7、ギルド
王宮騎士団のジャクソンはその後、何者かと内通していた罪により牢獄行きとなった。その話は騎士団内部と一部の関係者のみの秘密事項となった。
ジャクソンは最後まで何かを喚いていたが、僕は全く聞く耳を持たなかった。と言うより、聞くに堪えないだけの話だったのだが・・・。正直、鬱陶しいだけだ。
騎士団員達は皆、口々にジャクソンの裏切りを非難していた。誰も擁護をする者は居ない。
王国の栄光に泥を塗ったのだ。もはや言い逃れなど許されない。否、誰も許さない。
天地がひっくり返ろうと、許す者は居ないだろう。当然だ。彼は国を、王を裏切ったのだから。
誰も決して許さない。当然の事だ。許すなどありえない。
国王は疲れ切った顔をしていた。疲労困憊という感じだ。
「済まないな、シリウスよ」
「いえ、国王が気にする事ではありませんよ」
そう言って、僕は苦笑を浮かべて玉座の間を出ていく。リーナも僕の後ろを付いてくる。
国王は僕が玉座の間を出る瞬間、ぼそっと呟いた。
「・・・本当に、済まない」
僕は何も答える事無く、玉座の間を出た。是非もなしか・・・。
・・・・・・・・・
王城を出て、僕は貴族街をそのまま出る。場所は南の商業区だ。様々な商店が建ち並ぶ区画を僕はのんびりと歩き続ける。その後ろをリーナがいそいそと付いてくる。
と、言うよりリーナが僕の服の裾を軽く握って付いてくる。中々可愛らしい?
「えっと、ムメイ?何処に行くの?」
「ん~・・・。ギルド」
僕は簡潔にそれだけ答えた。ギルドでギルドカードを発行して貰おうと思っているのだ。
ギルドカードは身分の証明書にもなる。それ故、登録をしておこうと思っている。
元々、僕は最初からギルドで冒険者の登録をするつもりだった。まあ、ずいぶんと遅くなったが。
「兄ちゃん、其処の兄ちゃん‼どうだい?うちの林檎でも買って行かないかい?」
「・・・はぁ」
果物屋のおばちゃんがとても良い笑顔で声を掛けてくる。
僕は適当に返事してそのまま去ろうとしたが、ふと立ち止まる。じっと考え込むとその店に行った。
林檎を見てみると、中々瑞々しい林檎だ。上等な林檎だろう。僕は林檎を一つだけ買った。
「まいどあり~♪」
御機嫌な店のおばちゃんの声を背後に、僕は店を立ち去る。リーナが不思議そうに僕を見る。
その顔は、僕が林檎を買った事を不思議に思っているようだ。まあ、最初はスルーしょうと思った。
けど、まあ要は気が変わった。
「・・・ムメイ?」
「リーナ、大した物じゃ無いけど上げる」
「え?」
呆然と呆けるリーナに、僕は林檎を手渡す。うん、此処で指輪とかだったらかっこいいんだろうな。
・・・というか、ウザいだけか?うん、無いな。
僕は自分で呆れ果てる。まあ、こういうのは気持ちの問題だろう。そう思っていたら、リーナはとても嬉しそうに赤く染めた顔で笑った。うん、やはりリーナは笑顔が似合う。
僕達はそのまま街を歩いていく。その間、リーナは嬉しそうに林檎を抱き締めている。うん、まあかなり嬉しいんだろうけど、僕としてはリーナに食べて欲しくて買ったんだけどな。
・・・まあ、良いか。僕はそっと溜息を吐く。このままでは腐る寸前まで抱き締めてそうだな。
しばらく歩くと、目の前にギルドの看板が見えてきた。冒険者ギルド、冒険者の職業斡旋組織だ。
ギルドの扉を開くと、一斉に僕達に視線が集まった。その視線に一瞬、リーナが怯える。
ギルドの殺伐とした空気にリーナが怯えているようだ。僕は苦笑を浮かべた。
「・・・大丈夫だよ」
僕がそう言うと、リーナは安心したように微笑んだ。あからさまな舌打ちが聞こえた。
・・・何だよ?
僕はギルドの受付に向かう。受付には年若い受付嬢が居た。見た所、まだ20歳前半と言った所か。
・・・いや、もっと若く見える。この女性、かなり若い?
