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無銘の世界~personaluniverse~  作者: ネツアッハ=ソフ
エルピス領編
22/168

4、粛清

 レイニー伯爵の屋敷。その奥の書斎(しょさい)にオーナー公爵は居た。


 クラウン=オーナー。オーナー公爵家の現当主である。その公爵は現在、息子のアーリア=オーナーと揉めていた。


「お父様!!!このような非道(ひどう)は即刻お止め下さい!!!」


「まだ言うか。これは後々、我がオーナー家にとって邪魔になりかねない因子を除く作業に他ならない」


「っ⁉そんな事の為に、お父様は他家を陥れたというのですか!!!」


「その通りだ・・・」


 何を当然の事を。そう答える父親にアーリアは絶句した。前々から横暴な父と思っていたが、まさか此処までとは考えていなかった。


 余りに暴虐。余りに非道。これでは貴族としてのプライドも何も無い。余りに(おろ)かだ。


 アーリアは悔しそうに唇を嚙む。


「お父様。考えを改める気は無いのですね?」


「無論だ。もうお前に話す事は何も無い」


「・・・・・・なら、もう仕方が無い。入れ!!!」


 瞬間、扉は勢いよく開け放たれ、其処に二人の人物が現れた。


 一人はリーナ=レイニー、レイニー家の娘だ。しかし、もう一人の青年を公爵は知らなかった。


 綺麗な黒髪に青い瞳。その手には木剣を握っている。顔立ちは整っているが、その瞳は鋭い。


 オーナー公爵は一目でかなりの手練(てだ)れだと悟った。一言で言うと、隙が無い。


「何者だ?お前は・・・・・・」


無銘(むめい)


 青年はそう名乗った。


          ・・・・・・・・・


 さて、リーナの屋敷に突入した僕達は其処で公爵の息子を名乗る少年、アーリアと会った。


 アーリアは父親である公爵に反発する数少ない人物で、今回の事も快く思っていないらしい。そんな彼が僕達に父親を反省させる為、協力を求めた。


 ・・・まあ、結果は公爵に反省の余地なし。僕達は強行突入した。


「・・・ふむ、無銘か。なるほど、本名を名乗る気は無いらしい」


「僕の本名はもう無い。名乗る気も無い・・・」


 僕がそう言うと、公爵はせせら笑った。何が可笑(おか)しいのか。


 公爵は僕を見下し、醜悪(しゅうあく)な笑みを浮かべながら言った。


「ふふっ、・・・名を名乗れぬ身分なのか。それとも自ら家を出たのか。どちらかは解らぬが、どうやらプライドの欠片も持たぬようだ・・・」


「っ、そんな事!!!」


 僕を侮辱(ぶじょく)された事に腹を立てたらしいリーナが反論しようとするが、僕が手で止めた。


 それ以上は言わなくて良い。今はそんな事、どうでも良い。木剣の先を公爵に向ける。


「今はそんな事はどうでも良い。僕が今、するべき事をやるだけだ・・・」


「ふんっ、そう言っていられるのも今の内だ‼族だ、族が出たぞ!!!皆の者、さっさと私を守れ!!!」


 公爵が叫び、私兵を呼ぶ。・・・しかし、何時まで経っても私兵は来ない。


 公爵の顔が、初めて驚愕に歪んだ。どうやら状況が上手く理解出来ないらしい。


 仕方が無い。説明しよう・・・。


「屋敷内に居るお前の手駒は全員、叩きのめしたよ」


「馬鹿なっ‼あれだけの数をお前達三人で倒したというのか!!!」


「三人じゃねえよ・・・。あんなの僕一人で充分だ」


「・・・・・・っ、馬鹿な!!?」


 公爵はありえないと叫び散らす。そんな馬鹿な事、ある筈が無いと。


 しかし、残念ながらこれは事実だ。もう、この屋敷にお前の手駒は居ない。全員無力化した。


「今、セバさんがエルピス伯爵に助けを求めに向かっている。しかし、僕はそれを待つ気は無い。後はお前一人だけなんだよ・・・」


「くっ、粋がるな小僧‼私も昔は名を馳せた魔術師。貴様など、消し炭にしてくれる!!!」


 そう言って公爵は懐から短い杖を取り出し、その先端を僕達に向けた。


「ファイアバレット!!!」


 僕達に向け、巨大な炎の砲弾が襲い掛かる。しかし、その程度の魔術は僕にとって攻撃ですらない。


 その程度の火力、僕にとって欠伸(あくび)が出るほどぬるいんだよ!!!


