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無銘の世界~personaluniverse~  作者: ネツアッハ=ソフ
王都編
37/168

3、王都オーフィス

 あれからしばらく、王都(おうと)に着いたのは昼過ぎの事だった。


「此れが・・・王都・・・・・・」


 呆然と呟いた僕の声。それも当然の話だ。王都オーフィス、途轍もなくデカいのだ。町もデカいしそれを囲む石造りの壁もかなりデカい。もはや一種の要塞都市だろう。


 呆然と王都を見る僕を、父とリーナは微笑ましそうに見る。うん、田舎者みたいな反応だな。僕。


 さて、王都の門前には衛兵(えいへい)が居て、長い行列が出来ている。その多くが商人と冒険者。後は旅人だ。


 僕達はその隣の馬車用の門を通る。門の前で衛兵に軽いチェックを受け、門を通過した。


「では、お気を付けて・・・」


「ああ、お前達もご苦労」


 門を通過する際、衛兵の一人がそう言ったので、父がねぎらいの言葉を返していた。


 ・・・門を潜ると、その先の光景は一変。壮大な町が広がっていた。これはもはや石造りの芸術だ。


 石造りならではの力強さと頑強さを備え、かつ様々な色彩に塗装されて実に壮観(そうかん)だ。


 そして、色彩鮮やかでありながら目に優しい色を主体にしている為か、目が疲れない。うん、まさしく芸術と言えるだろう。僕は口をぽっかりと開け、呆然と見ていた。


 それを父は微笑みながら見ていたが、やがて目の前に城壁が見えて来た。話によると、その先が貴族街になるらしい。その中央にそびえ立つ城が、王城(おうじょう)ネロだ。


 王都は東西南北に区画が区切られていて、北は学業区、南は商業区、東は住宅区、西は工業区の四区画に分かれているらしい。国立図書館や博物館などは学業区にある。


 東の住宅区は高級住宅街と一般住宅街に分かれている。一般住宅街より、高級住宅街の方が少しばかり割高に設定されているらしい。


 国の方針で、学業は貴族も平民も関係なく平等に学ぶ。だから学業区には貴族の子息も居るようだ。


 もちろん、商業区や工業区にも貴族は出入りしている。あからさまに身分をひけらかし、差別する者は罰則を受けるそうだ。そこら辺は中々法の整備(せいび)が進んでいると思う。


 さて、城壁の門を抜けて貴族街には入った僕達。其処からは高級な住宅が立ち並ぶ貴族の街だ。


 貴族街にはやはり、貴族らしく舞踏会に行く訳でも無いのにドレスを着ている婦人、それと礼服姿の男性の姿もある。其処はやはり貴族としての自尊心(じそんしん)という物だろう。


 雰囲気も中々(はな)やかだが、何処か僕にはツマラナイように思えた。一体何故だろうか?


 ・・・ああ、そうか。プライドや見栄(みえ)で生きている所が、前世で見て来た醜い人間関係を僕に思い起こさせたからだろう。そう考えると、中々にツマラナイ。


 何が一番ツマラナイかって、それをいちいち思い出す僕が一番ツマラナイ。前世をいちいち引き合いになんて出すなよ。全く・・・。


 急に不機嫌になった僕を見て、父は苦笑を浮かべた。リーナはそんな僕を心配そうに見ている。


 うん、ごめん。


 ・・・やがて、僕達はエルピス伯爵家の王都の屋敷に着いた。うん、結構大きな屋敷だと思う。


 父が屋敷の門前に備え付けられた獅子(しし)のドアノッカーを叩く。すると、屋敷の中を大きな鈴の音がりりりんと鳴り響く。その音に、僕は目を見開いた。


 その僕の反応に、リーナが補足(ほそく)を入れる。


「あのね、ムメイ。今のは魔法道具で広い屋敷とかに使われているドアノッカーだよ」


「へ、へぇ・・・」


 流石の僕も、驚いてそれ以上の反応が出来なかった・・・。魔法道具と来たか・・・。


 これ、もう少し進歩したらインターホンとか出来そうだな?門前から話をするのか?


