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無銘の世界~personaluniverse~  作者: ネツアッハ=ソフ
エルピス領編
21/168

3、公爵家の陰謀

 それは、昨夜の話・・・。リーナが両親と食事をしている時、それは唐突に知らされた。


 勢い良く扉が開き、セバが(あわ)てて入ってくる。


「旦那様、大変でございます‼旦那様に脱税の嫌疑(けんぎ)がかけられています!!!」


「何だと⁉」


 父親は驚きのあまり、椅子から立ち上がった。椅子がその勢いで倒れる。


 母もその顔に、驚愕の表情を浮かべている。リーナは訳が解らず、硬直していた。


 セバは(あせ)りの表情を浮かべたまま、詳しく話す。


「どうやら、あのオーナー公爵が裏で糸を引いているようです。現在、憲兵(けんぺい)が公爵家の兵達と共に此方へと向かっているようです」


「くっ、よりにもよってオーナー公爵か。くそっ、お前達は今の内に逃げろ!!!」


 父親が覚悟を決めた顔で言った。しかし、それに真っ先に反論する者が居た。


 母だ。


「あなた、私もあなたと共に残ります」


「・・・シア?」


「セバ、どうかリーナをよろしくお願いします・・・」


 母、シアはセバにリーナを(たく)し、自らの夫に向き直る。


「あなた、私は貴方の妻です。なら、何処までも付いていきます」


「・・・・・・・・・・・・シア、解った。セバ、そういう事だ。娘を守ってくれ」


「了解しました・・・」


 そうしてリーナは夜の闇に紛れ、屋敷を抜け出した。逃げ出す際、一瞬振り返ったリーナの瞳に屋敷に突入する大勢の憲兵達の姿が見えた。リーナは涙を(こら)え、そのまま逃げ出す。


