5、集う王達
直後、部屋の扉の一つが開き、中から二人の男が入って来た。一人は側頭部に一対の角を生やした黒髪に黒い瞳の東洋風の顔立ちをした青年。一人はその青年の息子だろうか?青年と顔立ちがよく似た深紫の瞳をした少年が居た。違いとしては、少年の方は角が生えていない事だろうか?
様子を見るに、恐らくは親子か何かなのだろうが・・・。しかし、それにしては腑に落ちない。僕は思わず小首を傾げる。いや、何だろうか、この感じは?
そして、その二人を見て神王は僅かに目を見開いた。
「何だ、ライオネル。今日は息子を連れて来たのか?」
「うむ、今回は神王のお気に入りが来ると言うのでな。連れて来たのだ」
ライオネル。この男が、神王と対を成す魔王のライオネルか。しかし、息子か・・・。息子?
やはり、何かが引っ掛かるな。僕は怪訝な顔をする。
僕はその少年をじっと見詰める。視線が合った。少年は怪訝な顔をした。
「何だ?俺に何か用か?」
「いや、お前・・・本当に魔王の息子か?というより、何だ、これ?」
いや、本当に何だこれ?これは、どちらかと言うと親子というより・・・・・・。
僕のその言葉に、周囲がざわつく。というより、神王と魔王が感心したような視線を向けた。少年は更に怪訝な表情を見せる。若干不服そうでもある。
・・・まあ、確かに言い方は悪いがな。しかし、それにしてもな。
「・・・何が言いたい?」
「いや、何か・・・お前と魔王が同一人物に思えてな。というか、鏡合わせか・・・・・・?」
「っ、へえ?」
少年は驚きながらも、感心したような表情をした。魔王も同様に感心した顔をしている。一人、イリオ王だけがよく理解していない様子だ。知らないのか、イリオ王。
「ふむ?つまりどういう事だ?」
「つまりだ、イリオ。魔王ライオネルとその息子レオンハルトは元は同一なのだよ。似ているのではなく全くの同一という訳だが・・・」
「???」
イリオ王はやはり、よく解らないらしい。更に首を傾げている。なるほど、つまりそういう事か。
僕はようやく納得した。納得して理解した。
「つまり、レオンハルト?は、魔王の魂を元にして産み出された分身のような物か?いや、分身というより分霊という奴か?」
「ふむ、やはり理解が速いな。そう、こいつは俺の魂を受け継ぎ、俺と同一の魂を持った分身だ。まあ産まれた瞬間からこいつは自己を確立し、自立した正真俺の息子だがな」
そう言って、魔王ライオネルは心底愉しそうに笑った。レオンハルトも誇らしげに笑っている。
ふむ、なるほど。だからこそ、魔王の息子か。僕は納得して頷いた。
恐らく、魔族の国の何らかの技術により、魔王は自身の魂を複製し別の器に張り付けた訳だ。
云わば、魂のコピー&ペーストといった所か。
しかし、同一の魂を持ってはいても自我を確立した瞬間それは別の存在となる。要は、同一の魂を持つ全くの別人物という事だろう。故に、分身では無く息子という訳だ。
要するに、同一の魂を持ちながら異なる自我を宿した個体という訳だな。なるほど?
イリオ王もようやく納得した様子だ。とても興味深そうにレオンハルトを見ている。
「ふむ、ようやく理解出来た。なるほど?そう言えば、ライオネルが結婚したという話を聞かなかったので当時は不思議に思っておったのだ」
「まあ、魂のコピー&ペーストなんて技術。我が国でも俺しか使用を許されていない禁断の技術故な」
禁断の技術、ねぇ・・・・・・。
なるほど?つまり、倫理的な理由でその技術は管理者である魔王しか使用を許されないという事か。
確かに、魂に干渉する技術なんて禁忌に相当するだろうな。管理する者が居てしかるべきだろう。
しかし、それにしても・・・・・・
「職権乱用?」
「ちょっ!!?」
イリオ王とレオンハルトはぎょっとして僕を見た。まあ、普通に考えて不敬罪なのだろう。それも他国の王に対しての不敬だ。喧嘩を売っていると見做されても不思議ではない。普通にありえない。
国際問題に発展してもおかしくはないだろう。それほどの暴挙だ。周囲が一気にざわつく。
・・・しかし。
「まあ、そうやもしれんな」
魔王は自嘲気味に笑った。ふむ、自覚はあると。どうやら、理解した上でやった事らしい。
・・・とりあえず、謝っておくか。
「すみませんね。昔から空気を読むのが苦手な性分でして」
「気にするな。俺は気にしてはいないさ」
そう言って、魔王ライオネルは呵々と笑った。ふむ・・・心が広いのか、単にどうでも良いのか。
或いはその両方かな?
