6、会談、知らされる真実
「では、世界会談を始めよう」
神王の宣言で世界会談は開催された。円卓には総勢八人の王と魔王の息子、そして僕の計十人が。
八人の王と二人のゲストの賛同によって、今回の世界会談は開始する。円卓の中央の世界図が燦然とした輝きを放ち始めた。世界会談の始まりを告げる合図だ。
円卓には神王デウス、魔王ライオネル、竜王ソリエス、炎巨人スルト、氷巨人シス———
———人王イリオ=ネロ=オーフィス、ガルズ=クレア=ウルト、シン=マークス=メサイア。
そして僕ことシリウス=エルピスと魔王の息子、レオンハルトの計十人が揃っている。
神王は静かに頷くと、僕の方に視線を向けた。その視線は、何故か柔らかい雰囲気がある。
「さて、まずは言っておこうか。シリウス=エルピス、無銘の少年よ。久し振りだな」
「・・・・・・えっと?以前何処かで会いましたか?神王のお気に入りと言われても、正直僕はよく解らないんですが?」
僕は率直に問う。神王は苦笑を浮かべ、それに答えた。
「うむ、やはり忘れていたか・・・。まあ良い、今思い出させる」
そう言って、神王は僕に向けて指差した。何事か呟くと、神王の指が淡く輝く。
ドクンッ!!!
僕の鼓動が強く脈打った。僕の意識が一瞬、白く染まる。
直後、僕の頭の中に直接記憶がフラッシュバックした。僕の意識が過去に遡る。
・・・・・・・・・
・・・ふと目を覚ますと、其処は白く輝く神々しい部屋だった。空間の広さが正しく認識出来ない。
途方もなく広大に見えて、そんなに広くなくも見える。そんな曖昧な感覚のする部屋だ。
その部屋の中を、僕はゆらゆらと漂うように浮遊していた。意識がおぼろだ。
しかし、解せない。僕は確か・・・
「此処は、何処だ?確か僕は・・・・・・」
「自殺した筈、か?」
突然聞こえて来た声に、僕は思わず其方を向く。果たして、其処には黄金の髪と瞳の青年が居た。
何とも神々しい、超越者としての風格を漂わせた男。青年のように見えるが、恐らくは見た目どおりの年齢では無いだろう。僕はそう確信した。
神々しい雰囲気を纏いながら、それでいて決して不自然ではない。何とも不思議な感覚だった。
例えるなら、そう。この男はまさしく神だった。自然と僕はそれを受け入れた。この男は正しく人類が抱く神という概念そのものだろう。そうとしか言えない何かを、この男は持っていた。
自然と、僕はこの男に畏敬の念を覚える。僕の中の、奥深くでそう感じる。
「・・・・・・・・・・・・貴方は」
「今、お前が認識している通りだ。俺は、お前等人間が神と呼ぶ存在だよ」
なるほど、と僕は頷いた。なるほど、確かに神だ。この男は神という言葉がしっくりくる。
しかし、だとしたら僕は一体どういう理由で神と会う事になったのか?ふと、疑問に思った。
気付けば、僕は自然とその疑問を口にしていた。
「何故、今僕は神の前に居るんでしょう?」
「まあ、別に無理して畏まる必要は無いぞ?只、俺の眼にお前が止まった。それだけの話だ」
「・・・というと、単なる偶然?」
「そういう事だ」
ふーん、と僕は気の無い返事をした。どうにも自殺した後だったからか、一周して落ち着いている。
そうか、単なる偶然ね。偶然で神と会う事になるとは、何とも奇妙な話だ。
まあ、別に良いか。僕は一切気にしない事にした。
「で、その神様が一体僕に何の用なんだ?」
「まあ、話は簡単だ。要はお前に転生のチャンスをやろうと思ってな」
・・・・・・転生ねえ?
僕は一瞬で冷めた眼をした。その瞳に、神は尚笑っている。
「神様、貴方は僕が自殺したのを知っていながら転生させようと言うのか?」
「そうだ」
即答だった。あまりにも即答すぎて、僕の方が僅かに黙り込む。神様はそれでも尚、笑っている。
不敵な笑みを浮かべている。この神は、僕の絶望を知りながら転生させようと言うのか?
