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無銘の世界~personaluniverse~  作者: ネツアッハ=ソフ
少年編
5/168

3、少女との出会い

 とある山道、其処で馬車が山賊に襲撃を受けていた。


「いやっ‼放して!!!」


「へへっ、放すかよ‼」


 私は絶望の(ふち)に居た。山賊に襲われ、(とら)われの身に堕ちる事を覚悟した。


「くっ、お嬢様を放せ!!!わしはどうなっても構わん。・・・お嬢様だけは」


「うるせえよ!!!」


「ガッ!?」


「じいやっ⁉」


 私を助けるよう懇願(こんがん)するじいやが蹴り付けられた。私は思わず悲鳴を上げる。


 山賊の嘲笑(あざわら)う声が響き渡る。もう、駄目か・・・。


 そう、私が諦めかけた。その時———


 山賊の一人に石の(つぶて)が投げ付けられた。


「ぐあっ⁉」


 その直後、何かが山賊の一人を強襲する。その何かは、山賊の一人に短剣を突き立てた。


 それは、私と同年代くらいの男の子だった。まだ10歳ぐらいの少年。そう、まだ少年なのだ。


 そんな少年が、山賊を相手に私を助けてくれた。私は胸が高鳴るのを覚えた。


 ・・・この時の事を、私はきっと何時までも忘れないだろう。


          ・・・・・・・・・


 ・・・僕は今、裏山を越えて険しい山道を歩いている。この山道を越えれば、その先にエルピス伯爵の治める街がある。


 僕は、その街にあるギルドで冒険者(ぼうけんしゃ)の登録をしようと思っている。


 冒険者とは、一定の土地に定住せず探索と魔物の討伐を生業(なりわい)とする者達の事だ。


 基本的に、ギルドに所属しギルドの斡旋(あっせん)する仕事で食い繋いでいる。


 ならず者の吹き溜まりと揶揄(やゆ)される事もあるが、中々自由度の高い職業らしい。


 冒険に魅力を覚えた者のたまり場ともされるのが証拠だろう。まあ、他に行き場を失ったならず者も確かに集まるようだが・・・。


 ギルドの発行するカードは身分証明書にもなり、この世界全土で有効となる。


 以前、村に来た冒険者の男が言っていた。ギルドカードは魔術により偽造が不可能となっていると。


 それ故、ギルドカードは金貨千枚に匹敵する価値があるらしい。故に、ギルドカードは冒険者にとって誇りと同じ意味があるとか。


 ・・・話が逸れた。


 山道を歩いていると、ふと何か鉄臭い香りが鼻を突いた。これは・・・血の臭い?