          ・・・・・・・・・


 その後、一体どれ程逃げ回っただろうか?リーナは息を切らせて立ち止まった。


「はぁ・・・はぁ・・・っ」


「お嬢様、どうかもう少しの辛抱を。もう少しでエルピス伯爵の許に着きます故」


「・・・う、うん。っ」


 解った。そう言おうとして、リーナは肌が泡立った。巫女の直感が告げる。・・・何か来ると。


 そして、その直感は最悪の形で当たる。


「・・・ふふっ、ようやく見付けたぞ。レイニー伯爵の娘よ」


「「っ!!?」」


 振り返ると、其処には程よく鍛えられた身体に貴族の礼服を身に纏った男が、アンデッドの猟犬を二匹程引き連れて立っていた。


 リーナはこの男を知っていた。この男が、リーナの父親にあらぬ罪を着せた者。オーナー公爵だ。


「よく此処まで逃げ切った。しかし、それも此処までだ」


「オーナー公爵、貴様・・・!!!」


「やれ」


 セバが何かを言おうとするのと、オーナー公爵の言葉はほぼ同時だった。


 オーナー公爵は(いびつ)な笑みを浮かべ、二匹の猟犬に命令を下す。すると、その瞬間二匹の猟犬は放たれた矢のようにリーナ達に飛び掛かった。


「っ!!!」


「お嬢様っ!!!」


 リーナは思わず目をぎゅっと閉じ、身を強張らせた。・・・しかし、何時まで経っても痛みが来ない。


 ・・・恐る恐る目を開けるリーナ。その目に映ったのは。


「・・・・・・・・・・・・ごふっ」


「じ、じいやっ!!!」


 セバがリーナを庇い、その身を盾にして二匹のアンデッドに嚙み付かれていた。


 アンデッドの牙には感染能力がある。アンデッドに嚙み付かれたら、その者もアンデッドになる。


 リーナは顔を蒼褪めさせた。・・・しかし、セバはそれに構う事なく、リーナに向かって叫ぶ。


「お嬢様、早くお逃げ下さい!!!」


「・・・け、けどっ!!!」


「わしはもう助かりません。早くっ!!!」


「っ!!?」


 リーナは弾かれるように逃げた。その瞳に涙を溜め、それでも必死に逃げた。


 セバの決死の覚悟を悟ったから。そして、セバはもう助からないと悟ったから。


「くははっ、逃げろ逃げろ‼逃げて私を(きょう)じさせろ!!!」


 背後から哄笑が聞こえる。その笑い声に、リーナは悔しい気持ちにかられる。


 本当なら、リーナとてあの男の頬を(はた)いてやりたい。しかし、リーナでは力が足りない。


 それが、とても悔しい。故に、逃げる。悔しさを押し殺して逃げる。


 ・・・背後で、セバの断末魔(だんまつま)が聞こえた気がした。


          ・・・・・・・・・


 僕の前で、リーナが泣きじゃくる。その悲しみや悔しさを吐き出し、泣きじゃくる。


「私は・・・私は・・・。うああっ」


「よく()えた。もう我慢する必要は無い。もう、存分に泣いて良いんだ」


「ああっ・・・うああっ、あああああああああああ!!!」


 リーナを抱き締め、出来うる限り優しい声を掛ける。その背中を優しく撫でる。


 ・・・ああ、僕は本当に甘い。こんな時、その手を振り払う事が出来ない。


 本当はリーナの事なんて、何とも思っていないくせに。何の感情も抱いていないくせに。


 僕の胸がちくりと痛んだ。リーナをぎゅっと抱き締める。


 ・・・しばらくリーナと抱き締め合う。


 ああ、何で僕はこんなにも・・・。僕の心を嫌な気分が渦巻く。


「・・・本当に、どうしようも無えな。僕は」


 ぼそりと呟く。その声は、リーナには聞こえてはいない。


 全く、くっだらねえっ。そう、心から思う。


 ・・・と、その瞬間。


「ぐるあああああああああああああああ!!!」


 獣の咆哮(ほうこう)。同時に僕達に襲い来る猟犬のアンデッド。


「っ、甘い!!!」


 僕は瞬時にリーナを庇い、猟犬を腕で薙ぎ払う。猟犬は空中で反転し、地面に無事着地する。


 唸り声をあげ、猟犬は僕とリーナを睨む。そして、その背後から一人の老執事の姿が。その姿を見て僕達はすぐに理解した。その姿は、まぎれも無く。


「じいやっ!!!」


「・・・・・・セバさん。やはり、アンデッドになっていたか」


 そう、リーナの執事。セバさんだった。


「・・・・・・・・・・・・ぐううっ」


「じいや‼じいや‼私だよ、リーナだよ!!!」


「ぐああああああああっ!!!」


 僕はリーナの前に出て、木剣を構える。


「無駄だ。今のセバさんはもうアンデッドになっている」


「そんな・・・そんな・・・・・・っ」


 リーナは泣きじゃくる。そんなリーナを見て、僕は不思議な気持ちにかられる。


 リーナを助けたい。助けてやりたいと。


「大丈夫だ、リーナ。セバさんは必ず救うから・・・」


「・・・・・・ムメイ」


 僕を見上げるリーナの顔。その涙をたたえた瞳。僕は彼女を守りたい。


 だから、ついそんな事を約束してしまった。何故、こんな約束をしたのか?解らない。


 もしかして、僕はリーナの事を・・・。


 馬鹿な。それこそありえない。僕は、リーナの事を何とも思っていない筈だ。


 そんな気持ち、断じてありえない。


「ぐるあああああああああっ!!!」


「ぐあああああああああああああああっ!!!」


 ほぼ同時に襲い掛かってくる猟犬とセバさんのアンデッド。僕は舌打ちと共に、木剣を振るう。


 猟犬には確実に死ぬ一撃を。セバさんにはぎりぎりで生きる程度の一撃を。それぞれ叩き込んだ。


 猟犬とセバさんが同時に弾き飛ばされた。


 ・・・猟犬は即死し、セバさんは・・・何とか生きている。


「じいやっ!!!」


「待て、リーナ。まだ早い・・・」


 僕はセバさんに近付き、その口に小瓶に入った緑色の液体を注いだ。あの苦い回復薬(ポーション)だ。


「・・・っ、ごほっごほっ!!!こ、此処は・・・わしは一体!!?」


「じいやっ!!!」


 セバさんにリーナが飛び付いた。セバさんはそれを何とか受け止める。


 リーナはセバさんの胸の中で泣きじゃくる。戸惑(とまど)うセバさん。


「わしは・・・助かったのか?・・・何故」


「助かって何よりだ。セバさん」


「っ、誰だ⁉」


 セバさんは僕を睨み、リーナを背後に庇う。リーナは戸惑う。


 僕は苦笑して、セバさんを(なだ)める。


「落ち着け。僕の顔を見忘れたのか?」


「む?・・・っ、その黒髪に青い瞳は⁉」


「じいや、ムメイだよ。ムメイが帰って来たんだよ‼」


 セバさんは戸惑う。僕を見て、ありえないとでも言うように・・・。


 何故だ?僕の方が戸惑う。


「失礼。貴方はあの後、神山に向かっている姿を確認されたと聞いたのですが?」


「ああ、それでか・・・」


 僕は苦笑する。その顔に、リーナは不思議そうに見詰める。


 あの頃は、僕も本当に弱かった。


「僕は、山の神に修行をつけて貰っていたんだよ」


「何と⁉」


「・・・・・・っ⁉」


 セバさんとリーナは驚いた表情で僕を見る。そんなに驚く事か?まあ、驚く事か。


「セバさんも助かって良かった。・・・じゃあリーナ、行くか」


「・・・へ?何処に?」


「決まっている。オーナー公爵の許にだよ」


 僕は不敵に笑った。公爵の陰謀(いんぼう)を打ち砕く。

ちょっとした設定。

物質界とは人間の住む純粋な物理法則の世界の事です。

精神世界とは、神々や悪魔、幻想種の住む精神の支配する世界の事です。

物質界とは異なり、精神世界では精神の働きが主に作用します。というか、精神が全てですね。

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