何の打算も無く、僕に好意を向けてくれる。
そして、僕はそんなリーナに救われた。それもきっと嘘ではない。そんなリーナの深い愛情に、恐らく僕は救われたのだろう。だったら、僕はその想いに応えるべきなのだろうか?
けど、不純な理由でその気持ちに応えようものなら、きっとリーナは傷付く。僕はそれが、怖い。
そうだ、僕はリーナを傷付ける事が何よりも怖いんだ。
僕は、果たしてリーナの事を好きなのか?愛しているのか?解らない、自分で自分が解らない。
・・・こんっこんっ。ドアをノックする音が、部屋に響いた。リーナか?
僕は、何となくそう直感した。ドアをそっと開ける。其処には・・・
「あの、ムメイ?私・・・その・・・・・・」
やはり、其処にはリーナが居た。薄いネグリジェ姿で、薄っすらと頬を染めて立っている。
・・・ああ、またか。僕は半ば何時もの光景になりつつある展開にそっと頭を抱えた。リーナはもじもじと頬を染めながら、僕を上目遣いに見る。ふむ、一応羞恥心はまだ残っていると?
けど、リーナが来てくれた事を喜ぶ僕が居る事も・・・また事実だろう。そう理解している。
僕は、リーナのその想いが純粋に嬉しい。きっと、何の打算も無く。只、嬉しい。
・・・まあ、ともかくだ。
「とりあえず、入れ。流石にその格好で屋敷内をうろつくなよ」
「う、うん・・・・・・」
リーナを部屋に入れて、そのまま鍵を閉めた。やましい理由ではない。こんな状況、あのメイドに見られたくないからだ。断固、やましい理由からではない。
・・・うん、一体誰に言い訳しているんだろうか?僕は?まあ良い。
「で、リーナ。今回は一体、何の用だ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
返事が無い。リーナは黙って俯いている。うん?
「・・・・・・リーナ?」
「っ、ムメイ‼今すぐ私を抱いて!!!」
「っ、は・・・・・・?」
いきなり、リーナが僕に向かって言った。その言葉の意味に、一瞬理解が出来なかった。
僕は呆気に取られて、声が上擦ってしまった。いや、一体何を言っているのだろうか?
抱いて?えっ、抱いて!!?
・・・・・・うぇっ!!!???
いや、言葉の意味は解る。しかし、意味が解らない。一体何故?僕は軽く混乱している。しかし、それをどう捉えたのか、リーナは泣きそうな顔になる。そのまま僕に縋り付いた。
「お願い、ムメイ・・・。今すぐ私を抱いて・・・・・・」
「え、ちょっ・・・。待て待て待て、一体どういう事だ?説明を頼む」
そう言ってリーナを引き離すと、リーナは泣きそうな顔で僕を見上げていた。その顔に、思わずドキリと胸が高鳴るのを感じる。今すぐ、リーナを滅茶苦茶にしたい衝動に駆られる。
しかし、僕はそれを何とか抑え込んだ。今はそんな時ではないだろう?
何とかリーナを説得しようと、リーナと向き合ったその瞬間・・・
僕の視界が、リーナの顔で一杯になった。
「っ、んむっ・・・・・・」
「んっ・・・・・・」
唇を奪われた。リーナに。
僕は思わず、目を白黒させる。意識が白く塗り潰される。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?
「ん、んんぅっ・・・!!?」
「・・・・・・ん、ちゅっ」
ちょっ、ま・・・・・・。僕は内心焦る。焦ってリーナを無理矢理引きはがす。
リーナは真っ赤な顔で、それでも涙ながらに僕を真っ直ぐに見ている。
「ぷはっ・・・リ、リーナ?一体・・・・・・」
「っ、ムメイ・・・私、貴方を愛しているの。大好き・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・それは」
それは、理解している。リーナが僕を愛してくれている事は、確かに理解している。しかし。
僕は思い留まる。しかし、いやでも・・・・・・。
僕は果たして、リーナの想いの深さまで知っているのか?僕は今、涙ながらに僕を見詰める少女の想いを正しく認識しているのか?僕の気持ちは一体?
