4、国王
今回、国王登場。その他にも二人ほど新キャラが登場します。
王都に着いた次の日。僕とリーナ、父は王城へと来ていた。
現在、玉座の間の前で僕達は控えている。巨大な鉄の扉が目の前にあった。一対のグリフォンの絵が描かれた白銀の鉄扉だ。うん、洒落たデザインだと思う。
「入れ」
厳かで簡潔な声が響く。直後、鉄の扉が重厚な音と共に開く。中には左右に分かれて並んだ騎士達と奥にある玉座に座った国王、そしてその脇に立つ年若い青年の姿があった。
青年と国王は何処か似た容姿をしている所から恐らく、親子なのだろう。・・・あの青年、強いな。
恐らく、あの青年は僕と同年代だろう。隙だらけに見えて、隙の無い立ち姿だ。そう理解した。
そう思っていたら、青年と目が合った。その表情が不敵に笑う。・・・嫌な予感がするんだが?
「シリウス・・・」
「はい」
父に促され、僕はリーナと一緒に王の前に出た。そして、事前に聞いていた距離にまで近付いた所で片膝を着いて臣下の礼を取った。これ以上近付けば、不敬罪になって罰せられるとか。
国王、イリオ=ネロ=オーフィスは僕の顔をじっと見ると口の端を不敵に歪めた。
「直答を許す、面を上げよ。そちがエルピス伯爵の子息のシリウスか?」
「はい、僕がハワード=エルピス伯爵の息子。シリウス=エルピスに相違ありません」
国王の顔を真っ直ぐ見据え、僕は即答した。国王は頷き、直後リーナの方を向く。
「して、そちはレイニー伯爵の娘のリーナに相違ないな?」
「はい、私がハロルド=レイニーの娘。リーナ=レイニーになります」
リーナが答えると、国王は再度頷き父の方を向く。その瞳は国王としての威厳と覇気に満ちていた。
「して、エルピス伯爵。今回の事件について報告を・・・」
「はっ!!!」
父は国王の命を受け、事件の内容を詳しく説明し始めた。
・・・時は巻き戻る。父は書斎で書類の整理をしていたと言う。一通り書類整理が終わり、一息吐いていた所にその報せは届いた。
「伯爵、レイニー伯爵から緊急の救援要請が届きました!!!」
「何っ⁉」
寝耳に水だった。
いきなりの報告に、父は目を見開いて驚いたという。直後、武官に連れられレイニー伯爵家の執事であるセバが書斎に入ってきた。その衣服は必死に森の中を走った為かボロボロだ。
セバは父の姿を見ると、慌てた様子で告げた。
「どうか、どうかレイニー伯爵家をお救い下さいっ!!!」
「落ち着きなさい。一体何があったんだ?」
父は何とかセバを落ち着かせると、その報告を聞いた。しかし、直後その報告に耳を疑った。
・・・曰く、レイニー伯爵に脱税の嫌疑がかかっていると言う。
その嫌疑をかけたのはオーナー公爵だと。父は机を力の限り叩いた。
「馬鹿な、これは公爵の陰謀だ!!!」
「はい・・・、それでわしはリーナお嬢様と逃げて来たのですが・・・・・・」
「・・・・・・その、リーナ嬢がどうかしたのか?」
「・・・・・・はい、その」
とたん、セバは口ごもる。父はその反応に、怪訝に思った。
一体何なのか?静かに問いただす。
「こうしている間にも時間が惜しい。出来れば報告は早くしてくれないか?」
「・・・はい、逃げている所を追手から助けてくれた青年がいまして・・・。その青年が、かつてお嬢様を山賊から助けてくれた少年だったのです・・・。あの黒髪に青い瞳の少年です・・・」
「っ、何だと!!?」
書斎に父の声が響き渡った。それくらい仰天したという。まあ、当然だ。
自分の息子が生きて、それも再び同じ少女の前に姿を現したという。こんな偶然が合って良いのか?
