9、グランドマスター
冒険者ギルド、グランドマスター。あるいは単純にギルド長とも・・・。
巨大な組織である冒険者ギルドの頂点に君臨する長。その地位は一国の王族に匹敵する権威を持つ。
その現グランドマスターであるガーランド=クロウリが今、僕達の目の前に居た。
場所はギルドの応接室。其処に、僕達はガーランドと向き合って座っていた。
・・・・・・うん、座っているんだが。僕はちらりと左隣の男を見る。其処には、モヒカン頭のいかついゴロツキの姿がある。もう一度言おう。モヒカン頭のいかついゴロツキの姿がある。
「何でお前も居るんだ?ガンクツ?」
そう、大岩のガンクツことガンクツが僕達に付いてきたのだ。しかも、ゴロツキとは思えない実ににこやかな笑顔で僕の方を見る。うわぁ。
いや、普通に怖えよ。見ろ、右隣に座っているリーナが怯えているじゃないか。しかし、そうとは知らないガンクツはそら恐ろしい笑みを浮かべながら言った。
「気にしないでくだせえ、兄貴‼俺は一生付いていきやすぜ!!!」
「・・・・・・・・・・・・」
うん、きっとその笑顔だけで純粋な子供は泣くだろうな。号泣するぞ?大号泣するぞ?
僕は心の中で思った。駄目だこいつ、既に手遅れだ。自然、僕の瞳が虚ろな物になる。
・・・リーナの瞳も虚ろだ。僕達の中で、こいつの人物像は固まった。残念な奴だと。
そんな僕達の姿に、ガーランドは苦笑を浮かべる。
「一応、そいつは銀ランクの冒険者なんだがな?それもかなり上位の・・・」
「「はい?」」
僕とリーナの声が見事にハモった。その顔は、ありえない物を見る目だ。目は見開かれている。
対して、ガンクツは照れたような顔で頭をがしがしと搔く。うん、キモイ。超絶キモイ。
「いやあ、兄貴の方がよっぽど強いですぜ?」
「まあ、あの騒動を見ればそうだろうな・・・」
ガンクツの言葉に、ガーランドは溜息を吐く。まあ、実際に僕はそんじょそこらの奴に負けるつもりは全くないんだがな。僕は黙って肩を竦める。
そんな僕に、リーナは苦笑を浮かべた。・・・何だよ?僕はジト目をリーナに向ける。リーナは視線を明後日の方へ逸らした。・・・はぁ、やれやれ。
そんな僕達にガーランドは苦笑を浮かべ、話を続けた。
「まあ、それはともかくとしてお前のその強さは一体何処から来たんだ?」
「何処からって・・・・・・」
僕は一瞬言葉を濁す。別に隠す事では無いが、今更になってあれを話して良いものかと思ったのだ。
・・・まあ、単純に話すのが面倒だと言うのもあるが。
「話しづらい事か?・・・国王陛下からは聞くなら相応の覚悟をしろと聞いたのだが・・・」
「はぁ・・・まあ別に構いませんが」
・・・まあ、別に良いか。僕は前置きを言うと、話し始めた。
「僕は神山で山の神や英霊を相手に修行を積んだんですよ・・・。神域を開き、その中で何万、何十万もの英霊の大軍勢を相手に修行を積んだんです」
「はぁっ!!?」
思わずと言った感じで、ガーランドは声を荒げた。ガンクツも目を見開いて僕を凝視している。
神域と聞いて、リーナも目を見開いていた・・・。うん、まあそうだろうなぁ。
・・・僕はこっそりと溜息を吐いた。
「まあ、という訳で僕は神域で修行して、その結果神すらも倒す力を手に入れたんですよ・・・」
「か、神を倒した⁉あの神山の神を!!?」
「・・・?ええ、まあ」
神山の神を倒したという言葉に、ガーランドが驚きの声を上げる。その声に僕の方が驚いた。
愕然と目を見開く皆に、僕は怪訝な顔をして頷く。
・・・呆然と硬直するガーランド、ガンクツ、リーナの三人。
「まさか・・・、神山で修行を積んだ上に神山の神を倒すなんて・・・・・・」
リーナは口の端を引き攣らせて呟く。どうやら、思いのほか衝撃が強かったらしい。
・・・ガーランドとガンクツも同じ気持ちらしく、口の端を引き攣らせている。何だよ?そんなに人を化物みたいに見やがって・・・。いや、まああながち間違ってはいないか。
・・・僕はそっと溜息と共に肩を竦めた。やれやれだな。
「・・・・・・ま、まあそれはともかくだ。そんなとんでもない強さを持つ奴が只の青ランクなんて何の詐欺だと言う話だよ。だから、坊主にはこれから金ランクの試験を受けてもらう」
「・・・はぁ」
ガーランドの言葉に、僕は心底面倒な声で返事した。
僕は今、恐らく面倒そうな顔をしているんだろうなあ。それがありありと理解出来た。いや、本当に面倒なんだよなあ、うん。僕はこっそりと溜息を吐いた。
「兄貴なら当然ですぜ!!!」
ガンクツはさも当然のように胸を張った。いや、何故お前がそんな自慢げなのか?