受付嬢は僕を見ると、にっこりと素敵な笑顔を浮かべた。見事な営業スマイルだ。
「仕事の依頼ですか?それとも冒険者の登録ですか?」
「冒険者の登録でお願いします」
僕は即答した。受付嬢はにっこりと良い笑顔で微笑んだ。
「では、まずはギルドの規約について説明させて頂きますね?」
そう言って、受付嬢はギルドの規約について説明を始めた。
1・ギルドでは青、赤、緑、黒、銀、金、白金の七段階にランクが分けられる。
2・ランクによって受けられる仕事が増減する。主に青は初心者でも出来る簡単な仕事、白金にもなると国でも手に余る依頼が受けられる。
3・低いランクの冒険者では難易度の高い依頼は受けられない。受けようとすれば罰則あり。
4・冒険者同士の決闘にギルドは基本的に干渉しない。しかし、それがギルドや他の冒険者の迷惑になると判断した場合に限り、ギルドは強制的に干渉する権限が与えられる。
5・度重なる仕事の失敗やギルドにとって害悪と判断された場合、ギルドカードの没収もありうる。
6・パーティーの責任はそのパーティーのリーダーの責任とする。
・・・以上の六つである。他にも細かい規約はあるが、とにかくこの六つが最重要な事だ。
他を上げて行けば、その規約の数は百にも上る。厳重な規約によりギルドは成り立っているのだ。
この規約を守らなければカードの没収もありうるとの事。話を聞き終えた僕は静かに頷いた。
受付嬢は最後に一本の針と透明のカードを渡した。何だ、これ・・・?
「・・・・・・これは?」
「これがギルドカードです。このカードに血液を垂らして下さい。それで登録完了となります」
「・・・解った」
そう言って、僕は一切躊躇う事なく指先を針で刺した。血が一滴カードの上に垂れる。すると、その直後にギルドカードが僅かに輝きカードが海の青に染まった。
ギルドカードには僕の名前と個人情報が記載されている。なるほど?確かに身分証明書だ。
どうやら、これでギルドの登録が済んだらしい。僕は一息吐いた。すると・・・。
「わ、私も登録したい!!!」
「・・・・・・はい?」
僕は目を僅かに見開いた。リーナがギルドの登録をしたいと言い出したのだ。
リーナは僕の方をじっと見ていた。その瞳は一種の覚悟が宿っている。
「えっと、リーナ?」
「私も冒険者の登録をしたい!!!」
しばらく見詰め合う、僕とリーナ。受付嬢は何だか微笑ましげに笑っている。しんっとギルド内が静まり返り静寂に包まれる。
やがて、僕は一つ溜息を吐いた。
「解ったよ。けど、リーナに無茶はさせないからな?」
「うんっ!!!」
リーナは満足そうに笑みを浮かべた。その後、リーナは僕と同じくカードを作った。青いカードだ。
そして、僕とリーナはギルドに登録した所でとりあえずギルドを出ようとした。・・・その直後。
一人の冒険者が僕達の前に立った。にやにやと嫌な笑みを浮かべている。
「おい、待ちな!!!」
粗野な声が掛けられる。冒険者の一人が僕達に声を掛けてきたのだ。
僕は心底面倒そうな顔で男を睨んだ。いや、睨んですらいない。面倒そうな目だ。
「・・・・・・何だ?」
「お前、其処の嬢ちゃんを置いて行きな」
冒険者は嫌らしい笑みを浮かべている。嫌な笑みだ。リーナが怯えて僕の背後に隠れる。
僕は不機嫌そうに冒険者を睨む。
「・・・それは、何故?」
「冒険者の先輩には従えよ。そしたら俺達のルールを教えてやるよ!!!」
がははと粗野な笑いを上げる。僕の気分が目に見えて悪くなっていく。何だ?この嫌な感じは?
・・・俺達のルールじゃなくて、お前のルールだろう?
僕自身、それは理解出来る。僕の目が、これ以上無いくらいに不機嫌な物になった。
「・・・・・・ふざけんなよ?くそったれ」
驚くほど冷たい声。それと共に、僕の倍はあろう巨体が轟音と共に吹っ飛んだ。
呆然と、ギルドの中が静寂に包まれる。見ると、全員が呆然としていた。
「嘘だろう?あいつ、緑ランクの冒険者だぞ?それが初心者に吹っ飛ばされるなんて・・・」
そんな声が聞こえた。何だ、只の緑ランクか。僕は呆れ果てた。
おや?無銘の様子が・・・