リーナの瞳を真っ直ぐ見る。リーナも僕の瞳を真っ直ぐ見る。
・・・リーナは言った。
「ムメイ、私は貴方の事を愛しているの。貴方に愛して欲しいとは言わない。けど、どうか今だけは」
「・・・・・・リーナ」
リーナは、僕の瞳を真っ直ぐ見詰めて言った。
「ムメイ、貴方の事を愛しています。本当は、ムメイに私の傍から離れないで欲しい。ムメイが傷付くのが何よりも怖いから、貴方に私の傍から離れないで欲しい。けど・・・」
ああ、そうか・・・・・・。僕はようやく理解した。
リーナはきっと、リーナなりに僕の事を想ってくれているんだ。だから、せめて僕への想いを振り切る為にこんな事を言ったんだ。僕の胸に、暖かな気持ちが湧いてくる。
僕はリーナの肩にそっと手を置き、顔を近付けた。リーナは静かに目を閉じる。
リーナのその唇に、僕はそっと口付けした。唇を重ね合わせるだけの、そんな軽いキス。
ぎゅっと、リーナの肩に置いた手に力が籠もる。リーナを滅茶苦茶にしたい衝動が湧き上がる。それを必死に抑え込んだ。この想いが、リーナに対する恋心から来るのか。それとも、只の欲情か。
それは解らない。けど、僕はリーナの事を大切に想っている。それは間違いない。
やがて、唇を離すと僕とリーナは潤んだ瞳で見詰め合う。僕は意を決したように言った。
「リーナ、僕は君の事を本当に愛しているのか解らない。けど、リーナが居たからこそ、心底から救われた事を自覚している。僕にとって、リーナは何より大切な存在だ」
「うん・・・・・・」
リーナは潤んだ瞳で僕の瞳を真っ直ぐに見詰める。僕は、その視線を真っ直ぐ受け止めて言った。
「だからリーナ。どうか僕がちゃんとリーナへの想いを自覚するまで待って欲しい」
「・・・・・・うん」
リーナが顔を俯かせる。そんなリーナの顎をそっと持ち上げ、僕は彼女に口付けした。
胸の奥が、締め付けられるように痛む。この気持ちは、初めてだ。けど、不思議と不快では無い。
この気持ちは一体、何だろうか?
「んっ・・・」
リーナの甘い声が漏れる。時間がやけにゆっくりに感じた。
僕は彼女の事を本当に愛しているのか?それとも、只の大切どまりなのか?それは解らない。
けど、それでも・・・・・・
僕は、リーナの事を大切に想っている。それだけはきっと、間違いではない。
そう信じているから。きっと、それだけは真実だ。
・・・・・・・・・
次の日。清々しい朝。
窓から暖かな日差しと共に小鳥のさえずりが聞こえる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
僕は、心地良い日差しと共に目覚めた。隣には、リーナがすこやかに寝息を立てて寝ている。
無論、互いに寝間着は来ている。別に裸では無い。
別に、一線を越えた訳では無い。けど、不思議とリーナの事が愛しく思えた。とても優しい気持ち。
もう、言い訳のしようも無い。僕は、彼女の事を・・・。
「ああ、なるほど・・・・・・」
僕は、リーナの髪をすくように撫でた。今、僕は自分が優しい表情で笑っている事が解る。今、僕は彼女の事を何よりも愛おしく思っている。こんな気持ち、僕は初めてだ。
そう、きっと僕は。彼女の事を・・・・・・
「僕は、リーナの事が大好きなんだ」
この時、僕は初めて自分の気持ちに自覚した。そう、僕はリーナを愛していたんだ。
そっと、僕はリーナの頬にそっとキスをした。
ついに、無銘が自身の想いに自覚しました。




