7、乱入者、宣戦
「っ!!?」
僕の意識が一瞬で覚醒した。思わず、僕は周囲を見る。
其処は、変わらず天宮にある世界会談の会場だった。いや、さっきの光景は一体?僕は何を?
軽く混乱する頭を振ると、僕は神王の方を見る。其処には変わらず此方に指を差したままの彼の姿。
いや、彼だけでは無い。周囲の全てが先程の走馬燈めいた”夢”を見る前と何一つ変わらない。
恐らく、夢を見る前と後で時間が刹那も過ぎていないのだろう。何だこれは?どういう理屈だ?僕の混乱は更に極まっていく。訳が解らない。どうなっているんだ?
いや、先程の夢は本当に只の夢か?それにしては、かなり現実味がありすぎる。まるで、本当に今体験した事のようでもある。僕の混乱は続く。
神王は笑った。その笑みは悪戯が成功した子供のような、無邪気さがあった。
今、一体何を・・・・・・?僕はもう、訳が解らず混乱するばかりだ。
見ると、他の王達が皆、何処か納得したような表情をしている。僕だけが混乱しているのだ。
いや、僕だけではない。レオンハルトもか。
「いや、混乱させて悪かったな。今のはお前の過去を追体験させたのだ」
「僕の・・・過去を・・・・・・?」
過去の追体験・・・?それは一体?
神王の言った言葉に、僕はオウム返しに答える。今の光景が、僕の過去?あの刹那にも満たない時間で過去を追体験したというのか?一体どういう理屈で?
それに対し、神王はうむと頷いた。
「そうだ、お前の記憶を蘇らせる為に過去の追体験をさせてもらった」
「・・・・・・つまり、僕はこの世界に生まれてくる前に神王と会っていたと?」
「そう言っているが?」
「・・・・・・・・・・・・」
つまり、そういう事らしい。
思わず、僕は仏頂面で黙り込んだ。いや、理解は出来た。理解は出来たが、今一納得出来ない。
だってそうだろう?いきなり過去の記憶だけ見せられて、以前既に会っていたと言われてもな。正直理解が追い付かないだろう?訳が解らないだろう?
そんな僕の様子に、神王は苦笑を浮かべた。
「まあ良い。それにしても、お前が固有宇宙に目覚めるとは流石の俺も読めんかったぞ?」
「・・・?固有宇宙?」
知らない単語が出て来たな?固有宇宙とは一体何だ?固有の宇宙?どういう意味だ?
僕の疑問に、神王が苦笑しながら答える。
「固有宇宙とは、要は人の形をした宇宙だ。意思の力だけで自らを宇宙とする、人類の秘奥だな。ちなみに此処で言う意思の力とは、即ち魂の持つ熱量の事だ」
「・・・・・・・・・・・・???」
訳が解らない。つまり、どういう事だ?
「つまりだ、お前は人間としての限界を超えて、神の定めた世界の法を自らの力で乗り越えたんだ。これをかつての神々は人間の持つ|奇跡《きせき》の力とも呼んだがな」
「・・・・・・は、はぁ」
そう言われてもな、よく理解出来ない。というより、中々実感が湧かないの間違いか。
神の定めた世界の法を乗り越えた、と言われてもなあ?僕には実感が湧かないんだが?
神王は更に苦笑を深めた。
「まあ良い、要はお前の執念は俺の予想を遥かに超えていたという事だ」
「はぁ」
やっぱり、よく解らんね。僕は曖昧に頷く。神王はやはり、苦笑するだけだった。むうっ。
・・・まあ、とりあえずだ。
「全知全能の神なのに、僕が固有宇宙に目覚める事を予測出来なかったのか?」
「うむ。固有宇宙は全知全能の俺すら読めない事象故な、ある意味で謎が多いのだよ」
「・・・・・・ふーん?」
僕は気のない返事を返す。やはり、よく実感が湧かない。つまり、どういう事だ?
