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無銘の世界~personaluniverse~  作者: ネツアッハ=ソフ
王都編
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6、王宮騎士団

 朝、目が覚めた僕はリーナを起こして身支度を(ととの)えた。


 着慣れない礼服に身を包み、若干顔をしかめる。そんな僕に、リーナはうっとりと頬を染める。


 ・・・いや、何でだよ?


 昨日、王城から帰った僕とリーナは王都の屋敷に住む事になった。何でも国王直々の命令らしい。


 そして、今日は朝から王城に来るよう命令があったのだ。一体、何時の間に話が進んだんだか。僕は呆れて溜息を吐いた。


 ・・・リーナは僕と一緒に住めると喜んでいたが。


 未だ着慣れない礼装を着、僕はリーナと一緒に王城に来た。門番は事情を理解しているらしく、僕達を素通りさせてくれた。・・・顔パスか。


 そして、文官の一人に案内され、玉座の間へと来る。其処には国王と王子の二人が居た。


 ・・・他には誰も居ない。がらんっとしている。僕は訝しげに国王に問う。


「えっと?国王、騎士達が居ないようですが?」


「うむ、騎士達は皆練兵場に居るよ・・・。少し私達だけで話がしたくてな」


 国王は豪快(ごうかい)に笑い、そう答えた。いや、それで良いのかよ国王陛下。僕は呆れた顔で息を吐いた。


「それで、国王陛下。今日は何の用でしょうか?」


「うむ、それはだな。そちに王宮騎士団の訓練に()ざって欲しい」


「・・・・・・はい?」


 ・・・・・・・・・・・・はい???


 僕は耳を(うたが)った。えっと、聞き間違いか?訓練に混ざれ?王宮騎士団の?


 リーナの方も意味が理解出来ないようで、小首を傾げている。うん、まあそうだよな。


 国王は僕達のその反応に、豪快な笑いを飛ばして答えた。


「今から説明する。故にそう間の抜けた顔をするでない」


「・・・・・・は、はぁ」


 そう言って、僕は国王の説明を聞いた。そして・・・、結果僕は騎士団の訓練に混ざる事になった。


 って言うか、誰が間抜けな顔だ。失礼な・・・。


          ・・・・・・・・・


「という訳で、僕も訓練に混ざる事になりました」


「いや、何がという訳なんだ?」


 僕の言葉に、騎士団長のビビアンがツッコミを入れる。他の騎士達も呆然とした表情(かお)だ。


 ふむ、どうやら伝わらなかったらしい。僕は肩を(すく)めて溜息を吐いた。


 その僕の態度が気に食わなかったのか、一人の茶髪の騎士が食い掛かろうとする。それを見てリーナが慌てて止めに入った。


「落ち着いて、これは国王陛下からの命令ですから!!!」


陛下(へいか)の?」


 リーナの言葉に、ビビアンが首を傾げる。僕は静かに頷いた。


 僅かに舌打ちをする茶髪の騎士。・・・こいつ。


「はい、国王陛下が僕も訓練に混ざれと言っていました」


「・・・・・・ふむ、その理由を聞いても?」


「すいません。それは今は話せません」


 そうか・・・と少し考え込むビビアン騎士団長。やがて、静かに頷くと刃の潰した剣を持ち、僕に向けて宣言するように言った。


「なら、君の訓練相手は私が(つと)めよう。不足は無いな?」


 騎士団長のその言葉に、騎士達はざわついた。中にはあからさまにうろたえる者も居る。


 しかし、僕はそれに対して木剣を抜き放ち、構える事で答えた。ビビアンの表情が(ゆる)む。


是非(ぜひ)もなし。訓練の相手をお願いします」


 僕は不敵に笑ってみせた。


 直後、僕と騎士団長の覇気が物的な重圧となって周囲に降り注いだ。


 冷や汗をかく者、片膝を着いてがくがくと震える者、小さく悲鳴を上げる者、恐慌する者、様々な反応が騎士達から返ってくる。そんな中、騎士団長ビビアンは口の端を獰猛(どうもう)に歪めた。


「では、()くぞ!!!」


 直後、爆発したと見紛うほどの踏み込みと共に一瞬の内にビビアンは距離を詰めてきた。その速度は並の人間なら反応すら許さないだろう。そう、並の相手ならな。


 しかし、残念ながら僕は並では無い。人間の限界など、とっくに超えてしまった。


 それ故、僕は軽い足取りで踏み込みそのまま紙一重で避けた。それもさりげなく胴に木剣を当てて。


 ビビアンの胴に軽い痛みが奔る。それは、胴に一撃を当てられた証拠だ。


「っ!!?」


「一撃だ」


 避けられただけでは無く、胴に一撃を当てられた事にビビアンは愕然とする。


 そして、それは他の騎士達も同じだ。皆、愕然とした表情をしている。あの茶髪の騎士もだ。


 騎士達全員、何が起きたのか理解出来ない顔をしている。僕の動きが捕らえられなかったらしい。


 そんな中、ビビアンは表情を喜色に歪める。ふるふると身体を小刻みに(ふる)わせる。


 直後、さっきよりも更に速い踏み込みで距離を詰めてビビアンは剣を振るってきた。その速度はもはや人間の限界を大きく超越する。それを、僕は柔らかい剣捌(けんさば)きでいなした。


