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無銘の世界~personaluniverse~  作者: ネツアッハ=ソフ
エルピス領編
25/168

6、親子の再会

今回、無銘とリーナの両親が出会う。

 僕と父とリーナが雑談に花を咲かせていた、その時———部屋の扉が勢いよく開いた。


伯爵(はくしゃく)、レイニー伯爵夫妻を発見しました!!!」


「本当か!!?」


「っ!!?」


 父とリーナが同時に振り返る。其処には兵達に付き添われた、ボロボロの姿の男女の姿があった。


 この二人がレイニー伯爵夫妻、リーナの両親か・・・。優しそうな両親だ。リーナは母親似か。


 両親のその姿に、リーナは()に涙を浮かべる。


「リーナ・・・」


「っ、リーナ」


 父と母に名を呼ばれ、ついにリーナの涙腺は決壊(けっかい)した。次々と涙が溢れ出る。


「っ、お父様・・・お母様・・・。うああっ、ああああああああああああっ!!!」


 両親の胸に飛び込み、号泣するリーナ。両親も瞳に涙を()め、リーナを抱き締める。


 親子の感動の再会という奴だろう・・・。


「良かった。リーナが無事で、本当に良かった・・・」


「ええ、本当に・・・・・・」


 リーナと両親が、涙を流しながら抱き合う。此処で話し掛けるのも無粋だろう。黙って見守る。


 すると・・・


「ムメイが・・・。あの時の子が私を助けてくれたの・・・・・・」


 そう言い、リーナが僕の方を見る。リーナの両親も、僕の方を向く。その視線に、僕はたじろぐ。


 ・・・何か、少し気まずい気分になり、僕はそっぽを向く。それを見ていた伯爵、父は苦笑を浮かべて僕の背中をそっと押した。


「お前が助けたんだ。それを誇りなさい・・・。何も気まずく思う事は無いさ」


「・・・・・・・・・・・・」


 僕はむすっとした顔で、リーナ達の方を向く。他に、どんな顔をすれば良いのか解らない。背後で父親が苦笑しているのが解る。・・・一体僕にどうしろと?


 そんな僕に、リーナの両親は優しく微笑み掛けた。


「君がリーナを助けてくれたんだね?ありがとう・・・」


「貴方の事、リーナから良く聞いていたのよ?」


「は、はあ・・・。そんなに僕の事を・・・?」


 僕の問いに、二人揃って頷いた。・・・本当に、一体何を話していたんだ?リーナは。


 リーナの方を見ると、弾けるような笑顔で僕に抱き付いてきた。・・・うん。この状況下で抱き付かれても困るんだがな・・・。両親の前だし。


 ちらっとリーナの両親を見ると、微笑ましそうに僕達を見ている。いや、何でだよ。


 何でそんな祝福(しゅくふく)ムードなんだよ?僕、何処の馬の骨とも知れないよ?リーナとは釣り合わないよ?


 しかし、そんな僕の考えなどお構いなしだ。リーナの母親が僕に頭を下げる。


「リーナの事をよろしくお願いします・・・。ムメイさん」


「・・・・・・は、はぁ。解りました・・・」


「っ、ムメイ!!!」


 リーナが感極まって僕に強く抱き付く。うん、柔らかい。何がとは言わないけど・・・。


 やれやれ。僕は呆れた顔で、リーナを抱き締め返す。どんどん外堀を埋められている気がする。


 大丈夫か?


