番外、女騎士団長と
私はリーナ=レイニー、レイニー伯爵家の一人娘。そして・・・シリウス=エルピスの婚約者。
シリウス=エルピス・・・ムメイ。私の婚約者で、エルピス伯爵家の長男。私の愛する人。私が生涯唯一と定めた愛する人。私の大好きな私の騎士様。
ちょっと人間不信な所があるけど、根は優しくて・・・とても優しくて、悲しいくらい純粋な人。
そんな愛しい人を傍で支えてあげたくて、今日も私はムメイに付いていく。と、思っていたら。
ムメイはそんな私を苦笑しながら見て、酷く言い辛そうに言った。
「ごめん、リーナ。今日は付いて来ないでくれ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・な。
しばらく私は理解出来なかった。いや、理解したくなかったのだろう。私の表情が凍り付く。
・・・しかし、やがてその意味を理解すると、私の頭の中を激しい雷が打ち付けた。ように思った。
私は床に崩れ落ちる。ムメイの予想外の言葉。ムメイに拒絶された。ムメイに拒否された。
そう思った私はしくしくとすすり泣き、床にのの字を書いた。その姿に、ムメイは少し引いている。
・・・うぅっ、ムメイに嫌われた。ムメイに嫌われたよぉっ。・・・しくしく。
「・・・と、とりあえず僕は行くからな?な?」
その姿にムメイは引きながら、そっと部屋を出た。うぅっ、ムメイが行っちゃう。
私は部屋を出ていくムメイに向かって腕を伸ばした。きっと、今の私はかなり悲痛な顔をしている。
それが、自分でも嫌になるほど理解出来る。行かないで、ムメイっ!!!
・・・その時、私の中の悪魔さんがそっと囁いた。彼を追い掛けよう、と。ついでに私の中の天使さんも私に向けて囁いた。いけません、ムメイを尾行するなんて乙女がして良い事ではありませんと。
私の中で、天使さんと悪魔さんが激しい喧嘩をする。その結果、悪魔さんが天使さんに勝利した。悪魔さんが笑顔で勝利に湧き上がっている。
・・・・・・私はしばらくして、ゆらありと起き上がった。私は決意した。
ムメイを尾行しよう、と。ふふっ、覚悟してね・・・ムメイ♪
・・・扉の向こうに、びくびくと怯えるマーキュリーさんが居たけど、私は気にしない。
・・・・・・・・・
商業区の一角にムメイは居た。誰かを待っているのか、ムメイは商店の前でぼうっと立っていた。
ムメイ・・・、一体誰を待っているのかな?もしかして私以外の女と?私以外の女を好きに?一体誰かなその泥棒さんは?私のムメイを横から奪ったのは?
もし、もしもそうなら・・・。私は薄く微笑んだ。もし、そんな泥棒さんが居たなら私は・・・。
うふふふふっ、そんな泥棒さんにはどうしちゃおうかなぁ~。うふふふふふふっ・・・。
「お・・・おいっ。あの嬢ちゃんの背後に剣を持った白いオーガが見えるんだが?白いオーガが剣を舐めているのが見えるんだが?あ、あのオーガ、俺を見て嗤った!!!」
「な、なんて殺気と怒気を放っているんだ・・・。俺、震えが来たぜ?」
「や、やっべえっ・・・。俺、あの嬢ちゃんに勝てる気がしねえ・・・・・・」
何か聞こえた気がしたけど、何かな?ん?
「「「ひぃっ!!!」」」
私がそちらの方へ振り返ると、三人の冒険者らしき男達は皆、びくっと怯えた目で震えた。
そんな失礼な・・・。私が何をしたのかな?かなあ?
冒険者の男達は三人揃って抱き合い震えている。一体何なの?そんなに私が怖いかな?
・・・と、その時ムメイに近付いてくる女が一人居た。私の意識が一瞬で其方に向く。
誰?私のムメイに近寄る泥棒さんは?一体誰かな?