 そう思っていたら、屋敷の中から一人のメイドが出て来た。年若い、僕とリーナより少し年上のお姉さんという感じのメイドだ。ふむ、活発そうなメイドだ。


「お帰りなさいまし、旦那様。それからシリウス様、リーナ様も。お話は既にお聞きしております」


「ああ、ご苦労。シリウス、リーナ嬢・・・この屋敷を任せているメイドのマーキュリーだ」


「マーキュリーでございます。よろしくお願いします・・・」


 メイドのマーキュリーは洗練された所作(しょさ)で深々とお辞儀をした。僕とリーナも反射的に頭を下げる。


「シリウス=エルピスです。よろしくお願いします・・・」


「り、リーナ=レイニーです。よろしくお願いします・・・」


 僕達のその反応に、マーキュリーはくすくすと上品に笑った。所作の一つ一つが洗練されている。


 このメイド、中々出来る。


「部屋の準備は整っております。どうぞこちらに」


 マーキュリーに連れられ、僕達は屋敷の中に案内された。


 ・・・結論、屋敷の中はとても綺麗(きれい)だった。伯爵領の屋敷程では無いがとても広かった。


          ・・・・・・・・・


 そして現在、僕とリーナは王都の商業区を歩いていた。約束通り、リーナとデートしているのだ。


 リーナはにこにこととても良い笑顔で僕の腕に抱き付いている。うん、腕に柔らかい物が当たってとても気持ちが良いですはい。何がとは言わないけどな・・・。


「~~~♪」


「・・・・・・はぁ」


 それにしても、うん。周囲の視線がかなり面倒臭い。というか、正直うっとうしい。


 何がって、僕達を見て周囲の人達が何やらひそひそと話しているのだ。


 微笑ましげに見る者、にやにやと面白そうに見る者、嫉妬(しっと)の視線を向ける者、様々だ。もう本当に勘弁して欲しいと思う。こっそり溜息を吐いた。


 ・・・居ても立ってもいられず、僕はリーナを連れて近くの喫茶店に入った。猫の看板の喫茶店だ。


 洒落(しゃれ)た雰囲気の喫茶店だと一目で思った。


「いらっしゃいませ~っ」


 (ねこ)の獣人のウエイトレスが、僕達を出迎えてくれた。・・・うん?何故、此処に猫の獣人が?


 獣人は主に幻想大陸に棲んでいる筈だが・・・。どうやら疑問に思っているのはリーナもらしい。


 二人揃ってきょとんっとしている。


「えっと?失礼ですが・・・何故獣人の方がこの大陸に?」


「ああ、私達は人間との交流の為にこの人大陸に一族揃って来たんですよ♪」


「は、はぁ・・・」


 なるほどね。何処にも変わり種は居るものだなあ。僕こっそりはそう思った。うん、僕が言える事では無いかもしれないけどな・・・。言わないけど。


 猫獣人のウエイトレスは僕の腕に抱き付いているリーナを見て、瞳をきらんっと光らせた。


「では、お二方は個室(こしつ)の方へ案内させていただきますね~」


「・・・え?」


 この喫茶店、個室あるの?個室あるの?マジで?


 呆然とする僕達を引き連れて、猫獣人のウエイトレスは奥の個室へと案内した。中々落ち着いた雰囲気の個室だと僕はそう思った。って、違うだろう。


「では、ごゆっくり~」


 猫獣人のウエイトレスはそう言って部屋を退室した。・・・ていうか。


「店員を呼ぶ時はどうすれば良いんだ?」


「ムメイ、此処にスイッチがあるよ?」


 リーナの指差す先に、確かにスイッチがあった。そのスイッチの隣には丁寧にお呼びの際、押して下さいと書いてある。うん、解りやすい。


 そして、テーブルの端にはメニュー表が置かれていた。僕とリーナはメニュー表に目を通す。


 結果、僕はコーヒーによく似た飲み物を、リーナは果実ジュースを注文した。程なく注文した飲み物が僕達の前に置かれる。猫獣人のウエイトレスは何故か御機嫌(ごきげん)だった。


「ごゆっくり~♪」


 猫獣人のウエイトレスが退室すると、リーナがおずおずと口を開いた。


「・・・ねえ、ムメイ?」


「うん?」


 見ると、リーナは頬を(かす)かに染めて微笑んでいた。その瞳は僕を真っ直ぐ見ている。


「ムメイ、私は貴方に会えて幸せだよ?」


「・・・・・・うん」


 僕は今、怪訝な顔をしていると思う。何故、今こんな話をするのだろうか?


