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無銘の世界~personaluniverse~  作者: ネツアッハ=ソフ
エルピス領編
28/168

9、エルピス騎士団

 清々(すがすが)しい朝。窓の外から小鳥のさえずる声が聞こえる。うん、実に清々しい朝だ。


 ちらっと僕は(となり)を見る。其処には・・・


「・・・すぅーっ」


「・・・・・・・・・・・・いや、何でだよ?」


 僕は静かに突っ込んだ。いや、本当に何でだよ?何故、僕のベッドにリーナが寝ているんだ?


 ・・・ぎゅっ。リーナが僕に強く抱き付いてくる。その際、リーナの胸の柔らかい感触や温かい体温とかを直に感じる。中々心地良い?


 ・・・いや。いやいや。いやいやいやっ!!!そうじゃねえだろうがっ!!!僕は馬鹿かっ!!!


 これは大問題だ。流石にこれはまずい。この状況下で、もし誰か来たら———


「・・・・・・んっ。あっ」


 リーナが(つや)っぽい声を上げる。一瞬、僕の思考が停止する。こいつ、何て声を出すんだ。


 僕は、自分の顔が熱くなるのを感じた。いや、確かにリーナは可愛いし僕に好意を持ってくれているのは素直に嬉しいけど・・・


 って、そうじゃない。僕は何とか、思考を正常に戻す。


「リーナ?おいっ、リーナ‼起きろ!!!」


「・・・・・・んん、ん~・・・。ムメイ?」


「そうだよ、僕だよ。リーナ、何でこk———」


 僕の言葉が不自然に途切れた。何故なら・・・。


「・・・・・・んっ。んむっ」


「・・・っ⁉っっ!!!」


 !!!!!!!!!?????????


 リーナにキスされた。僕の思考が真っ白になった。いや、意味が解らない。理解出来ない。全く何も考える事が出来ない。理解したくない。


 僕は一体何をされた?これは一体どういう状況だ?何故、僕はリーナにキスされている?


 理解不能。理解不能。理解不能。何も理解出来ない。僕の頭がパニックを起こす。


 ・・・と、その時。


「シリウス様。朝でございます」


 こんっこんっと、ドアをノックする音が響きメイドの声が聞こえた。


「!!?」


 マズイ。これは非常にマズイ。この状況を見られたら・・・


 一向に返事が来ない事にメイドは不審(ふしん)に思ったらしい。外の雰囲気が変わった。


「シリウス様?開けますよ?」


「っ!!?」


 瞬間、無情にも開けられるドア。直後、僕とメイドは硬直する。


 メイドの目には、僕とリーナが朝っぱらからベッドでキスをしているように見えるだろう。いや、実際に僕とリーナは現在キスをしているのだが・・・。というか、僕が唇を奪われているのだが。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・し、失礼しました~」


「ぷはっ。ち、ちょっと待てっ!!!」


 曖昧(あいまい)な笑みを浮かべて、メイドはそそくさと去っていく。僕がメイドを止めるが、そのままメイドは走り去るのだった。もはや後の(まつ)り。


 呆然と僕は腕を伸ばしたまま、硬直する。そんな僕の背中に、リーナがそっと寄り掛かる。


「・・・・・・ムメイ♪」


「・・・・・・・・・・・・はぁっ」


 もう、どうとでもなれ。そう僕は肩を落としたのだった。本当に、やれやれだ。


          ・・・・・・・・・


 僕とリーナは屋敷の中を歩いていた。僕はリーナに問う。


「で、何故リーナは僕の部屋に居たんだ?」


「それは・・・。ムメイと一緒に居たかったから?」


「いや。僕に聞かれても・・・・・・」


 首を傾げて答えるリーナに、僕は思わず溜息(ためいき)を吐いた。いや、お陰で僕はリーナと出来ているとか変な噂がメイド達の間で広まったんだぞ?どうしてくれるんだよ。


 ああ、面倒臭い。そう思っていると、リーナが不安そうな顔を僕に向けてきた。何だよ?


「ムメイ、私の事が嫌い・・・?」


「いや、嫌いじゃないさ」


「それじゃあ、私の事・・・好き?」


「・・・・・・・・・・・・す、好きだよ?」


 思わず顔を()らして答える僕。そりゃあ、好きか嫌いかで聞かれれば好きと答えるしかないだろう?


 その返答にリーナは嬉しそうに笑い、僕に抱き付いた。うん、もう何でも良いや。面倒臭い。


 ・・・そう思っていると、中庭の方から(さわ)がしい声が聞こえてきた。一体何だ?