・・・その女は、王宮騎士団長のビビアンだった。あの女かぁ~、私のムメイに手を出したのは。
びくっと一瞬ビビアンの身体が震える。そして、きょろきょろと周囲を見回している。ムメイは頭を片手で押さえて溜息を吐いている。ふふっ、あの泥棒さんには後でお仕置きしなきゃね♪
ふふっ・・・うふふふふふふふふふふ・・・・・・。
ビビアンが何かガタガタ震えているけど、一体どうしたのかなあ?うふふふふっ。
そうして、私はムメイとビビアンの追跡を続行した。ふふっ、あの女泥棒さんが。
・・・ムメイとビビアンは宝石店へ入っていった。・・・・・・宝石店?宝石店、だって?
・・・私は静かに戦慄した。
私の中で、乾いた風が吹き抜けた。ムメイ・・・もうビビアンとそんな仲になっているの?私だって宝石とか指輪とか、そんな物を貰った事が無いのに・・・・・・。
乾いた風に吹かれ、私の心が乾いていくのが解る。本当に、ムメイったら・・・・・・。ふふっ♪
やがて、ムメイとビビアンが宝石店から出てきた。ビビアンの顔色が真っ青を通り越して白い。
ムメイは、何でだろうね?何だか非常にうんざりとした顔をしているんだけど?どうしてかな?
・・・その後、二人はある店に入っていった。其処は花屋だった。花屋ねぇ?
私の中で、黒い感情が吹き荒れる。どうして?どうしてその女なの?そんなに私が嫌なの?
ふふっ、うふふふふっ、うふふふふふふふふふふ・・・・・・・・・・・・。
周囲の人達が、私を見て怯えているけど・・・。そんなに私が怖い?ねえ?私が怖いの?
びくっと震える人達。その瞳は名状しがたい怪物を見るよう。酷いよね?よねえ?
おっと、そんな事よりもムメイを追跡しなくっちゃ♪うふふ・・・。
一瞬、私の方をムメイが見た気がしたけど・・・気のせいだよね?酷く呆れた視線を向けられた気がしたけど気のせいだよね?うん、きっと気のせいだよ♪
・・・・・・・・・
やがて、夕方に差し掛かった頃。ムメイとビビアンがようやく別れた。うふふっ、あの泥棒さんを一体どうしてくれようか?うん、泣いて謝らせるだけじゃ満足できないよねえ?
と、私が考えている間にどうやら距離を詰めていたらしいムメイが私の傍にまで来ていた。
「リーナ?何を怖い顔で笑っているんだ?」
・・・え?ひゃっ!!!
気付いたら、ムメイがすぐ目と鼻の前まで来ていた。近いっ、近いよムメイ‼
そんな・・・私、ドキドキしちゃうっ・・・・・・。うぅっ・・・。
私はムメイをちらちらと横目で見る。うぅっ、顔が熱い。
「いや、さっきまで僕の尾行をしていた奴が言える事かよ?」
ムメイはそう半眼になって言った。ば、ばれていた⁉ど、どうしようっ‼ムメイ、私に気付いて!!!
わたわたと私は混乱した心を何とか宥める。ど、どうしよう?何て言い訳をしよう?
そんな私に、ムメイは苦笑を浮かべて・・・
「はい、リーナ。プレゼントだよ」
・・・・・・え?
一瞬、私は意味を理解出来なかった。え?どういう事?ムメイは私に綺麗な花束と共に、青い宝石の付いた綺麗な指輪を渡した。え?ええっ!!?
私はびっくりして目を白黒する。そんな私に、ムメイは照れ臭そうに頬を搔いて言った。
「リーナにサプライズでプレゼントをしようと思ってな。それでちょっと女性の意見を聞こうとビビアンに相談したんだよ。・・・まあ、そういう事だ」
っ、ムメイ!!!嬉しい!!!
思わず、私は感極まってムメイに抱き付いた。ムメイは苦笑を浮かべながら私を抱き締め返す。
今、私はとっても幸せ。多分、世界で一番幸せだと思う。だって、こんなにも大好きな人にこうして思われているんだから。幸せじゃない筈が無いよ‼
ムメイ、ありがとう!!!
そう言って、私はムメイにキスをした。周囲の人達が私達を見ているけど、今の私は気にしない。
だって、私は幸せなんだから♪そんな私をムメイは苦笑しながら抱き締めてくれた。
・・・後日談。
その後、王宮騎士団長のビビアンさんは私を見る度にひっと悲鳴を上げて怯えるようになった。
・・・私、何かしたかな?
リーナが怖い。若干壊れている気がする。




