閑話・暗躍する者達
ある深い森の中。其処に一人の青年が居た。森の中にしてはラフな格好をして不敵に笑んでいる。
しかし、その笑みは何処か陰りを含んでいる。その笑みは、何処か寂しそうですらある。しかし、青年はその笑みを一瞬できゅっと引き締めた。
その森は近隣の人から魔の森と呼ばれる、魔物が多数出没する区域であった。にも関わらず、その青年はその森の奥深く、特に強力な魔物が生息する区域で佇んでいた。余りに無防備だ。
傍から見れば、自殺志願にも見えなくもない。しかし、彼は決して自殺志願者などでは無い。青年は断じてそのような理由で此処に立っている訳では無いのだ。
なら、何故青年は此処に居るのか?何故、青年はこんな場所に独り立っているのか?
否、青年は決して独りでは無い。青年は背後に視線を向ける。
青年は自身の背後の虚空に向かって声を掛けた。
「準備は整ったか?ディー」
「はい、各大陸の王達は天宮に集いました。此方の軍勢も既に準備は万端、何時でも攻められます」
青年の背後から声が響く。見ると、青年の背後には無数の赤く輝く魔物の眼が。その数、目に見えるだけでも優に幾万は下らない。魔の森と言えど軽く異常だろう。
しかも、その一体一体が上位の魔物に相当する威圧感を放っている。相当な大軍勢だ。
青年は満足そうに頷くと、ディーと呼んだ男に再び声を掛けた。
「ディー、僕はこの世界を壊す。其処に一切のためらいは無い。ためらいを持つ気も無い」
「はい」
青年はけど、と口にしてディーに振り返った。その表情は僅かな憂いを含んでいた。
何処か、寂しげな笑みだ。
「ディーは、それでも僕に付いて来てくれるか?」
その問いに、ディーは僅かに考えた後、ふっと微笑を浮かべた。その笑みに、青年も僅かに笑む。
そんな事、とっくの昔に解りきっている。此れは、云わば愚問という奴だろう。
「主よ、貴方は俺に付いて来いと言った。俺は娯楽を引き換えにそれに乗った。なら、貴方が言うべき事はそうでは無い筈だ。違うか?」
「・・・・・・ああ、確かにそうだな。その通りだ」
すまん、忘れろ。
・・・そう言って、青年は静かに嗤った。静かに、静かに、嘲笑した。
ああ、そうだ。確かにその通り。そう言って、青年は静かに嗤う。ならば、青年が言うべき事は決してそうでは無い筈だ。だからこそ、青年は決意を胸に天に向かって宣言した。
「今こそ、我々は天に宣戦布告しよう!!!新たな天地の為に、我らが理想郷の為に!!!」
我らが理想を成就する為、我らは世界を破壊する!!!その為に、我らは世界に宣戦布告しよう!!!
そう言って、青年は天に向かって拳を向けた。その顔には、一種の覚悟が浮かんでいた。
青年は覚悟を決める。自身の目的の為に、世界を破壊する覚悟を。
果たして、その先に何が待っているのか?




