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無銘の世界~personaluniverse~  作者: ネツアッハ=ソフ
世界会談編
52/168

2、準備期間

 僕が世界会談に参加する事が決まり、半月が過ぎた。もう、既に会談に向かう準備は(ととの)っている。


 まあ、とは言ってもそんなに大した準備が必要な訳では無いようだが。一応色々用意はしておいた。


 後は、会談当日までゆっくり心と身体を休ませるだけだ。最近、何故かリーナが不安そうな表情をしている事が多くなってきたが。気のせいだろうか?


 ・・・現在、僕はリーナと一緒に王都の学業区にある王立図書館でのんびりと読書をしている。何気なく考えてみれば、王都の学業区には初めて来る。図書館など、この世界に生まれて初めて来た。


 だからだろうか?図書館に来て、大量の本を前に僕は(ひそ)かにテンションが上がった物だ。これでも僕は前世でかなりの本を愛読していたのである。いわゆる読書家だった。


 それこそ、純文学からライトノベル、教養本や漫画まで興味を持てば何でも読んだ。それこそ、一日の大半を図書館で過ごした事もあるだろう。僕は自然に口角を()り上げた。


 ・・・閑話休題(かんわきゅうだい)


 現在、僕は図書館の一角でこの世界の創造に関わる本を読んでいる。普通に百科事典並に分厚い。


 ・・・幻想世界、ウロボロス。この世界は元々、一体の巨人だったという。始まりの巨人、そう呼ばれたその生命体は、生まれた瞬間から完成した生命だった。故に、既に終わっていたと言って良い。


 完成した生命体であるが故に、既に完結(かんけつ)していた・・・。


 誕生した瞬間からそれを理解していたその巨人はある時、後の神王に一つの提案(ていあん)をした。


 ・・・自身を殺してくれと。その死骸は世界を創造する為に使ってくれと。始まりの巨人は自身の肉体が世界の創造に適していると理解していたらしい。つまり、その巨人は正しく原初の渾沌(こんとん)だ。


 要は、巨人の肉体は世界を構成する全てを内包していたのだ。質量、概念、生命、始まりの巨人の肉体にはその全てが詰まっていた。だからこその始まりの巨人だ。


 しかし、神王はそれをためらった。神王と始まりの巨人は親友と呼んでも差し支えない関係だった。


 私に友を殺せと言うのか!!!私にそれをしろと!!!神王は()えた。


 巨人は神王に言った。例え自身が死んでも、この魂は永遠に滅びる事は無い。自身の肉体から産まれた世界を自身は永遠に見守ろうと。だから、自身は大丈夫だと。


 そして、巨人は神王の前で自ら命を絶った。その後、神王は残った巨人の死骸で世界を創る。言い知れぬ喪失感に苛まれながら、神王は巨人の望んだ通り世界を創造した。


 巨人の死骸からは水が、大地が、光が、闇が、星が、宇宙が、生命が、世界そのものが誕生した。


 それが、幻想世界ウロボロスの創世(そうせい)。始まりである。


 ・・・とまあ、ウロボロス世界の創世記はこんな所だろう。かなり端折ったのでとても短いが、実際はかなりの長編物語だ。それこそ、神王と始まりの巨人が出会った頃の話や友情が芽生えた話、そして世界の創造に関する細かい部分など、取り上げていくと大分長くなっていく。


 ・・・これでもかなり短く纏めた程なのだ。それこそ、全部の物語を纏めると、百科事典並の分厚い本が二冊は出来るだろう。というか、これもう神王の個人的な日記(にっき)じゃねえか?


 僕は呆れて本を閉じた。と、その直後にリーナが水の入ったコップを持ってきた。どうやら、気を利かせてくれたらしい。僕は表情を僅かに(ゆる)める。その気遣いが、普通に嬉しかった。


「ムメイ、調べたい事は解ったの?」


「ああ、うん・・・。若干余計な事も知った気分だけどな・・・・・・」


「そう・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 僕は軽く溜息を吐いた。今、僕は神王について調べていたのだ。まあ、どうやら神王は僕がこの世界に生まれた事と深く関わっているみたいだしな。という訳で、少し調べる事にした。


 しかし、その過程で色々と内容が脱線した感が否めない。再び、溜息を吐く。


 そんな僕に、リーナはもじもじと頬を()めながら、上目遣いに言った。


「・・・・・・あの、ムメイ?少しだけ休憩して、私と街を散歩しない?」


「うん?それはつまり、デートをしたいと?」


「・・・・・・・・・・・・」


 リーナは更に、顔を真っ赤に染める。うん、可愛い。可愛いけど、周囲からの視線が痛い。


 特に女性の視線が、お前空気を読めと言っている気がする。そこは黙っててやるべきだろうと。


 ・・・失礼な。僕は空気が読めない訳じゃない。空気を読まないだけだ。そんな面倒な事はしない。


 周囲の視線が、(あき)れた物に変わった気がした。何故だ?