それでも、神は僕に生きろと?
「ああ、別に俺はお前を率先して苦しませようという訳じゃ無い」
「なら、何故?」
僕は思わず、そう問い掛けた。問わずにいられなかった。
何故?そんなのは解らない。解らないけど、問わずにいられなかったのだ。
そんな僕に、神は不敵な笑みを浮かべて言った。
「何故?お前はまだ、諦めてはいないだろう?」
「・・・・・・・・・・・・っ!!!」
絶句した。
思わず、僕は目を見開いた。目を見開いて、愕然としたのだ。
諦めていない?この僕が?あれだけ絶望して、尚?それでも、僕は生きたいと言うのか?
解らない。僕には理解出来ない。一体どういう事だ?そんな僕に、神は言った。
「お前はまだ、生きる事を諦めてはいない。全てに絶望し、自殺しようとも、それでもお前は生きる事を諦め切れていないんだよ。だから、チャンスをやる」
神は言った———
「転生させてやろう。転生する際、お前にある程度の融通は利かせてやる。だから選べ」
「・・・・・・融通?」
「ああ。転生する際、お前にはある程度生きやすいように取り計らってやる。今なら特別な異能の類でもくれてやるがどうする?」
そう言われ、僕は僅かに考えた。考えて、そして視線を神に向けた。
神は相変わらず笑っている。僕を試しているような、そんな不敵な笑みだ。実際、神は僕を試しているのだろうと思う。なら・・・
「いや、特別な異能なんて要らない。僕は只、僕のまま生まれ変わりたい」
「・・・・・・ほう?それはどういう事だ?」
神の笑みが、より深まる。その視線は何か僕の奥深くを視るような、そんな輝きがあった。
その視線に、僕は負けじと見返す。気圧されそうになる心を奮い立たせる。
「僕は只、僕としての記憶をもったまま生まれ変わりたい‼」
僕のその叫ぶような言葉に、初めて神の表情は変わった。ありていに言えば、戸惑うような顔だ。
「・・・・・・それはつまり、あの絶望と苦痛にまみれた記憶を引き継いで転生するという事か?」
「ああ」
即答した。神は更に戸惑う。
「良いのか?お前の人生は、お世辞にも良いものとは言えなかったのに?いっその事、忘れてしまいたいとは思わないのか?新しい人生を送りたいと思わないのか?」
「確かに、僕は自ら死を選ぶほど追い詰められた。どうしようもないほど絶望していたのは事実だ」
けど、と僕は言った。そう言って、僕は神を真っ直ぐ見詰める。その黄金の瞳を、真っ直ぐに。
「僕は僕だ。それだけは誰にも否定されたくは無いし、否定はさせない。何と言われようと、我がままといわれようとも、僕は僕のままでありたい。きっと、それが全てだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
真っ直ぐ、神の瞳を見詰めて僕は言った。それが、僕の全てだ。
僕は僕だ。例え、我がままと言われようとそれだけは変わらない。きっと僕は諦めが悪いのだろう。
確かに僕の人生、絶望しか無かった。誰も信じる事が出来なかったし、信じようと思わなかった。周囲からは否定されてばかりいた。人格そのものを否定された事すらあった。
お前の人格は歪んでいると言われた。お前の性根は狂っていると言われた。どうしようもない程に打ちのめされた事もあった。何度も涙を流した。
けど・・・、だからこそ・・・
「僕は、僕である事を誇りたい。僕は僕自身を否定したくないんだ」
それだけは、僕のまごう事なき真実だ。それだけは誰にも否定させたりはしない。
だから。僕は僕のまま転生したい。そう、思ったんだ。
「・・・・・・そうか」
神はそう言って、笑った。先程までの不敵な笑みでは無い、柔らかな笑みだ。きっと、これがこの神の本質なのだろう。とても自然な笑みだった。
「では、転生の儀を始める・・・」
そう言って、神は僕の額を指で突いた。瞬間、僕の意識がゆっくりと薄れていく。
白く、白く、意識が白く溶けていった。
「お前の事が気に入った。何れ、お前とは再び会おう」
最後に、それだけ聞こえた。そんな気がした・・・