・・・父は恐る恐る、セバに問う。
「・・・で、ではその子は何処に?」
「・・・・・・レイニー伯爵を助け、オーナー公爵の陰謀を砕くと言ってレイニー伯爵家に」
「っ、こうしちゃおれん!!!今すぐ兵を集めろ。レイニー伯爵家に向かうぞ!!!」
父は傍に居た武官に命令した。武官の男は慌てて兵士達を集める。
こうして、父は私兵を連れてレイニー伯爵家に向かったという。
・・・そして、その後レイニー伯爵家に着いた父の目に映ったのは。大きくなった息子の姿だった。
・・・・・・・・・
玉座の間を静寂が包む。父がレイニー伯爵家に来たいきさつはこんな所だ。
「・・・どうやら、以前よりオーナー公爵は影の魔物に憑かれていたらしく、裏で何者かの指示で動いていたようです。その魔物を操っていたのが・・・・・・」
「ふむ、報告書にあった謎の青年か・・・」
「はい・・・・・・」
再び、父は国王に頭を下げた。国王の視線が僕に向く。その瞳は真剣そのものだ。
「シリウス=エルピス」
「はっ」
「二つ、質問がある。これより一切の嘘偽りなく答えよ」
「はっ、一切の嘘偽りを申しません」
言って、僕は内心自身を嘲った。これまでの人生、一体どれほど嘘や偽りを言って来たのか。
こんな約束、嘘吐きの僕ごときが出来る物では無いだろうに。そう思った。
・・・まあ、口にも顔にも出さないが。
「・・・うむ。では、そちはリーナ=レイニーを山賊より助けて最近までの間、一体何処に居た?」
・・・・・・なるほど、其処は国王も知らなかったか。僕は納得し、答えた。
「東方の神山。其処で山の神と英霊達に修行を受けていました」
「っ、何だと!!?」
玉座の間に、王の驚愕の声が響いた。騎士達もざわついている。
東方の神山。その名を聞いて愕然としたようだ。まあ、当然か。当然だな。
あの神山は禁足地。そして、それ以前に多くの霊が集まる霊山でもある。
只の少年が生きて帰れるほど甘くは無い。国王は目をこれでもかと見開いて問う。
「そちは、あの神山に立ち入って無事生きて帰ったと言うのか?」
「無事ではないと。何度も死に掛けては回復薬で傷を治しての繰り返しでした・・・」
そう、あの回復薬が無ければ今頃死んでいたかもしれないだろう。僕自身、そう確信している。
その僕の返答に、国王はふむ、と唸った。
「その回復薬は持ってきているか?」
「はい、此処に・・・」
僕は懐から小瓶を取り出した。あの回復薬の入った小瓶だ。
騎士の一人がその小瓶を受け取ると、国王に差し出した。国王はその小瓶に入った緑色の液体をしばらく見詰めると、騎士の名を呼んだ。
「ビビアン、ビビアン=アルト!!!」
「はっ、此処に・・・」
国王の前に女騎士が出た。その腕には添え木と包帯が巻かれ、固定されている。一目で重傷を負っているのだと理解出来る。
国王は女騎士ビビアンに小瓶を渡す。
「飲め」
「・・・・・・はっ」
一瞬ためらった後、ビビアンは小瓶の液体をぐいっと飲み干した。瞬間・・・。
小瓶が床に落ち、砕ける音が響いた。
「うっ・・・」
口を押えてもだえだすビビアン。その光景に、周囲はざわつく。中には僕に剣を向ける者も。
ふむ、まあそんな反応になるだろうなあ。僕は内心苦笑した。
「・・・落ち着いて下さい。とても苦くて飲みにくいだけです。決して毒物ではありません」
その言葉に、しかしそれでも信じられないと言わんばかりに剣を向ける騎士達。
その騎士達を諫めたのは、意外にもビビアン本人だった。
「お・・・、落ち着けお前達。私は平気だ・・・」
「っ、しかし団長!!!」
「大丈夫だと言っている。むしろ、さっきよりも好調なくらいだ」
「・・・は?」
呆けた声。ビビアンは腕に巻いた包帯と添え木を外す。そして、腕を振って問題ない事を確かめる。
うん、どうやら効果は抜群らしいな。その効果に、国王も騎士達も驚いている。
ビビアンは僕に向き合い、問い掛けた。
「シリウス殿、この回復薬とは一体?」
「はい、神山にのみ生える薬草を合わせてすり潰して作った薬です」
「・・・そうか、神山にしか生えていないと。道理で市場に出回っていない筈だ」
そう言って、ビビアンはそっと騎士達の列に戻っていく。
女騎士が列に戻った事で、国王がはっと正気に戻った。
「ふむ、それではそちにもう一つ問いたい。今回の黒幕、その青年をそちはどう見る?」
ふむ、どう見るか・・・。さて、あの青年をどう例えれば良いか?
しばらく考えた後、僕は国王を真っ直ぐ見て言った。
「はい、人間を逸脱した何者か・・・に思いました。少なくとも、並の人間では何人束になっても勝つ事は到底不可能でしょう・・・」
それだけ答えた。
もだえる程に苦い回復薬・・・('ω')