 少し覗いてみる。すると、其処には複数人の騎士達が集まり訓練をしていた。ふむ、どうやら中庭ではなく練兵場の類だったらしい。


 皆、槍や剣を持って訓練に(はげ)んでいる。うん、こう見ていると(うず)いてくるな。


「ムメイ?」


「ん?ああ、どうやら訓練の最中らしいな・・・」


「そう・・・」


 訓練を見ていると、僕達の視線に気付いたのか一人の騎士が僕達に近寄ってきた。


「・・・ふむ、リーナ様と・・・少年は誰かな?」


「ああ、僕の名は・・・シリウス。シリウス=エルピスです」


 僕の返答に、一瞬だけ騎士が硬直した。硬直して、恐る恐る尋ねる。


「え、えーっと?あの、もしや伯爵(はくしゃく)のご子息で?」


「ああ、うん。そうですね・・・。僕はエルピス伯爵の息子になりますね?」


 思わず僕は苦笑する。僕自身、未だに実感が持てない。未だ伯爵家の息子だという実感が無いのだ。


 しかし、その返答は騎士には効果抜群だったらしい。


「そ、それは大変ご無礼をっ!!!」


 騎士は勢い良く頭を下げてきた。僕は慌ててそれを止める。


「い、いや・・・。別に気にしてはいないから。ほら、とりあえず頭を上げて・・・」


「し、しかし・・・」


 そうこうしている内に、何だ何だと他の騎士達が集まってくる。集まる視線。これはマズイ。


「えーっと?貴方の名前は?」


「は、はいっ。俺の名はマルコムと申します・・・。一応、騎士長(きしちょう)になります・・・」


 どうやら、騎士長だったらしい。つまり、騎士達の中ではかなり偉いのか・・・。


 だとすれば、この状況は余計にマズイだろう。


「じゃ、じゃあこうしましょう。僕も訓練に参加させて下さい」


 その言葉に、マルコムは更に目を見開いて驚いた。他の騎士達もだ。


「え、えーっと?ご子息が・・・ですか?」


「はい。僕も訓練に混ぜて下さい。それで今回の件は無しとしましょう」


 僕の言葉に、マルコム達は曖昧(あいまい)に笑うのだった。まあ、そりゃあそうか。


 僕は思わず苦笑した。


          ・・・・・・・・・


 そして現在。僕は練兵場の中央で騎士長のマルコムと対峙していた。マルコムは未だ、全くやる気が起きないようだ。まあ、少年を相手にやる気になれと言う方が(こく)だろうが。


「・・・・・・えっと、本当に良いんですね?シリウス様」


「ああ、全く問題(もんだい)ないよ」


 僕は木剣を片手に、自然体で立っていた。傍目(はため)に見たら無防備極まりないだろう。


 しかし、実際はこれが僕の最も最適な構えだ。この自然体から繰り出す変幻自在の(わざ)


 隙だらけに見えて、隙が無い。それが僕の辿り着いた答えだ。


 対するマルコムは木剣を正眼(せいがん)に構えている。基本に忠実だが、全くやる気を感じない。


 僕から見たら隙だらけだ。


「では、行きますよ!!!」


 僕に向かって木剣を振りかぶる騎士長マルコム。しかし・・・


「甘いっ!!!」


 瞬間、僕はほんの(わず)かな挙動でマルコムの脇腹を打ち抜いた。もちろん手加減はしている。


 僅かな挙動で避けにくい一撃。それが見事にマルコムの脇腹を打ち抜いた。マルコムはその一撃に思わず目を白黒させている。どうやら今の動きが全く見えなかったらしい。


「シリウス様・・・。今、何を?」


「脇を締めて、もっと動きを最小限にするんだ」


 そう言って、直後。


 瞬間、僕の姿が消えた。そうマルコムが認識した瞬間、既に頭を打たれていた。


「集中力は常に切らすな。それは命取りだ」


「っ!!!」


 マルコムは此処にきて、ようやくその認識を改めたようだ。僕が只の少年では無いと。


 ぎゅっと表情を引き締める。脇を締め、しっかりと木剣を構える。よし、良い気構えだ。


 僕は獰猛(どうもう)な笑みを浮かべた。


「来いっ!!!」


「はあああああああああっ!!!」


 僕によるマルコムの訓練は夕刻まで続いた。いや、何時の間にかマルコムの訓練になっているし。


 まあ、良いか。

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