「っ、まだまだあ!!!」


「・・・・・・っ」


 直後、僕を幾百の剣閃が襲ってきた。一息に幾百の剣閃を可能とする斬撃。ビビアンの奥義だろう。


 僕はそれをいなしながら背後にバックステップする。しかし、それを容易く(のが)すビビアンでは無い。


 僕のバックステップに合わせて、ビビアンが踏み込む。そして鋭すぎる斬撃。


 僕は後方に弾き飛ばされた。木剣を(たて)に斬撃を受け止めたのだ。


 手に伝わる衝撃の重さに僕は感嘆(かんたん)する。今の一撃、並の木剣なら容易く切断出来ただろう。


 それほどの鋭さがあった。しかし、僕の木剣は神木で出来ている。並の硬度では無い。


 故に、僕の木剣はびくともしない。


「・・・・・・・・・・・・」


 僕は不敵に笑う。ビビアンも不敵に笑う。そして、それをごくりと生唾を飲みながら見る騎士達。


 そんな中、茶髪の騎士がそっと黙って練兵場を出ていった。それをリーナが見ていた。


          ・・・・・・・・・


 王城の片隅、人の通りの少ない暗闇の中で茶髪の騎士が何者かと話していた。


 薄暗い暗闇の中、茶髪の騎士の声だけが(ひび)き渡る。


「・・・はい。現在、王城には騎士団長や王子にすら匹敵する腕の少年が。はい・・・はい・・・」


 暗闇の中、何者かの影が()らめく。茶髪の騎士は今、何者かと密談をしているのだ。


 ・・・ふむ、やはりこいつは何者かと繋がっていたか。物陰の僕はそう確信した。そう、僕は今物陰から茶髪の騎士を監視(かんし)していたのだ。


「・・・・・・はい。では、そのように」


「何がそのようになんだ?」


「っ!!!」


 響き渡る、冷たい声。


 茶髪の騎士がばっと振り返る。揺らめく影が瞬間、消え去った。


 其処には、僕とリーナとビビアンが居た。今の声はビビアン騎士団長だ。その顔には、明確な怒りの相が浮かんでいる。騎士団員の一人が王国を裏切っていたのだ。そりゃあ、怒るだろう。


「で、何がそのようになんだ?ジャクソン」


「・・・・・・く、くそっ」


「まさか、王国の栄光に泥を塗るような奴が騎士団の中に居るとはな。流石に思わなかったぞ?」


 ビビアンの声は冷たい。王国の為に身を粉にして戦ってきた彼女としては怒り心頭だろう。


 しかし、その言葉に茶髪の騎士ジャクソンは逆上したように叫んだ。


「どいつもこいつも俺を馬鹿(ばか)にしやがって!!!俺はもううんざりなんだよっ!!!」


「・・・・・・何だと?」


 ビビアンの目が()わる。その瞳は言外にこいつは何を言っているんだと言っている。


 そんな視線すら気に(さわ)ったのか、ジャクソンは怒りに歪んだ表情で喚き散らす。


「どいつもこいつも・・・、俺を正しく評価出来ない。そんな無能の集まりなんか知った事か!!!」


「っ、貴様は・・・」


「その言葉、そっくりお前に返してやるよ」


 ビビアンが何かを言う前に、僕の声が遮った。全員の視線が僕に集中する。


 特に、ジャクソンの怒りの表情が僕に向いた。しかし、そんな事知った事か。


 僕だって、いちいち腹が立っているんだ。


「何が言いたい?」


「無能って言葉だ。お前、自分が無能じゃないって一度でも証明しようと努力したか?他の誰かのせいとそんな事ばかり言って、自分で努力する事を(おこた)っていなかったか?」


「・・・お前に、俺の何が・・・・・・っ」


 僕の声は、僕自身驚くほど冷え切っている。正直、耳障りだ。こいつの言葉は耳障りだ。


 国王から色々話は聞いていた。ジャクソンという騎士が、最近何者かと通じているらしいと。


 それ故に、彼を見張って欲しいと。そう言われた。


 ジャクソンの人となりや人物像など、聞いてはいたが。なるほど、予想以上だ。


 予想以上に腹が立つ。


 ジャクソンはいわば、上昇志向の強い男だったと言う。しかし、その思考の強さ故、盲目的な所があり周囲からはその才能を(みと)められなかった。


 いや、そもそもこいつは認められる為の努力すらしなかった。自分の失敗を常に誰かのせいにし、自分は悪く無いとそう言い続けた。


「自分で何も成せないくせに、誰かのせい誰かのせいと。くっだらねえ」


「あああああああああああああああアアアアアアアアッ!!!」


 その言葉に、ジャクソンはついにキレた。僕に向かって剣を振り上げて突っ込んでくる。


 しかし、僕はそんな奴にいちいち正面から付き合う気は全く無い。僕はぞんざいにヤクザキックで奴の腹部を蹴り抜いた。勢いよく吹っ飛ぶジャクソン。


 腹部を押さえ、僕を睨みながらジャクソンは恨みの言葉を吐いた。それはもはや呪詛(じゅそ)だ。


「ちくしょう・・・どいつもこいつも。俺を馬鹿にしやがって・・・・・・。どいつもこいつもおっ」


「知るか、そんな事」


 それだけ言うと、僕はジャクソンに木剣を振り下ろした。(にぶ)い音と共に彼は意識を断たれた。


 ・・・その場には、冷たい風が吹き抜けた。

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