 しかし、リーナは構う事なく話を続ける。


「私はムメイに会えてとても幸せ。だから、私も貴方を幸せにしてあげたい。そう思っているの」


「・・・・・・うん」


 ・・・ああ、なるほど。僕はようやくリーナの想いを理解(りかい)した。


 つまり、そういう事か。


「だから、私は絶対にムメイの(そば)を離れたりはしないよ?大好き」


「・・・うん、ありがとう」


 だから、僕はそれだけ答えて微笑んだ。作り笑いの、ぎこちない物だけど。僕がリーナに返せる物はこれだけだとそう思ったから。


          ・・・・・・・・・


 ・・・さて、喫茶店を出た僕とリーナは商店を回る事にした。まあ、いわゆるウインドウショッピングという奴だろうか?王都の店を見て回っていた。


 リーナはとても楽しそうだ。うん、とても楽しそうで何よりだ。


 けど、僕に指輪(ゆびわ)をねだってどうするんだ?まだ僕達には早いと思うんだが・・・。


「ムメイ、私・・・今とっても幸せだよ」


「そう、それは良かった」


 僕は苦笑を返す。そう言ってくれて何よりだ。そう思っていたら・・・。


「おうおうっ兄ちゃん、何とも良い身なりをしているじゃねえか?この俺様にも(めぐ)んでくれねえか?」


「・・・は?」


 何とも馬鹿(ばか)っぽい声が聞こえた。僕は振り返って目を見開く。


 ゴロツキが居た。如何にもなゴロツキが居た。モヒカンに無駄(むだ)にガタイの良いゴロツキだった。


 ・・・うん、世界観間違っているだろう。僕は唖然(あぜん)とした。


「・・・・・・ムメイ」


「・・・・・・はぁ。大丈夫だよ、リーナ」


 溜息一つ、リーナに苦笑を向ける。リーナは心配そうに僕を見る。


 うん、まあ大丈夫だ。この程度の奴に僕は負けねえよ。僕はこきっと指を鳴らした。


 ・・・そして、十分後。其処には土下座で謝るゴロツキが居た。喧嘩(けんか)?数秒で終わらせたよ。


 全く、口ほどにも無かったな。うん。


「・・・・・・すげえ、あの少年。大岩(おおいわ)のガンクツに圧勝しやがった」


「あの少年は化物(ばけもの)か?」


 何か周囲に人が集まっているし。何だ大岩って、通り名か何かか?


 あと、僕を化物と言ったのは誰だ。出て来やがれ!!!


「いや、すまねえ。お前さんの実力を(あなど)っていた」


「・・・全く、これからは誰彼構わず喧嘩をふっかけるのはやめなよ?」


「へい、全く申し訳ねえ・・・。それで、あんたに頼みたい事がありまして・・・・・・」


「あ?頼みたい事?」


 僕は怪訝に(まゆ)をしかめる。ガンクツは額を地にこすり付け、土下座の形で頼み込む。


 ・・・周囲が更にざわつく。うん、何だこれ?


「俺をあんたの子分(こぶん)にしてくだせえ!!!」


「・・・・・・は?子分?」


 僕を含めた周囲に衝撃が(はし)った。


 ・・・子分?子分ってこのおっさんを僕の子分にしろってか?こいつを僕が従えるのか?


 僕は頭の中で、モヒカンのゴロツキを従える自分を想像した。うん、ないわー。速攻でないわー。


 ほら、リーナもさっきから(おび)えているじゃないか。こうなったら手段は一つ。


「リーナ、逃げるぞ!!!」


「え?ええっ!!?」


 僕はリーナを横抱きに、要はお姫様抱っこで抱えて逃げ出した。うん、周囲の視線がキツイ。


 そしてリーナは・・・。うん、やっぱり顔を真っ赤にしているな。


 僕達はしばらく逃げた後、貴族街に戻って屋敷に帰った。


「ムメイ、今度からはああいう事をするのは一言言ってね?」


 リーナが顔を真っ赤にしてそう言った。うん、ごめん。本当に、ごめん。

王都でデート。そしてゴロツキ登場。

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