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無銘の世界~personaluniverse~  作者: ネツアッハ=ソフ
王都編
43/168

8、無双

「お前等、何やってやがるっ!!!」


 突如、ギルド内に怒号(どごう)が響き渡った。見ると、其処にはモヒカンヘッドのゴロツキが居た。


 ・・・あの男、何処かで見た事がある?そう思っていたら、僕に吹っ飛ばされた冒険者の男がゴロツキに泣き付いて行った。あの野郎・・・。


「あ、ガンクツの兄貴(あにき)!!!あの小僧が新入りのくせに生意気を言うんでさあ!!!」


「あ?何処のどいつだそれは・・・・・・」


 そして、ガンクツと呼ばれたゴロツキは僕を見てぎょっとした。その瞳はありえない場所でありえない再会をしたような、そんな目をしていた。


 うん?そう言えば、あの男・・・


「ああ、あの時吹っ飛ばした大岩のガンクツか・・・」


「あ、兄貴?」


「「「「「は???」」」」」


 僕とガンクツの声がハモる。


 冒険者達の顔が一斉にきょとんっとする。その目は皆、何言ってんだ?こいつ?みたいな感じだ。


 あの冒険者の男も目が点になっている。話の流れに付いていけないらしい。まあ、そりゃそうか。


 しかし、見る見るうちにガンクツの瞳が喜色(きしょく)に輝いていく。・・・面倒な予感がした。


 ・・・物凄く面倒な予感がした。


「あ、兄貴じゃないですか!!!兄貴も冒険者になったんですかい?」


「い、いやまあ僕はリーナと一緒に登録をしただけだが?」


「そいつは(うらや)ましいかぎりでさあ‼出来れば俺もパーティーに加えてくだせえ!!!」


「え~っ」


 僕はガンクツのノリに付いていけず、うんざりとした声を上げる。そして、そんな僕達を見て置いてきぼりの冒険者達は皆ぽかんっとした顔をしていた。


「が、ガンクツの兄貴?そいつは一体?」


「あ?誰に口聞いてんだこら‼この方は俺の兄貴分だぞ?」


「いや、勝手に決めんなよ・・・」


 僕は呆れた声を上げるが、無視される。ああ、うん。面倒だなおい。


 最初はぽかんっとしていた冒険者の男だったが、やがてふつふつと怒りが湧いてきたのか、ぎろりと僕を睨み付けてきた。その目は僕に対する嫉妬(しっと)が多分に含まれていた。


 曰く、あこがれの人がこんな小僧に・・・という感じだ。正直面倒だ。


「おい、てめえ等!!!この身の程知らずの小僧を殺っちまうぞ!!!」


「おうっ!!!」


「え~・・・、何このノリ?」


 何時の間にか、僕とリーナは複数人の冒険者に囲まれていた。リーナは僕の服の裾を握っている。


 ガンクツは深く溜息を吐くと、冒険者達を睨み付ける。


「おい、お前等・・・・・・」


退()いてくだせえ、ガンクツの兄貴!!!そいつ殺れねえ!!!」


 瞳のハイライトを消し、冒険者の男が叫ぶ。見ると、他の冒険者達も同じ目をしている。


 いや、こんなむさい野郎どもがその台詞を吐くと予想以上にキモイな!!!


 僕は溜息を吐くと、ガンクツを退けた。


「兄貴?」


「退け、僕がやる・・・」


 直後、一陣の風が吹いた、と冒険者達が認識した直後に冒険者達は皆倒れていた。


「「「「「は???」」」」」


 気付けば、僕は冒険者達の背後に立っていて、その手には木剣を握っていた。


 意味が解らない。理解出来ない。何だ?この不可解な現象は?誰もが混乱する。


 そんな中、ガンクツ一人が喜色満面の笑みを浮かべていた。その笑みは、僕の力に心底から心酔しているような笑みだった。こいつ、もう駄目かもしれない。


「流石だぜ、兄貴!!!」


「・・・・・・・・・・・・」


 いや、だからお前みたいなむさい野郎に言われても嬉しくねえよ。僕は自分の顔が蒼褪(あおざ)めるのがありありと理解出来た。いやもうマジでキモイんだが?


 見ろ、リーナの顔も目に見えて蒼褪めているじゃないかっ。小刻みに(ふる)えているし。


 他の冒険者達は皆、そんな僕達の様子にざわつく。


「まじかよ、お前・・・今の動き見えたか?」


「いや、俺もちっとも見えなかった・・・・・・」


「俺もだぜ、あの男は化物か?」


「それな‼マジそれなっ!!!あいつマジ化物だろ!!!」


 周囲の野次馬冒険者達は皆、ざわついている。・・・少しうっとうしいな。あと、誰が化物だ!!!