・・・・・・・・・
僕は今、ギルドの試験場でガーランドと対峙している。リーナとガンクツは試験場の端で待機だ。
試験場はかなり広く造られており、激しい戦闘にも耐えられるようかなり頑丈に造られている。しかもその上にかなり頑丈な結界を張り、例え最上位の冒険者が暴れたとしても傷一つ付かない。
そんな徹底ぶりに僕は呆れた声を出す。
「流石は王都のギルド。試験場も試験官も中々に豪華だな・・・」
「・・・いやいや、俺が試験官を務めるなんざそうそう簡単に無い事だぜ?要はお前に相応しい試験官が俺以外に居ないだけだよ」
「本当に失礼な。まるで僕が化物みたいな言い草だな?」
「そのままそっくりその通りだよ」
「・・・・・・本当に失礼な」
僕はやれやれと肩を竦める。まあ、自覚はしているので気にはしていないがな。
改めて、僕とガーランドは刃引きした剣を構える。試験を受ける際、渡された剣だ。無駄な装飾を省いたシンプルなロングソードだ。僕はそれを自然体に構える。
ガーランドは僕のごく自然な構えに、ほうっと感嘆の息を吐いた。どうやら感心したらしい。
僕もガーランドも一切隙など無い。お互いに微動だにせず、互いに様子を見る。
・・・しかし、その静寂もやがては崩れる。崩したのはガーランドの方だ。
「さて、そろそろ往くぞ!!!」
その刹那、ガーランドは僕の目前まで一瞬で距離を詰めた。その速度は恐らく、人間の限界速度を幾つも超えているだろう。まさに超速と呼ぶに相応しい速度だ。
鋭すぎるその一閃に、僕は感嘆の息を吐いた。なるほど、確かに強い。
・・・恐らくはビビアン騎士団長と同レベルの実力はあるだろう。
僕はその一閃を一歩下がりながら柔らかくいなした。そして、返す刃で斬り掛かった。
僕の剣が、ガーランドの首を狙う。
ガーランドはその余りに鮮やかな剣技に薄っすらと笑みを浮かべる。その表情は獲物を見付けた肉食獣のようでもある。その笑みに、僕も不敵な笑みを返す。
・・・直後、僕とガーランドの間を激しい斬撃の嵐が荒れ狂う。その斬撃の応酬に、リーナとガンクツは思わず息を呑んだ。その斬撃は何十合や何百合、否、何千何万何十万にも及ぶ。
まさしく斬撃の大嵐と呼ぶに相応しい。その間、僕もガーランドも筋一筋、呼吸一つ乱さない。
まさしくその光景は神域の決闘と呼ぶに相応しい。凄まじい剣戟だ。
「す、すごい・・・・・・」
「まさか、こんなにも強かったなんて・・・・・・」
リーナとガンクツは感嘆の息と共に呟く。更に激しくなる斬撃の嵐に二人は思わず目を奪われる。
しかし、一見互角に見えるその斬撃の応酬も次第に優勢な方へと傾いていく。そう、僕の方へと。
次第に僕の斬撃がガーランドの身体に当たるようになり、その身体に幾つもの斬撃が撃ち込まれる。
「くっ!!!」
刃引きされていなければ、もう細切れになっているだろう幾つもの斬撃を受けている。
・・・そして。ついに決定的な隙をガーランドは晒した。
「此れで、終わりだ!!!」
「ぐはっ!!!」
今までで一番鋭く重い一撃。それをガーランドの胴へと叩き込む。斬撃の威力を集中した一撃。
ガーランドの身体がくの字に曲がり、勢いよく吹っ飛ばされる。そのまま壁に激突して、ガーランドは壁にもたれ掛かった状態で崩れ落ちた。僕の勝ちだ。
・・・・・・・・・
こうして、僕はさっそく青ランクから金ランクに異例の昇格を果たしたのだった。僕のギルドカードは現在黄金に輝いている。うん、かなり目立つ。物凄く目立つ。
ちなみに、実質最高ランクの白金ランクは現在一人だけなので僕は冒険者第二位になる。
現在最高位の白金ランクの冒険者は何と、オーフィス王子のクルト=ネロ=オーフィスだった。
・・・いや、王子何してんの?僕は呆れ果てた。
「じゃあな、坊主。またな」
「ああ、まあ・・・また」
ガーランドが不敵な笑みで手を振る。僕は曖昧な笑みを浮かべてギルドを後にした。
貴族街の入口でガンクツと別れ、僕とリーナは屋敷に帰った。うん、今日はもう疲れた。
僕は深く深く、溜息を吐いたのだった。
無双系主人公・・・無銘。