神王は、やはり苦笑するばかりだ。
「・・・・・・ふむ、まあお前との話は後に取っておこう。今はまだ、他に話しておく事がある」
「・・・・・・・・・・・・ふむ、最近人大陸の各所で暗躍している謎の小僧の事だな?」
竜王、ソリエスが唐突に口を開いた。そう、それが今回の話の核だろう。
最近、人大陸の各所を暗躍して回る、謎の青年の影。あの青年は一体何者なのか?そして、その青年の目的は一体何なのか?それこそ、今回の議題の中心だ。
神王は真剣な顔で、頷いた。
「そうだ、その者について今、話しておきたい事があるのだ。それは———」
「その話、是非とも僕にも聞かせて欲しいな」
突然、割って入った言葉に全員がはっとする。今の声は、僕は聞きおぼえがあった。
その声は、あの魔の森の中で魔物を従えていたあの・・・・・・
其処には、あの森の中で会った謎の青年が居た。にやにやと、気味の悪い笑みを浮かべている。
その青年の隣には、フードを目深にかぶった謎の男が居た。いや、何だ?これは?
ゾクリッ!!!僕の肌が泡立った。何だ、この感覚は?
僕は言いようのない不信感に襲われる。何だ、こいつは?こいつは本当に人間か?いや、こんな生物が本当に存在して良いのか?こんな魂を持つ者が、本当に存在して良いのか?
今まで感じた事のない疑念に、僕は戸惑いを覚える。それは、神王や魔王も同じだったらしい。
二人は冷や汗をかきながら、そのフードの男を見詰めている。
「お前、まさか終局点Ω〈オメガ〉か?」
「Ω?この男がか?」
終局点・・・Ω・・・・・・?
神王の言葉に、魔王が慄いたように言った。終局点Ω?何の事だ?僕の疑念は深まる。
そして、Ωと呼ばれたフードの男は・・・ふっと口元に笑みを浮かべた。その笑みは、総てを嘲笑するような冷たい笑みだった。そのあまりに冷たい嘲笑に、僕の頬を冷や汗が伝った。
瞬間、ぞっと怖気が奔る。
僕は気が付いたら二人に向かって木剣で斬り掛かっていた。何故かは解らない、只の本能だろう。
只、今動かねばいけないと思った。それだけだ。本当に、それだけだったんだ。
・・・しかし。
「いけない、よせ!!!」
背後から、神王の焦った声が聞こえた。しかし、その時には既に遅かった。
「ふはっ」
青年が嗤う。直後、僕を青年の影が覆う。僕は、思わず目を見開いた。
全身を、猛烈な激痛が襲った。
刹那、僕の全身が切り刻まれ、吹き飛ばされる。理解出来ない、認識が追い付かない。今、僕は一体何をされたんだ?僕の身体が宙を舞い、壁に叩き付けられた。
「がっ!!?」
壁に巨大なクレーターを刻み、僕は床にずり落ちた。天宮が大きく揺れる。
僕の意識が、一瞬白く明滅した。
今、僕は何をされたのか?先程の影は一体?そんな思いで、前を見る。
見ると、青年の影が大きく揺らめいている。その形は、まるで巨大な怪物の掌のようだ。
いや、それは間違いなく巨大な怪物の掌だった。巨大な影の腕だった。
「ふふっ・・・、ふはははははははははははははははっ!!!!!!!!!」
青年は追撃とばかりに、僕に向かって影の腕を伸ばして来た。しかし、その影の腕はレオンハルトの召喚した剣によって阻まれる。レオンハルトの両の瞳が万華鏡のように偏光している。恐らく、魔眼。
それぞれ、王達も武器を構える。それを見て青年は笑みを邪悪に深めた。
まるで、総てを嘲笑うかのように青年は嘲笑する。その闇の深さに、僕は怖気が奔った。
神王が目を鋭く細め、青年に問う。
「貴様、一体何者だ?何が目的にこんな事をする?」
「くははっ、僕の名を問うか。良いだろう、それには今はこう答えよう。我が名は終末王、三千世界の総てを滅ぼしその先へと人類を導く者だ!!!」
「終末・・・王・・・・・・?」
真っ赤な旗がなびく。その旗には、血のような赤い布時に黄金の星十字が刻まれていた。
外法教団。その旗にはそう名が刻まれていた。神の定めた法を外れ、世界を終末の先へ。
その願いが籠められた旗をかざし青年は、終末王は各王達に宣戦布告する。
この時、ウロボロスの世界全土に言い逃れの出来ない宣戦布告が成された。
終末の王は宣戦を布告し、世界の終わりを告げる。果たして、その先には一体何が待ち受けるのか?




