2、思わぬ再会
ついに再会。
「では、また何れ会おう。無銘の少年よ」
「ああ、また縁があったらな・・・」
オーガの戦士に別れを告げ、僕は神山を去った。振り向く事は無い。其処まで僕は、此処に思い入れがある訳でも無いから。決して振り向かない。
故に、此処に来る事も恐らくはもう無いだろう。
さて、何処へ行こうか?やはり、まずは冒険者の登録をするのが先か・・・。
何をするにしても身分を証明する為のライセンスは必要だろう。少なくとも、僕はそう思う。
なら、まず向かうべきは町だ。まずはギルドに向かおう。それから、次に資金集めだな。
・・・思えば、現在僕は無一文だった。よく、それで家出をしたものだ。我ながら呆れ果てる。
そう思いながら、僕は森の中へ入っていった。これからの旅に僅かな期待を抱いて。
・・・・・・・・・
・・・今現在、僕の目の前にはオークの死骸がある。それも、一匹や二匹では無い。複数だ。
「いや、もしかしなくても僕ってかなり運が悪いのか?・・・まさか、此処までの高頻度で魔物の群れと遭遇するとは流石に思わないぞ」
森の中に入ってかれこれ半時間。これで計五度目の魔物とのエンカウントだ。流石にうんざりする。
この程度で疲れる事は無いが、流石にうんざりする。嗚呼、面倒臭い。
一度目はゴブリンの群れ。二度目はオークの群れ。三度目と四度目はコボルトに。そして、五度目となる先程はまたオークの群れに襲われた。
何でこんなに魔物に襲われるんだよ?流石にこの頻度は異常だ。
「・・・ああ、もう面倒臭え」
思わず、僕は愚痴を零した。本当にやれやれだ。僕は適当にオークの肉を切り分け、袋に詰めてからその場を立ち去った。
がさっ。背後の茂みから物音がした瞬間、ゴブリンが襲い掛かってきた。
僕はそれを振り返る事無く、木剣で打ち倒した。
脇腹を抉るような重い一撃に、ゴブリンは即死した。続けて飛び掛かろうとしたゴブリン達はその光景に硬直してしまう。
「・・・本当に、やれやれだな」
僕は思わず、溜息を吐いた。直後、森にゴブリンの悲鳴が響き渡った。
・・・それからしばらく歩いていると、背後から何者かの気配が近付いてくるのを察知する。
最初は敵かとも思ったが、人間の気配の上に敵意を全く感じない。僕は気にせず歩き続ける。
やがて、その気配がすぐ其処まで近付いた時。気配の主は僕に声を掛けてきた。
「・・・あっ。あの、其処に居たら危ないですよ!!!」
息を切らした、掠れた声。しかし、何処か聞き覚えのある声に僕は思わず立ち止まる。
果たして何処だったかな?この声を聞いたのは・・・。
「・・・あ?僕か?」
もしかして、呼ばれているのは僕か?その意味を込めて振り返る。
振り返ると、其処には僕と同い年くらいの少女が息を切らせて僕を見ていた。
しかし、その目は驚きに見開かれて硬直している。やはり、何処かで見た顔だ。何処だったか?
そうだ、あれは僕が神山に登る少し前に・・・。
・・・しばらく考えていると、少女の背後から獣の絶叫が聞こえた。何だ?
「ぐるあああああああああああああああっ!!!」
「っ⁉」
驚いた少女が振り返る。すると、其処に黒い毛皮をした猟犬のアンデッドが現れた。
猟犬のアンデッドは僕達を見て、唸り声を上げる。こいつ、僕達を食う気か?