 そんな中、主犯格の冒険者の男は呆然と僕を見ていた。その表情はありえないとでも言うかのよう。


 ・・・しかし、その表情はやがて心底悔しそうな物に変わり、それが更に僕への当てのない憎しみの表情に変質していく。そして、その視線はついっとリーナの方を向いて嫌な笑みを浮かべる。


 こいつ・・・。僕の胸の中を、黒い感情が渦巻(うずま)く。


 だっと冒険者の男がリーナの方へ駆け寄り、腕を伸ばす。しかし、その腕がリーナに届く前に僕の木剣が男の身体を叩き伏せた。


「がっ!!!」


 その光景に、その場に居た全員がどよめく。僕は男に絶対零度の瞳を向け、言った。


 無論、木剣を男の首筋に付き付けるのを忘れない。ついでに適当に殺気を放つ。


「今、リーナに何をしようとした?」


「ぐっ、てめえ・・・。俺を誰だと思って・・・・・・」


「知らねえよ、そんな事」


 冒険者の男の表情が更に悔しそうに歪む。目に見えて憎悪の炎が(たぎ)っている。


「お前だけは・・・。お前さえ居なければ・・・・・・俺はあ・・・」


「人のせいにするな。今のはお前の責任だ。責任転嫁するなよ」


 青い瞳を細め、冒険者の男を睨む。それだけで、男は牙を折られたようにくしゃりと表情を歪めた。


「・・・・・・くそっ」


 それは、心底からの悔しげな言葉。


 最後に、冒険者の男はそれだけ呟いた。何とも胸糞(むなくそ)が悪い。僕は木剣を腰に差した。


 そんな僕に、リーナがそっと近寄る。その顔はほんのりと朱に染まっている。良い笑顔だ。


 僕は思わず、ドキッとする。


「ありがとう、ムメイ・・・」


「あ?何の話だ?」


「今のムメイ・・・、私の為に怒ってくれた。私の為に怒りを見せてくれた」


「・・・・・・そうかよ」


 僕はバツが悪そうに顔を背けた。頬をポリポリと()く。やれやれ、いまいち格好がつかないな。


 そう言えば、今まで僕は人の為に怒った事なんてあっただろうか?ふとそんな考えが頭を過る。


 ・・・あの時、冒険者の男がリーナに嫌な視線を向けた時だってそうだ。あの時、何で僕は無性に不機嫌な気分になったのだろうか?僕は疑問に思う。


 僕は軽く舌打ちをした。そんな僕をリーナは優しい瞳で見ていた。


          ・・・・・・・・・


 やがて、冒険者達はギルドの組員達によって捕縛され連行されていった。全員、ギルドカードを没収された上での連行だ。もはや、冒険者を名乗る事も許されないだろう。


 全員、僕が睨んだだけで心がへし折れたらしい。全員心が弱すぎるだろう。僕は呆れ返った。


 ・・・正直、魔物の方が根性があると思う。


「さあ、リーナもそろそろ帰ろうか」


「うん!!!」


 とても良い笑顔で頷くリーナ。その笑顔に、僕の頬が(ゆる)む。何だろう?暖かい気持ちに包まれる。


 ・・・恐らく、気のせいだろう。そう結論付けて僕はギルドを出ようとする。その直後。


「其処の坊主、ちょっと待ちな」


 不意に呼び止める声に、僕は足を止めた。振り返ると、其処には如何にも歴戦の猛者(もさ)という風情の男が僕の方を見ていた。その鋭い眼光に鍛え上げられ、引き締まった肉体。立ち姿は隙が全く無い。


 一目で僕は、この男がこのギルド内で自分を除き最強であると理解した。


「誰ですか?貴方は・・・」


「失礼、俺は冒険者ギルドのグランドマスターをやっているガーランド=クロウリだ。一応、前任の王宮騎士団団長をやっていた」


「・・・・・・王宮騎士団の?」


「ああ、お前の話は聞いている。シリウス=エルピス・・・エルピス伯爵の息子だな?」


 ガーランドの言葉に、その場の全員がざわついた。ガンクツも同様だ。全員の目が僕の方に向く。


 ・・・何だよ?


 僕は出来る限りしれっとした表情で答えた。


「それが何か?」


 その返答に、ガーランドはくっと笑いを噛み殺し、言った。


「なるほどな、こいつは中々面白い。なに、俺は只お前に話を聞こうと思っただけだ」


「話を・・・?」


 僕は訝しい顔をする。その表情に、ガーランドは面白そうにくつくつと笑う。


「何、少し話をな。それに、それ程の強さを持つ人物を初心者ランクの青にしてはおけんのだよ」


「・・・・・・はぁ」


 僕はそう答え、リーナの方を見た。リーナは僕の目を真っ直ぐ見ている。その瞳は・・・


「ああ、其処のリーナ嬢も一緒に来てもらうぞ?」


「・・・・・・何だって?」


 僕は目を見開いて、ガーランドを見た。ガーランドは何を今更と僕を見た。


「リーナ嬢もお前のパーティーメンバーだろう?関係者(かんけいしゃ)も一緒に来てもらう」


「・・・・・・はぁ」


 その言葉に、僕は苦虫を噛み潰したような表情をする。そんな僕に、リーナはそっと言った。


「大丈夫だよ、ムメイ」


「リーナ?」


「私もムメイと一緒に行く。私が行きたいの」


「・・・・・・リーナ」


 リーナは僕の目を真っ直ぐ見詰める。その瞳は一種の覚悟を宿していた。


 しばらく見詰め合う僕とリーナ。やがて、僕は溜息を吐いた。


「解ったよ、お前も付いてこい」


「うん!!!」


 その笑顔は、とても(まぶ)しい物だった。思わず僕はどきっとした。

むさいおっさんに退いてくだせえ兄貴!!!そいつ殺れねえ!!!とか言われてもキモイとしか言えない。

そう思うのはきっと、僕だけでは無い筈・・・。

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