「・・・ふっ!!!」


 僕は、木剣の一閃による風圧だけで炎の砲弾をかき消した。これには、流石のリーナとアーリアも絶句しているようだ。そんなに驚く事かな?・・・まあ、驚く事か。


 しかし、神山の英霊達はこの程度簡単に出来たんだがな・・・。まあ、良いか。


「・・・馬鹿な。こんな事、ありえん‼こんな事、あってはならんのだ‼」


「まあ、それよりも・・・。そろそろ顔を見せたらどうだ?」


「・・・な、何を言っている?」


 公爵は何の事か理解出来ていないようだ。しかし、僕には解る。その程度、僕には通用しない。


「この程度で、僕の目を(あざむ)いたつもりか?魔物」


「・・・・・・ふむ、ばれていたか」


「「「!!?」」」


 突如響いた声に、公爵、リーナ、アーリアが愕然と目を見開く。


 直後、公爵の身体から黒い影の魔物が現れた。黒い、人型の魔物だ。


「ひゃははっ、何時から気付いていたよ!!!」


「最初からだ。最初に僕とリーナがお前の前に姿を現した瞬間、公爵の身体から黒い影のような何かが見えた気がしたんでな」


「そいつは迂闊(うかつ)だった。俺様とした事がなあっ!!!」


 言いながら、影の魔物は僕達に向け影の槍を無数に放った。僕が避けようと関係ない。むしろ、僕が避けたら後ろの二人が串刺しになるだろう。避けられない。


 僕は、リーナとアーリアを背後に(かば)う。


「ムメイ⁉」


「お前っ⁉」


「大丈夫だ、任せろ!!!」


 そう言い、僕は木剣を構えた。呼吸を整え、集中する。


 ・・・今!!!


「ふっ!!!」


 僕は木剣を振るう。瞬間、影の槍は次々と撃ち落とされる。


 無数に飛んでくる槍。それを苦も無く撃ち落す僕に、リーナとアーリアは呆然と見入っていた。


「・・・す、すごいっ」


「あいつ・・・。あんなに強かったのか」


 失敬な。僕はかなり強い。この程度、何万と来ようが傷一つなく撃ち落とせる。


 その光景に、影の魔物の背後で見ていた公爵は顔を蒼褪(あおざ)めさせた。


「お、おいっ。貴様が何者かは知らんが、圧されているではないか!!!もっと頑張って私を守れ!!!」


「・・・あ?誰に命令している?」


 瞬間、影の魔物が(わら)った。真っ赤な鮮血が舞う。


 愕然と目を見開く、リーナとアーリア。あいつ、やりやがったか。


 ・・・公爵の左胸に、影の槍が突き刺さっていた。


「・・・・・・え?がっ!!!」


「俺様が下された命令はよ、公爵を裏で操る事。そして、用済みになれば即座に抹殺する事だ」


 影の魔物が無情に告げる。・・・命令?誰に?


 僕は怪訝に思った。


「・・・おい、其処の魔物。お前、誰に命令された?」


「おおっと、これまた失言した‼俺様とした事がよ‼」


 影の魔物が嗤う。ゲタゲタと、盛大に嗤う。嘲笑(あざわら)う。


 どうやら、この魔物にとっては些細(ささい)な事らしい。


 どさっと公爵が崩れ落ちる。もはやぴくりとも動かない。どうやら、息絶えたらしい。


「ひゃははっ、死んだ死んだ‼そうだよ、皆等しく死んじまえよっ!!!」


「っ!!?」


 直後、影の魔物の身体が膨張(ぼうちょう)し、影の槍が爆発的に射出された。


 背後の二人を庇いながら、僕は槍を(さば)く。しかし、これじゃあ(らち)があかない。


 二人を庇いながら戦うのは正直、じり貧だ。


 ・・・しかし、そう考えていたのは僕だけでは無かったらしい。影の魔物も焦れてきたようだ。


「ちっ、しゃらくせえんだよ!!!」


 魔物は影の槍をその手に突撃してきた。確かに、只影の槍を射出するだけよりはマシだろう。


 ・・・しかし、それは悪手だ。


「そう来るのを待っていたっ!!!」


 僕は影の槍を払い流し、そのまま魔物を木剣で切り伏せた。


「ぐはあっ!!!」


 木剣とは思えない、鋭い一閃。影の魔物は真っ二つに切り伏せられ、そのまま崩れて消え去った。


 ふうっと息を吐く。この程度の敵でこれとは、僕もまだまだだな。


「ムメイっ!!!」


「・・・ん?うおっ⁉」


 振り返ると、リーナが勢いよく飛び付いてきた。その顔は、とても心配そうだ。


「ムメイ、大丈夫?怪我は無い?」


「だ、大丈夫だって。ほら、この通り・・・」


「っ、頬に切り傷が⁉」


「いや、この程度何とも無いから‼」


 流石に僕は(あせ)る。近い近い。リーナ、近いってば!!!何か良い匂いがするし!!!


 ・・・と、その時ばたばたと物音が聞こえ、部屋の中に武装した兵達が入ってきた。


 僕達に槍を突き付ける。何だ何だ?


 いきなりの事で、僕は目を白黒とさせる。


「我々はエルピス伯爵家の兵である‼大人しく投降(とうこう)しろ!!!」


 ・・・ああ、そう言えばエルピス伯爵家に救援を頼んでいたな。すっかり忘れていた。


 僕はこっそり溜息を吐いた。

ちょっとした設定。

異能とは、スキルや超能力と言い換える事も出来ます。

ちなみに巫女や聖騎士、狂戦士も異能に該当します。

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