・・・本当に、面倒臭い。
「・・・やれやれ、今日は本当に魔物と良く遭遇するな」
「っ、早く逃げて。私が囮になっている間に、早く!!!」
「・・・・・・・・・・・・」
少女が僕の前へと出る。そして、両腕を左右に広げる。その瞳は恐怖で怯えている。しかし、それでも僕を守ろうという決死の覚悟がその瞳にはあった。
・・・うん、とても良い娘なのだろう。しかし、僕を甘く見られるのは正直に言って心外だ。
だから、僕は少女を押しのけて前へと出た。木剣を構える。
「っ!!?」
「おら、掛かって来いよバカ犬。お前の敵はこっちだ」
不敵に笑って、猟犬のアンデッドを煽る。愕然とした顔で、僕を見る少女。
言葉は通じない。しかし、馬鹿にしている事は通じたのだろう。猟犬は唸り声を上げ、僕を睨んだ。
少女は僕を不安そうに見る。心配は無用。こんな奴に負ける程、僕は弱くない。
「ぐるあああああああああっ!!!」
「・・・ふっ!!!」
猟犬が僕に襲い掛かる。僕はそれを正面から迎え撃つ。
一息に何十、何百と放つ斬撃。木剣にも関わらず、猟犬は何十もの肉片に分割された。
「ぎゃんっ!!?」
猟犬のアンデッドはバラバラに引き裂かれて地面に落ちた。本当、今日は良く魔物に遭遇する。
僕はうんざりとした溜息を吐いた。
「・・・・・・・・・・・・」
少女は呆然と僕を見ている。やはり、何処かで見たような気がする。
一体何処で会ったのか・・・。考えていると、不意に僕の脳裏にかつての少女の顔が過った。
「あっ‼もしかして、君はリーナか?あの時、山賊から助けた」
「っ!!?」
少女、リーナは一瞬びくっと肩を震わせると、その瞳に涙を浮かべた。
・・・え?涙?
「・・・ひっく。・・・えっぐ。ううっ、・・・うええっ」
「は?ちょっ‼」
リーナはいきなりその瞳から涙を溢れさせ、泣き出した。流石の僕も、こればかりは慌てる。
・・・ていうか、流石にどうしろと言うのか。とりあえず、袋から綺麗な布切れを取り出してリーナの涙を拭いとる。ああ、もう面倒臭え。
どうしてこう、面倒ばっかり。僕は思わず、嘆きたくなった。
・・・・・・・・・
「・・・・・・泣き止んだか?リーナ」
「・・・・・・・・・・・・うん」
あれからたっぷり一時間くらいは過ぎたか。ようやくリーナは泣き止んだ。
しかし、代わりに僕にしがみ付いて離れない。放してくれない。
・・・いや、それにしても何だ。
「・・・・・・いや、本当に育ったものだ」
「っ⁉」
僕がある一点を見てしみじみと呟くと、リーナは顔を真っ赤に染めた。うん、まあごめん。
けど、さっきからずっと当たっているんだよ。何処がとは言わないが。うん、柔らかい。
まあ、それでも僕を放さない辺り、流石と言おうか。何と言おうか。
「・・・・・・とりあえず、放してくれないかな?」
「っ⁉」
リーナは酷く傷付いた顔でいやいやと首を横に振った。いや、そんな可愛い顔をされてもなあ。
僕は溜息を吐いて言う。
「大丈夫だから。もう、何処にも行かないから・・・」
思わず、そんな約束をしてしまう。まったくもう。
「・・・本当に?ずっと私と一緒に居てくれる?」
「ああ、本当だ。だから、とりあえず放してくれ」
そう言って、僕はリーナに微笑み掛けた。リーナは頬を真っ赤に染める。・・・ちょろい?
僕は少し、リーナが心配になってきた。
・・・まあ、ともかくようやくリーナは僕を放してくれた。うん、ようやく離れてくれた。
で、だ・・・。
「ところでリーナ。何故、リーナはこんな所に一人で居るんだ?セバさんは?」
「っ⁉」
瞬間、リーナの顔が強張った。うん?何か、マズイ事でも言ったか?
「・・・・・・何か、あったのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
リーナは気まずそうに視線を逸らす。その反応に、やはり何かあったらしいと察する。
・・・やれやれ、本当に。つくづく僕は甘い性格をしているようだ。
僕は苦笑を浮かべ、リーナの頭を撫でた。リーナが僕の顔を見る。
「うんまあ・・・なんだ、何かあるなら相談に乗るからさ。とりあえず話してみろ」
「・・・っ、あ」
その極めつけに不器用な物言い。リーナはその瞳から涙を零した。
うん、まあ・・・。とりあえず此処は胸の一つでも貸すのが男の義務なんだろうなあ。
・・・はあっ、やれやれ。僕はうんざりとした溜息を吐き、リーナを抱き締めた。
そして、しばらくした後。
「私の家は、公爵家によって没落させられました。じいやは私を逃がす為に、両親と共に犠牲に」
リーナは苦渋の表情でそう告げた。
ちょっとした設定。
現時点で固有宇宙に覚醒しているのは主人公を含めても三人しか居ません。