if、もし、父の誘いに乗らなかったら
時は少し、巻き戻る・・・。
「シリウス、俺の屋敷に来い。俺の屋敷に住め」
その言葉に、僕は僅かに考える仕種をした。考え、悩み、そして・・・。
「それは・・・、僕に息子として屋敷に来いという事ですか?」
「・・・そうだ。お前の気持ちは良く理解した。なら、俺の屋敷に一緒に住み、他者と生活する事で人の気持ちを知り、本当の強さを学ぶのも良いんじゃないか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
長い黙考。僕はリーナの方をちらっと見る。
「ムメイ・・・」
・・・リーナは僕の服の裾を摑み、僕を見上げる。その顔は、僕が自分の傍から居なくなる事を恐れているような表情だ。不安そうな表情。
僕は考える。僕は一体どうするべきなのか?此処で、どちらを選ぶべきなのか?
考えて、考えて、考えて・・・。やがて、僕はその思考を投げ捨てた。
そんな思考、馬鹿馬鹿しい。
「すみません。その誘い、断らせて貰います・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・そうか」
父は、残念そうに苦笑した。残念そうに苦笑して、僕の頭にそっと手を置いた。
「お前がそう言うならもはや止めん。お前の好きにしなさい」
「・・・・・・はい」
・・・そう言って、僕はレイニー伯爵の屋敷を出た。
・・・・・・・・・
レイニー伯爵領の町を抜けてしばらく。現在、魔物の森の中。
僕はリーナと森の中を歩いていた。
「・・・・・・本当に良かったのか?僕と行動を共にして・・・」
「・・・・・・私、ムメイと一緒が良い。それとも、私と一緒は嫌?」
リーナが不安そうな顔で、僕の顔を覗き込む。僕は苦笑を浮かべ、リーナの頭を撫でた。
「そんな事は無いよ・・・」
そう言って、再び僕は前を向く。瞬間、僕の身体は硬直した。
僕達の目の前に、何時の間にか一人の青年が立っていた。細身で華奢な体格をした、不気味な笑みを浮かべた謎の青年。不気味で不吉な気配を漂わせている。
一目で僕は直感した。この青年は危険だと。
「よう、邪魔者。黒幕自ら登場してやったぜ?」
不吉な笑みを浮かべてそう言う青年。僕は怪訝な表情をする。
しかし、僕の額には嫌な冷や汗が伝っている。この青年、かなり強い。そして危険だ。
「黒幕だと?」
「そう、黒幕だ。お前、オーナー公爵に憑かせていた僕の影を倒したろう?」
「っ、お前があの魔物の主か⁉」
僕の頭の中を、警鐘ががんがんと鳴り響いている。逃げろ、此処は逃げた方が最良だと。
青年の顔に張り付いた笑みが更に深くなる。それが、とてつもなく不気味だ。
「さようなら、少年。残念ながらお前の人生は此処までだ」
瞬間、青年の影が膨張し僕達の方へと伸びてきた。僕はリーナを抱きかかえ、後方に跳び退く。
しかし、影の方が圧倒的に速い。そして、影はその牙を剝いた。
バリバリボリボリムシャムシャゴリゴリッ!!!
「あああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!」
瞬間、僕の意識は暗転した。
・・・最後、とてつもなくホラーっ!!!