 ・・・其処に、さっきまで黙って事の成り行きを見守っていたアーリア=オーナーが前に出た。


 一斉に視線が其方に向く。


「君は、オーナー公爵のご子息だね?」


「はい。レイニー伯爵家の皆さまには我が父親がご迷惑をおかけしました。父に代わって、俺からお詫びを申しあげます。責任は全て、俺が負いますのでどうかご容赦を・・・」


「・・・・・・・・・・・・本当に、君が責任を負うんだね?」


「はい。全責任は我がオーナー家にあります」


 そう答えて、アーリアはレイニー伯爵に頭を下げる。その表情は、万感の覚悟に満ちていた。


 その覚悟の程を感じ取ったのか、レイニー伯爵は真剣な顔で頷く。


「解った。なら、先ずは我がレイニー家の潔白を証明してもらおう。話はそれからだ」


「はい」


 そう言って、アーリアは部屋を出ていった。うん、まあ此処は僕が口出しする事でも無いだろう。


 そう思っていると、レイニー伯爵が僕の方を見て笑みを浮かべた。


「それにしても、君は本当に母親に似ているな・・・。その顔立ちといい、黒髪に青い瞳といい」


「・・・・・・まあ、僕は母親と違って魔術(まじゅつ)の方は全く駄目ですけどね」


 僕はふぅっと溜息を吐いた。その言葉に、レイニー伯爵は苦笑した。


「そうか・・・。しかし、リーナを助けたという事はそれなりに(うで)は立つのだろう?」


「まあ、神山でかなり(きた)えましたからね・・・」


「「「っっ!!!」」」


 遠い目をして答える僕。しかし、その言葉にはレイニー伯爵だけではなく、その場の全員が驚いた。


 特に、僕の父が驚いた目で僕を見ていた。一体何だ?


「・・・シリウス。やはりお前、神山に登ったのか?」


「・・・・・・はい。そうですが?」


「よく生きて帰れたな・・・お前・・・」


 ああ、なるほど。僕はようやく驚かれた理由を理解した。つまり、僕があの神山に登って生きて帰れた事が奇跡的だと、そういう事らしい。


「まあ、神山ではずっと英霊達や山の神を相手に戦う毎日でしたから。確かに何時死んでもおかしくは無い毎日を過ごしていましたね・・・」


「・・・・・・・・・・・・」


 その言葉に、全員が呆然と僕を見ていた。まあ、そりゃあそうだろうな。


 あの時は本当に何時死んでもおかしく無かった。本当に死に掛けた事なんて、両手の指の数じゃ絶対に足りないだろう。そう断言(だんげん)出来る。


 父が何かに気付いたような顔で、僕に言った。


「お前、幼少の頃から自分を鍛える事に必死だったらしいが。それも関係しているのか?」


「・・・・・・はい、僕は弱い自分が許せなかったんで」


 他人が弱いのは別に気にしない。けど、僕は自分の弱さを許容出来ない。


 僕は二度と、自分の世界が(こわ)れるあの感覚を味わいたくない。それは到底許容出来ない。


 だから・・・


「僕は自分を守れる強さが欲しかった。自分の世界を守れる強さが欲しかった。それだけですよ」


 只、それだけの事。それだけの為に、僕は此処まで来た。それだけの為に、僕は自分を鍛え上げた。


 しかし・・・


「それは・・・。違うよ」


 リーナが言った。それは違うと、そうでは無いと。


「うん?」


「ムメイ。貴方はそれだけでは無い。決してそれだけじゃ無いよ。貴方はきっと・・・」


 其処で、リーナは言葉を詰まらせる。視線を()らし、言い辛そうにする。


 僕は苦笑し、リーナの頭に手を乗せた。


「きっと、何だ?」


「貴方は只、優しくなりたかった。もっと優しい自分になりたかった。そうでしょう?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ」


 僕は黙り込む。図星(ずぼし)を突かれて黙った訳では、当然無い。


 只、その言葉を否定しきれないだけだ。否定する言葉が見付からないだけだ。


 頭の中で、それを否定する言葉を必死で探す。しかし、見付からない。


「ムメイは優しいから。本当は誰より優しいから。世界に絶望しながら、それでも人を憎みきれない」


「だ・・・まれ・・・」


 自分でも驚くほど、(つめ)たい声だった。冷たく、暗い声・・・。


「本当は誰より傷付いている筈なのに、それでもムメイは———」


「っ、黙れっっ!!!」


 部屋を、僕の怒声(どせい)が響き渡った。・・・静寂(せいじゃく)が場を満たす。


 もう、黙ってくれ。・・・頼むから。僕の頬を、(しずく)が伝う。


「ほら。貴方は今、泣いているじゃない・・・」


「・・・・・・・・・・・・っ」


 何故、僕は泣いているのか?もう、強くなった筈なのに。誰よりも強くなった筈なのに。


 それなのに何故?


「ムメイ、貴方は自分が思っているほど強く無いんだよ。幾ら力が強くても、能力に優れていても、それでも貴方は弱い。だから、人は支え合うんでしょう?」


 人は弱い。独りでは到底生きていけない。だから人は集団で行動する。孤独に耐えられないから。


 それは解っている。痛いほど理解している。


 けど。それでも僕は。それでも、僕は・・・。


「それでも、僕は一人で生きていける強さが()しかった・・・」


 部屋の中、僕の声が(むな)しく響き渡った。

・・・本当の強さとは一体何なのか?

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