 しかし、まあ。少しくらい別に良いか。僕はそっと溜息を吐くと、リーナに手を差し伸べた。


「・・・・・・ほら」


「・・・?」


 僕が手を差し伸べると、リーナはきょとんっとした顔で僕を見上げた。そんな彼女に、僕は苦笑。


 そっとリーナの手を優しく握り締めた。瞬間、リーナの顔が赤く染まった。あうあうとよく解らない奇声を発して俯いた。周囲の人達がにやにやと面白そうに僕達を見る。


 ・・・いや、今更何を照れているんだよ?僕はじとっとした視線をリーナに向ける。


「ほら、一緒に街を散歩するんだろう?」


「・・・・・・あっ」


 リーナは一瞬呆けた顔で僕を見ると、直後弾けるように笑った。とても(まぶ)しい笑顔だった。


          ・・・・・・・・・


 さて、僕達は現在学業区の賢者の通りを歩いている。学業区でも最大の学院が存在する通りだ。


 その通りを歩いていると、不意にリーナが話し掛けてきた。何だか、切羽詰まった様子だ。


 ・・・というより、何処か(あせ)っているようでもある。


「あ、あのそのっ・・・ムメイ‼」


「・・・うん?何だ?」


 僕は出来る限り、何でもないような風を装い聞いた。さっきからリーナがやたらとそわそわしていたのを理解しているから。僕はリーナが落ち着くようそっと話し掛けた。


 リーナは少し深呼吸をすると、何かを決意したように言った。


「私も、ムメイと一緒に会談に連れて行って!!!」


「・・・・・・え、えーっと?」


 僕は、思わず目を見開いてリーナを見た。リーナも僕の瞳を真っ直ぐに見ている。本気、らしい。


 僕が返答に迷っていると、リーナは僕を真っ直ぐ見詰めながら、何かを覚悟したような瞳で言った。


「・・・・・・私が巫女(みこ)の異能を持っている事は、以前話したでしょう?」


「・・・・・・・・・・・・あ、ああ。もしや、何か巫女としての直感に引っ掛かったのか?」


「・・・・・・うん。何があるのかまでは解らないけど、嫌な予感がするの・・・。ムメイが、何処か遠くに居なくなってしまう気が・・・・・・」


 そう言って、リーナは俯いてしまった。俯く瞬間、リーナの表情が僅かに蒼褪めていたのが見えた。


 恐らく、現在リーナはとても不安な気持ちになっているのだろう。


 そうか、と・・・僕は頷いた。そして、真剣な表情でリーナと向き合った。


「残念ながら、僕はリーナを連れては行けない。もし、何かが会談中に起こるのだとしたら、恐らく僕は君を会談に連れては行かないだろう・・・。連れては行けないだろうと思う・・・」


 それが、僕の意地(いじ)だ。きっと、僕は意地を張るほどリーナの事を大切に思っているのだ。


 きっと、僕はリーナの事を—————————


「でも、それでも・・・・・・」


「ちょっと其処(そこ)の御二方?少しよろしいか?」


 リーナが尚、食い下がろうとしていると、僕達の傍に一人の青年が近寄ってきた。白に金の刺繍が施された外套を着た、白髪に金の瞳をした青年だ。一目で只者では無いと理解出来る。


 ・・・一言で言うと、隙が無い。僕はリーナを背後に(かば)った。少しだけ、警戒度を上げておく。


 その飄々(ひょうひょう)とした笑みも、青年の放つ雰囲気も、一切の隙が無いのだ。


「何か、僕達に用ですか?」


「いやいや、別に君達に危害を加えようとは思っていないよ。只、少し話を聞いて思った事がね」


 そう言って、青年は両手を頭上に掲げて自身が無害である事を示す。僕はリーナを背後に庇ったまま一切の油断をせず、青年に問い返す。


「思った事?貴方は僕達の話を盗み聞きしていたのですか?」


 その切り返しに、青年は飄々とした笑みのままにスルーして言った。


「そうだね・・・。まあ聞いた限りの話だけど、君達はお互いを大切に思っている。けど、だからこそお互いに譲れない状況になっているのではないかな?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 僕は思わず黙り込む。まさしく、その通りだからだ。ぐうの音も出ないとはこの事だろう。


 きっと、僕達は互いに互いの事を大切に思っているのだろう。だからこそ、(ゆず)れないのだ。


 青年は飄々とした笑みを浮かべると、僕達の顔をそれぞれ見て言った。


「少しだけ、お互いの意見に耳を傾けてはどうかな?そしたら、何かが見えてくるかもしれないよ?」


 そう言って、青年は僕達に背を向けて立ち去ってゆく。思わず、僕はその背に声を掛けた。


 ・・・掛けて、しまった。


「・・・・・・あの、貴方(あなた)は一体?」


 青年は首だけ振り返ると、また飄々とした笑みを向けた。それが、妙に様になっていた。


「私の名はグリム=ロード。学業区の学院を纏める大賢者(だいけんじゃ)の位を賜っている」


 それだけ言うと、大賢者グリムは静かに立ち去っていった。最後まで、彼は一切の隙が無かった。


 やはり、只者では無い。僕は改めてそう思った。


 ・・・しばらく、僕達は彼の去って行った方を呆然と見詰める。やがて、僕とリーナは互いに向き合うと静かに笑みを浮かべた。そして、僕はリーナに言った。今度こそ、しっかりリーナと向き合って。


「リーナの気持ちは理解出来る。僕が君を置いて何処かに行ってしまう事が怖いんだろう?けど、僕は僕のせいで君を危険な目に会わせる事が怖い。それはどうか理解して欲しい」


「・・・・・・ムメイ。けど、私は———」


「・・・うん。けど、これだけは約束しよう。僕はきっと、リーナの(もと)に必ず帰ってくるから」


 ・・・そう、約束するから。


 リーナの瞳を真っ直ぐに見詰め、宣言するように言った。必ずだ、必ずリーナの許に帰ってくる。


 それだけは、約束する。そう、リーナの瞳を見て(ちか)う。その誓いに、リーナは不安そうに頷いた。


「うん、信じているから・・・。だから、必ず私の許に帰ってきて」


 そう言って、リーナは僕にそっと寄り()った。

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