イリオ王は胸を撫で下ろしてほっとした様子だ。まあ、時と場合によっては国家間に深い亀裂が入ったかもしれないしな。其処は僕も自重しなければいけないか?
・・・まあ、自重しないだろうな。僕はそういう奴だ。相変わらず空気が読めない。
と、直後別のドアが開き、続いて竜の角を生やした筋肉質な大男が現れた。この男が幻想種を束ねる最強の生命体と名高き竜王、ソリエスか。なるほど?かなりの武闘派という雰囲気だ。
濃紺のスーツ姿に鋭い瞳、顔には皮肉気な微笑を浮かべている。
・・・と、いうか。武闘派ヤクザという雰囲気だな。見た目的に。見た目的に。見た目的に。
大事な事なので三回言った。いや、本当に剣呑な雰囲気を纏っている。
じろりと竜王の瞳が僕を睨み付ける。その視線圧力に、僕は僅かに冷や汗をかいた。なるほど?凄い威圧感を感じるな。視線だけで此処までの威圧感があるのか。納得した。
ごくりと僕は生唾を呑み込む。すると、竜王がその口を開いた。
「おう、お前が神王のお気に入りか?」
「神王のお気に入り、というのは解りませんがね・・・・・・。まあ、恐らくは僕がそうです」
ドスの効いた声で話し掛けてくる竜王。それに身構えながら、僕は頷いた。
緊迫した雰囲気が、場を流れる。しかし、直後竜王はふっと皮肉気に笑う。
「そう身を硬くするな、若いの。別に取って食う訳じゃあるまい?まあ砕けていこうや」
「は、はぁ・・・・・・」
そう言われてもな・・・。恐らく、今の僕はかなり微妙な表情をしているだろう。そんな僕を見て竜王は盛大に大笑した。何がそんなに面白いのか・・・。僕は盛大に溜息を吐いた。
続いて二つの扉が同時に開く。その開いた扉を見て神王と魔王が苦々しい顔をし、同時にイリオ王が痛そうに頭を押さえた。一体何だ?
直後、その扉の向こうから現れた赤髪の大男と青白い髪の大男が同時に視線を交わし、同時に心底嫌そうな表情をした。そして・・・
「あ?なんだこら、何見てんだよこらっ」
「あ?そう言うお前こそ、こっち見てんじゃねえぞわれ」
「「ああ?」」
一気に空気が剣呑な物に変わった。神王と魔王が盛大に溜息を吐く。イリオ王は非常に面倒そうだ。
唯一、竜王だけが腹を抱えて呵々大笑していた。いや、何がそんなに面白いのか?理解出来ない。
と、その直後———残る二つの扉が開き二人の人間が現れた。人間の王の残り二人、立法王と司法王。
ちなみにイリオ王は行政王だ。まあ、それは今は良い。問題は・・・・・・
「ああ、うん。とりあえず其処までだスルト」
「いや、しかし・・・」
と、焔大陸の巨人王スルトに声を掛ける立法王、ガルズ=クレア=ウルト。
「お前も、いい加減その喧嘩っ早い性格を治せ。シス」
「っ、だが・・・・・・」
そう言い氷大陸の巨人王シスに声を掛ける司法王、シン=マークス=メサイア。
「「良いから、とりあえず喧嘩を止めろ!!!」」
「「・・・・・・っ、はい」」
二人の人王に諫められ、しゅんっと縮こまる二人の巨人王。何だこれ?いや、本当に何だこれ?
思わず、僕は呆れ返った。
天宮に王達が集いました。色々とクセの強い、というか我の強いキャラ達です。