 どうも、面倒な予感がする。


 そっと、木陰に隠れて様子を見てみる事にする。すると、其処には予想通りの光景が広がっていた。


 其処では、貴族の物とと思われる馬車が山賊に襲われていた。


「いやっ‼放して!!!」


「へへっ、放すかよ‼」


 貴族らしい身なりの良い少女が、山賊に捕まり必死にもがいている。執事と思われる白髪の老人が少女を解放しろと(わめ)き、山賊に蹴り付けられる。


 執事が血を吐き、崩れ落ちる。少女が悲鳴を上げた。


 山賊の笑い声が響き渡る。僕の胸がざわついた。どうも嫌な気分だ。黒い感情が湧き上がる。


 しかし、僕が行って何になる。どうせ、あんな奴等なんか何とも思っていないくせに。


 ああ、そうさ。僕はあんな奴等、どうなろうと知った事では無い。知った事では無いんだ。


 ・・・それなのに。


「・・・・・・・・・・・・っ」


 その、筈なのに。何故こうも胸がざわつくのか?嫌な気分だ。本当に、嫌な気分だ。


 ああ、ちくしょうっ‼


 気付けば、僕は動いていた。何故この時動いたのかは解らない。只、衝動的にとしか言いようが無い。


 ・・・そう、本当に解らないんだ。


 僕は、山賊の一人に石を投げた。投げた石は見事、山賊の後頭部に命中(ヒット)した。


「ぐあっ⁉」


 山賊の集団に一瞬の隙が出来た。その一瞬で充分。僕は山賊に向かって強襲する。


 短剣を真っ直ぐ山賊の喉元に突き刺した。


「ごあっ!!?」


「何だ、貴様あっ!!!」


 山賊が()えるが、それに構わず僕は短剣を振るう。また一人、山賊を倒した。


 少女を背後に庇い、山賊を斬る。


 相手の言葉に構っている余裕は無い。相手に余裕が戻る時間など与えない。すぐに潰す。


 ・・・しかし。


「っ⁉」


「きゃあっ!!!」


 僕の肩に、矢が深々と刺さった。どうやら、隠れている奴がいたらしい。


 少女の悲鳴が響く。うるさい。


 しかし、怯んでいる余裕など無い。そんな隙など作らない。こんな程度、何とも無い。


 僕は地面に落ちていた山賊の剣を拾い、木陰に隠れている奴に投げ付ける。


「ぐぎゃっ!?」


 これで、隠れている奴は居ない筈。そう思った瞬間、背中を斬られた。


「ぐっ!?」


 しかし、それでも僕は倒れない。


 まだだ、まだ僕は生きている。僕は、此処に居る。


 背後の山賊を、僕は斬り捨てる。まだだ、まだ敵は居る。倒すべき敵が居る。まだだ、もっともっと。


 僕は、まだ倒れない。


 僕は山賊を斬って斬って、斬り続ける。僕も無傷では済まない。もう、傷だらけだ。身体中が痛い。


 けど、痛みがあるのは生きている証明だ。僕はまだ生きている。なら、まだ戦える。


 まだまだ僕は、戦える。


 そして、最後の山賊と対峙した。山賊は僕に、憤怒の瞳を向けている。


「てめえっ、よくも俺の同胞を・・・」


「・・・・・・・・・・・・」


 何か言っているが、良く聞こえない。血を流し過ぎた。足元もおぼつかない。痛みも大分薄れてきた。


 もう、かなりまずいだろう。


 しかし、それでも僕は山賊を真っ直ぐ見据える。真っ直ぐに山賊を睨み付ける。最後の力を振り絞って短剣を構える。


 動いたのは、同時だった。


「死にやがれ!!!」


「お前がな!!!」


 僕は紙一重で山賊の振るう戦斧を躱し、短剣を振るった。短剣の刃が閃く。


 一瞬の静寂。やがて、山賊はわき腹を押さえて崩れ落ちた。


「・・・・・・・・・・・・・・・」


 山賊を全員倒した事を確認すると、意識が急速に薄れてきた。


 駄目だ。流石にもう、限界だ。


 そう思った瞬間、僕の意識が暗転した。最後に、何か聞こえた気がした。


          ・・・・・・・・・


 ・・・どれほど、眠っていたのだろうか?意識が唐突に覚醒した。


 良く見ると、僕は少女の膝枕で寝ていた。少女は、泣いていた。


「あ、目を覚ました?」


「此処は・・・?っ、ぐうっ!!?」


 身体に激痛が奔った。思わず、顔を(しか)める。


「っ⁉だ、大丈夫?」


「っ、あ・・・。だ、大丈夫」


 何とか、それだけ伝える。しかし、僕の顔は苦痛に歪んでいる為、説得力は無い。


 少女の顔が悲痛に歪む。


 そんな顔を見るのが嫌で、僕は身体を起こす。激痛が奔った。痛い。


「あ、や・・・駄目だよ。まだ動いちゃ‼」


「・・・もう、大丈夫だから」


「そんな⁉全然大丈夫じゃ無いよ‼」


「大丈夫・・・僕は大丈夫、だから・・・」


 そう言って、僕はそれでも身体を無理矢理起こそうとする。


 もう、弱いのは嫌だ。自分が弱いばかりに、全てを失うのは嫌だ。


 僕が弱かったから、無能だから、だから僕は全てを失った。


 もう、あんな気持ちを味わうのは御免だ。僕は、独りでも生きていける強さを身に付ける。


「失礼ですが、もう少し休んで行かれてはどうでしょうか?」


 執事が僕に話し掛けてくる。その表情は柔らかい笑みを浮かべている。


「・・・貴方は」


「失礼しました。わたくし、お嬢様の専属執事をしていますセバと申します」


 執事、セバは丁寧(ていねい)な所作で挨拶(あいさつ)をする。中々見事な挨拶だ。


「・・・しかし、セバさん。僕は何処の誰とも知らない部外者ですよ?」


「ははっ、ご謙遜(けんそん)を。貴方はお嬢様を命がけで助けて下さったではないですか」


「それは・・・・・・」


 それは・・・。只、何となく気に食わなかったからで。


 僕がそう答えると、セバは上品に笑いながら言った。


「貴方はお嬢様の命の恩人なのです。せめて、もう少しの間だけでも共に居てやって下さい」


 その言葉に、僕は溜息を吐いた。溜息を吐いて、肩の力を抜いた。


「解ったよ」


 そう言って、僕は再び少女の膝に頭を乗せる。少女は嬉しそうに微笑んだ。


 その微笑みに、僕は不機嫌な顔でそっぽを向いた。ああ、面倒だ。

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